第25話 夢
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・・・・・・目を閉じれば、現実のことは全て忘れられる。自分だけの世界に閉じ籠もっていられる。
一時の別れだ。自身の常識では通じない世界に転移し、冗談ばかり並べるエルフがいる現実から。
この世界に来たことに対しては何とも思っていない。けれど、前の世界に未練が無さすぎるこの感覚も否めない。
私を取り巻く環境は「私」を絶対に必要としなかった。
親友はいたが両親は既に他界し、数少ない近親である祖父母さえもいつ亡くなってしまうかだった。
それでも後悔があるとすれば、その人たちと満足な別れをすることできなかったことだろう。
・・・・・・突然の出来事だった。
気付いたらこの世界に転移していた。どのタイミングで転移したのか、私がいなくなる瞬間を目視していた人はいたのか。
それらは全く解らなかった。
思い残したことを考えるとキリがない。
だがどれも、このようなことになっては知りようが無い。元の世界に帰れるようになった時、あっちがどれほどの時が経過しているかさえも分らない。
ただ私の中で一つだけ変わらないことは、
元の世界に帰れるその時を、標としてこの世界で生きていくことだ。
それは変わりようがない。もういいだろう。
さあ、意識をもっと深くへ。
埋もれてしまうところまで。
遥か底まで―――。
ここへ来て、初めて夢を見た。
この状況からは考えられないほど甘い夢だ。
夢自体は元の世界で何度も見ていたから、注目すべき点はそこではない。注目すべきはその中身。
数少ない両親と私が関わった時間を辿る夢。こんな夢は元の世界では一度も見たことがなかった。
だから夢だと思い出した瞬間に、驚き、笑ってしまった。「なぜこんな夢を見た?」頭の中でその問いが無限に交錯している。
これからの旅に無意識な不安を抱いていたのか、その不安を払拭させてくれる存在を捜していたのか。
答えとなる理由は必ずある。だが存外、本人でもその答えは見つからない。
それは心の奥底に沈み、静黙しているのだ。
生きていれば、いつか答えが見つかるかもしれない。でも生きていても、答えは見つからないかもしれない。
・・・・・・正直、どちらでもいい。
答えは見つかったところで、夢の範疇でしかないからだ。そんなものに存在を縛られるより、夢で終わらせたほうがよっぽど良い。
彼女は漫然とした夢を思考の片隅に寄せる。
それが彼女にとって必要不可欠なものになるのはもう少し旅が進んだ後のことだ。
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