第27話 導き
この光景に懐かしむ余裕は無かった。目が覚めたら巨大なビル群が物言わずに建っていた。距離はどのくらいか・・・・・・、おそらく一キロメートルくらいだろう。
「行ってみる?」
とエルフはこの光景を物珍しそうに眺めながら言った。
「なんでそうなるんですか。絶対にあんな奇妙な所には行きたくないですよ」
あれは幻覚などではない。ここからでもはっきりと視える。鉄筋の光沢、建物全体を支える継ぎ目一つ一つの骨格が。
「さっきも言ったけど、あの規模の物体を一瞬で特定の位置に存在させることができるってことは相当のバケモノが元凶だよ」
「あなたはそのバケモノの元へわざわざ、出向きたいんですか」
「嫌だよ。でも行かなきゃならない理由があるからね」
と首を横に振りながら言った。
理由があるという。その言い回しに少女は悟った。彼の言い回しではあそこへ出向くことは既に確定事項となってしまっているらしい。
「理由ですか・・・・・・」
「聞きたい?」
「もちろん。聞きたいです」
少女がその理由を聞くと、彼は指を折りながら話した。
「そうだねえ。まず一つ目、強大な未確認術者は放っておけないから。二つ目、もし別の世界の造物を無理矢理持ってきてたら面倒だから。三つ目、そもそもこの荒野から抜け出せなかったのはあの術者のせいだから」
エルフは笑った。
「分かった?」
「・・・・・・ちょっと待って下さい」
一気に情報を聞かされたせいかすぐに整理がつかない。彼も少女の反応を待っているのか黙ったままだ。しばらく頭の中を整理する。
先程の情報を自分なりに落ち着かせると、再びエルフは視線を合わせてくる。
「どう、理解した?」
「ええ。私にとっては前者二つはどうでもいいことですけど、三つ目の理由は大いに関係ありますね」
「でしょ。そう言うと思ったよ」
エルフがにやっと笑うと、少女は聞く。
「詳しく説明してください」
「いいよ」
彼は気の抜けた返事を返すと、記憶を辿りながら言った。
「まあ簡単に言えば、この荒野全体に僕らが抜け出せないようにする魔法が貼ってあったんだ」
そして彼はヒマリが睡眠をとっていた間に違和感を感じ、外部の干渉がないか調べていたのだと言う。
「・・・・・・つまり、それがなければとっくに抜け出せている筈だったということですか」
「簡単に言えばね。で、そんなことする意図を本人に確認したほうが良くない? 僕らのためかもしれないし」
「私たちのため?」
「いっぱいあるでしょ。ここを抜けると危険だから、とか」
と、言うと立ち上がりあそこへ行こうとする。止めたところで、どのみちなにを言っても、彼は行くだろう。それよりも今は彼についていくより、安全な道は無い。
少女も立ち上がりエルフについていく。
「わかりました。私も行きます」
別世界に飛び、数十時間。正面を覆い尽くす未知の地帯に導かれるまま少女は歩いて
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