第21話 世界のチガイ
劣世界から元の世界に戻る方法。「出口」へ向かう事を提案したシヤは荒野の地平線を眺めていた。
再出発してから二時間は歩いた。だが、未だに乾いた荒野から抜け出せていない。
何か生物らしきものの痕跡は道中見当たらず、ただひび割れた大地が続いているだけだった。
つまり、どれだけ知能が低い生物であろうとここには足を踏み入っていない。ここは広すぎる、だけの死地ということになる。
シヤは一歩先を足早に進むヒマリに対して苦笑しながら呟く。
「ねぇ」
「なんですか?」
「僕らさ、どのくらい歩いた?」
すると、ヒマリは振り返りざまに細い指を折りながら数えた。
「多分、ざっと二時間弱ってところだと思います。・・・・・・というか、私より先に疲れてるんですか?」
「悪いけど僕の足たちは軟弱でね。その点、君は体力がそれなりにあるみたい」
「このくらい普通だと思うんですけど」
と、簡単に返されたエルフは「うぇー」と唸り、肩を落とす。
「・・・・・・生活の仕方の違いかなぁ〜?」
―――どうやら彼女の世界では人は幼少から盛んに外に出ては体を動かす事が一般のようだ。人として成熟するまでに一定の体力がついている。
一方で、この世界には誰もが修練や研究を積み重ねれば体得できる魔法という存在がある。それこそ転移魔法が良い例と言える。転移には魔力色という一つの土地固有の座標のような指針があるのだが。
自身が訪れたことがない土地であろうと、誰かが歩いてその地へ行き、魔力色を記録する。その上で記録集を製本し、出版する。
そういった種本は店頭に並びやすく、対価とする価格も安い。そうすれば万人の懐に入りやすく、訪れたことがない土地にもその本を閲覧し転移魔法を使うことで軽々しく行けてしまう。
その公平な存在は便利ではある。だがそれ故に衰退していく面も無論あるということだ。
―――「なんか、聞けば聞くほど私の中での魔法の存在が肥大していきます」
「この世界では一般な事だけど、君からしたら特別に聞こえるかもね」
「では質問してもいいですか?」
ヒマリが聞く。エルフはわざとらしく腕を組んで鼻を高くする。
「ん? 何だね? 何でも聞き給え」
「・・・・・・なんですかその仕草は」
「昔の友達がよくやってた」
「あなたの友達は学校の教授か何かなんです?」
突然の冗談にヒマリは呆れたようなる。彼はあいも変わらず笑っているが、もう一度聞き直した。
「それで、質問です。魔法は誰がなんのためにどうやって創ったんですか?」
エルフは顔を戻すとすぐに眉根をひそめ黙る。しばらく硬直の時間が流れ、彼は口を開いた。
「・・・・・・創ったのは神サマだけど、所詮僕もその人に創られた存在だから。なんのために、どうやって、とかは全く知らないなぁ」
「ですよね」
この世界において外部の存在はヒマリ一人だけだった。確かにそこも考慮すると、彼が知らないことは絶対的に神に訊く以外、知る方法は無いのかもしれない。
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