第30話 あなたの真意

魔力を感知したビルの前に着く。道中、時間はかかったが魔物との遭遇は不自然なほどに無かった。


中央部のビルはどのビルよりも高く、高層階の造りになっていた。もうここからでは最上階が見えない。


「いやぁ、高いね~。こんな建物この世界には無いよ」


「さすがに見慣れてはいますけど、ここまで高いのは少ないですよ」


「あれ? そうなの?」


「ええ。そうです」


魔力の主はわざわざ高いビルを選び、その最上階に潜伏していた。分かりやすい場所に居座り、おびき出すための罠なのか。ただ時間稼ぎをする必要があるのか。


どちらかは全く分らない。なにせ面識がない相手なのだ。そんな事を思うと今更ながら理不尽な接触をされたものだと苛立ちを覚えてしまう。


エルフは腕組みをしながら言った。


「せっかく来てあげたのにこの上で待ってる人は、さらに登らせる気なのかな?」


「おそらく・・・・・・。魔物さえ出てきませんし」


「う〜ん。なんにせよ登ってほしいみたいだね。とりあえず中に入ろう」


と言って組んでいた腕を威勢よく上に伸ばし、彼は整然としたビルの中に入っていく。この先に行けば二つの選択肢がある。


友好的な話し合いができる相手ならば戦わない。


もし相手に敵意があるとするならば戦う。そうなってしまえばそれはやむを得ない。だが、それはこちらのほうが断然不利な戦いになってしまうだろう。


彼は命の保証をしていた。そうなった場合、また先日のように緊急に退ける魔法でもあるのだろうか。彼は自身が護る仲間にすらそれは伝えていない。


そのような魔法を隠していたとしても、この先では無意味になる可能性もある。なにせこの先いるのは彼以上の力をもった者なのだから。


命の保証など存在しない。


少女は引き返したい気持ちを声に出して彼に叫ぼうとするが、それをすれすれのところでそれを抑えた。


声に出してしまえばこれまでの覚悟は無意味になってしまう。


エルフは少女の足が止まっていることに気付き、薄目で背後に振り返った。


「・・・・・・」


「怖い? そうだね、それは普通のことだ」


人の心の内をすべて見透かしているような目だ。それなのに彼の心の内は全く見えない。


「あなたは怖くないんですか? 死ぬかもしれないのに」


「どんなに怖いことでも・・・・・・死ぬことさえも、その時になれば案外受け入れられてしまうものだからね」


肩の力を抜いた言葉。その言葉はもうただの虚勢にしか聞こえなかった。


「死んだことない人が強がらないでくださいよ」


「ははっ。きついねぇ」


だが少女は強がって足を動かす。地面に打ちつけられたような重い足を。


「・・・・・・そう。それでいい。少なくとも強がったほうが、体は動く」


そう言う瞳の奥はどこか頼りなく、彼は静かに笑った。

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