第18話 疑念

藍色の空の下、雲海の端を翔んでいるのは竜王に最も近い竜人・・・・・・、竜王宰相のリヤ・ラシカである。


女性らしい妖艶な顔立ちに華奢な躰。その者の紅い翼はその見た目通り、竜と同じ役割を持つ。竜人の国は天空に築かれている、大陸をゆうに両断するほどの「絶海溪谷」の丁度真上に浮かんでいるのだ。だから竜人の国と呼ばれている。


リヤ・ラシカは竜国の中でも屈指の良家の出で、その分だけ竜王への忠誠はどの竜人よりも厚い。

だが、その永年の忠誠を以ってしても拭い切れない王への疑念があった。


「竜王様は何故神を殺す選択をなされたのか」


それは当然、これ以上同胞の命を無為にしたくないのだろうが、、、人並み以上に温和なお人柄である竜王様が手荒な真似をなさるはずがない、と考えるのだ。


それこそ多くの民が危険にさらされてしまうだろう。今までに神に歯向かった種族はいない。つまりあの神の強さを誰も見聞したことがなかった。


神との全面戦争に突入すれば障害がない天空に築かれている我が国は一番の的になってしまう。いずれ滅びることは必至だ。


・・・・・・で、あるならばあのエルフに協力を仰いだのも納得ができる。彼は神との間で「何か」を隠している。竜王様ですらその「何か」に幼い頃から危機感を募らせていた程のことが。


「・・・・・・」


リヤは視界を遮断し、小さく息を吐く。竜人である以上彼女が竜王の命に準ずることは当然だが、刻々と彼女の瞳には憂いともなろう念が溜まっていっていた。


◇◆◆


サクッ、サクッと足元で野草をかき分ける音が、ただ一つ静としている森に響き渡る。森には動物という動物がいない、在るのは植物達だけ。


普通であれば何か強大な魔物の縄張りなのか、はたまた動物は住めない環境なのか、そう考えるだろう。


だが、違う。であれば、何故か。それは動物が「この世界」には少ないからだ。ここは劣世界。


神の元で生まれたもう一つの世界、現在管理者が管理している世界とはまた異なる世界。


世界は死ねば、また時間を置き生まれる。だから二つも世界はいらない。だが、今こうして存在している。神の犯した間違いではない。


「・・・・・・そう、世界はある時を堺に二分された」


黒衣を纏っているその女は恨めいた瞳で朝焼けを見つめ、言う。まるでその奥の外側を見ているかのように。




ああ、可哀想に。あの神に追いやられた者だけが行き着く世界、「劣世界」として存在させられているなんて・・・・・・。


ああ、可哀想に。


私が救ってあげる。


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