第24話 深い眠り
深い眠りにつくと、同時に意識が現実に戻り辛くなる。意識というものは落ちることは容易だが、自発的に這い上がろうとするのは困難だ。
夢から抜け出す方法は、その身に任せ目醒める時を待つか、あるいは外からの刺激を受けるか。
そのくらいだ。
自分の意志で眠りから醒める、その行為には常に厚い壁が周りを取り囲んでいる。
そして、眠りが深い程その壁も厚くなる。
「ふむ、もう完全に寝ちゃったか。やはり疲れを蓄積しすぎると寝るのも速いし、覚醒するのも中々簡単じゃない」
エルフは人差し指を唇にかける。
これは彼が自身の過去の出来事や経験を再度思い出すときにやる癖だ。
・・・・・・昔、一年間、運動や思考など生きる行為による疲れを他人に蓄積させ生活した男が居た。
その男にはとにかく常人には計り知れないような膨大な時間があった。不老不死による寿命と見た目の不変。
人間にはたどり着けない境地に至ることを望んだのだ。
そして疲れの蓄積の許容量の実験にも手を出したという。この問題さえ制してしまえば、時間を効率的に活用できたからだ。
当の方法を思案すると男はすぐに実験に取り掛かる。
規則的に疲れの蓄積量に対する身体の反動、そのデータを記録していく。
一週間、二週間、三週間・・・・・・。
一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月・・・・・・。
どのくらいの期間、蓄積すれば周期として、効率的という面で見合っているのか。
男はそれを探した。
―――結果的に一年間蓄積したところで記録は止まった。だが、そこが最適解ではない。
記録が止まったということは実験をそこで打ち切りにしたということだ。なら何故そこで打ち切りにしたのか。
「答えはもう男が記録を、実験をできる状態ではなくなってしまったから」
・・・・・・一年間。一年間疲れを蓄積すると、その疲れの発現元である当人は意識を一生手元に戻せなくなってしまう。
男は意識を失ったまま、いつになろうとそのままになってしまった。
それは死んだも同然だった。
「こんな怖い話があるんだからねぇ・・・・・・」
だからある程度まで蓄積したら一度、解消しなければならない。詰まる所、一定期間何かをぶっ通しで行う時にしか用いられない術だ。
身体の感覚を麻痺させ無理矢理覚醒させ続ける、そんな劇薬も同時期作られたが、似たようなものかもしれない。
エルフは小さく蹲り眠る少女を静かに注視する。
「この程度の期間だったら、意識無くなることはないと分かってるけど」
とはいえ、彼女は元の世界でこんな経験はしてこなかっただろう。
一時に何時間もの疲労感が一気に容赦無く押し寄せてくる。それは、波のようで必ず最初は怖気づいてしまい飲み込まれる。
だがこの量であればそれもまた、時間が解決してくれる。
その時を待つだけ。
「さて、ゆっくりおやすみ。君は今どんな夢をみているんだい?」
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