第19話 劣世界
「はぁ、まいったな」
「まいりましたね」
口を揃えて路頭に迷ったような発言をする二人は薄暗い荒野の真ん中に立っていた。
「ねぇ、ここ何処?」
エルフは悪戯っぽくヒマリに質問する。彼の顔はニヤけが張り付いていた、そんな事彼しか知るわけがないことだからだ。
「あの、ふざけてます?あなたの魔法でここに転移してきたんでしょうが」
「あ・・・・・・、やっぱり怒る?」
「怒りますよ。こんな変なところに転移したんですから」
先刻までいた所とは全く違う。何が違うのかは誰がどう見ても同じく答えるだろう。微かに茶色味がかった薄暗い空、そのさらに一段上層には半透明な膜のようなものが張っている。
此処の異質さに警戒を憶えるヒマリの内心を読み取ったのかエルフは話し出した。
「えっとね、さっきの転移、半分賭けみたいなものだったんだ。だからほんとに此処に転移したのは予想外」
「賭け、とは?」
「あの転移魔法は転移先がランダムでね。その代わり、気配が感知できない程の距離を移動できるものなんだ」
「・・・・・・なるほど」
転移先がランダムとなると予測ができないのも無理はないのかもしれない。彼でもさすがに確定した未来を測ることはできない。
だがそれなら転移先が決まっている転移を使えばいい話だ。そう考えるヒマリに笑いながらエルフはその考えに相反したような事を言う。
「これも訳があって、転移先が決まっている転移魔法は無いんだ。この話題は複雑な魔法式の論になっちゃうから暇なときに説明するけど」
彼の様子から察するに予想外な所に転移し、悠長に語る暇はない、ということらしい。
「じゃあ次、此処のことは何か知っていたりするんですか?」
「うん、もちろん。来たのはまるっきり初めてだけどね」
このエルフさえ知見したことがない場所では常に警戒心を携えておくことが必須だろう。・・・・・・それでも、勝てない敵に遭遇するよりは全然良いのだが。
「ここは劣世界って神サマが言ってたよ。さっきまでいた世界から部分的に色々な機能が低下したもう一つの世界らしい」
「・・・・・・色々とは?」
「一番分かりやすいのは太陽だね」
エルフは空を見上げ、指差す。宇宙すらも世界の一部らしいが、太陽らしき光を放つものはどこにも見当たら無い。
「あの、薄暗いですけどそもそも太陽なくないですか?」
「ん!?本当だ!」
「その情報、確かなんですよね?」
「そのはずなんだけどな〜」
いつものことだ。まだ彼の情報はまったくもって信用できない、という呟きをヒマリは押し殺した。
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