第31話 魔物の感情
ビルの入口は雑然と荒らされていた。開閉式のガラスドアは大半が割れている。
「おー。荒らされ放題だ」
「おそらく魔物でしょうね。あれだけうろついていましたし」
「中に大量にいたらどうしよ」
などとエルフは委縮した。だが調子が軽い彼の言葉はすべてが冗談だ。
「ふざけてないで行きますよ」
「はーい」
エルフのいたずらな返事。彼が死にそうになっても絶対に気にかけないとヒマリは思う。
「そんな目で見ないでよ」
「大丈夫です。あなたを見る目は最初からこれですから」
「ははっ。手厳しいなぁ」
冗談を通り越したことがわかり笑うエルフはしゃがみこんで話題を変えた。
「それより、これ見てみて」
「・・・・・・なんですか?」
呼び止められ、仕方なく彼が指さすところを眺める。そこにはガラスが四散し飛び散った破片があった。それ自体は普通のことだが。
それを見てあることに気づく。これらの破片は大方屋外に向けて飛び散っていた。
「これは・・・・・・魔物はここから突き破って出てきたってことですか?」
「そうとしか見えないかなぁ」
やはり魔物の発現元はこのビルだった。おそらく魔物を生み出していたのも最上階にいる人物だ。
あからさまに魔物の姿が見えなくなったのも数を調整されていたのだろう。
「ならもう魔物と戦わずにすむかな?」
エルフが一足先に壊れたガラスドアを引いて中に入る。その後を追う。灯りが無く明瞭に見ることはできないが魔物は見られない。
「ひとまず安心。よかったー」
多かれ少なかれ魔物との戦闘は避けたいことであるのにかわりはない。その分の体力も、魔力も、あまり残されていない。
だがヒマリはそれを否定するように聞いた。
「・・・・・・ほんとですか?」
「えっ?」
異を唱えるその視線の先には不明瞭ではあるものの何かの影があった。その先の威圧感に気づく。吹き抜けの構造に反射的に上を向くと、最上階を守るように翼を広げるグリフォンの姿があった。
「・・・・・・あちゃー。やっぱりいるんだ」
「もう敵意ありの目つきで睨んでますけど」
その眼光には図らずとも怒気が含まれているのを感じる。このグリフォンは生み出された魔物のばずだが。
「ただ操られてるわけでもなさそうだな・・・・・・」
生み出された魔物が感情を持つことはない。ただ主が指示したことだけをすべてと思い込み、文字通り操られるだけだ。
このグリフォンも同様にビルの最上階にいる者に操られている。指示を受ければこちらに襲いかかってくる。
だからこそグリフォンがまとっているただならぬ怒気は理解しがたいものだった。
「なにをそんなに怒るのかな」
「私たちが勝手に縄張りに入った、とかは?」
「たぶん、違う。」
あの魔物が守るよう指示されているのは生み出した主であり、この場所ではない。おまけに操られている魔物だ。縄張り意識を持つことは絶対にない。
「でも、理由はあるんでしょう?」
「・・・・・・あれだけ熱い視線を送られたらねぇ」
まだ襲いかかってこない。理性を抑えられる頭の良い魔物だ。だが、もう来る。
グリフォンの怒気を含んだ威圧感は徐々に勢いを増していった。
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