第17話 暗躍
竜人は口に手を当て、微笑してからある提案を持ち出してきた。
「我らと共に神を殺さないか?」
「・・・・・・それ、意味分かってて言ってる?」
エルフは冷めた物言いで返した。神を殺すとは竜人族がこの世界の最上の座を獲ろうとしている何よりの表れだ。
「然り、これは竜王様のご意向だ。それに神は世界の維持が危惧された時でさえ、ただ傍観していた」
「本当にそうなのかな?」
「そうだ。世界がいかなる状況でも我ら管理者に丸投げし、私たちの同胞もまた犠牲になった。訊けば貴殿の友人もいつかの世界で犠牲になったそうではないか」
ヒマリは「えっ」と声を漏らし、驚愕する。だがエルフは即答し否定した。
「今その話を持ってくるのは少し無粋じゃない?大体、本当に神に反旗を翻すなら一人でやるよ」
竜人はその答えを聞くと「そうか」と目を細め、黒い身の直剣抜く。どうやら神を殺す計画が漏れたらまずいらしい。
「・・・・・・交渉は決裂と取らせてもらう。友を失った貴殿ならと思ったが、、、ここで始末するしかないようだ」
「う〜ん、お約束だね〜」
先刻とは打って変わって陽気な態度になるエルフに対し竜人の威圧に怯えたヒマリは彼の肩を揺すり慌てる。
「お約束だね〜、じゃないでしょう!」
「あははっ。ごめんごめん」
「随分と余裕を見せてくれる。実力で言えば私のほうが貴殿より上だが、それを理解してのことなのか?」
竜人は冷たい剣先をエルフに向けると一歩前に出て笑みを浮かべる。
「まぁ確かに君が本気になれば僕たちなんて一瞬で真っ二つにできるだろうね」
そう彼は言う、自身のほうが弱いと。その上で彼の手中には画策がある。そうでもないとこれ程、戦闘時に吹っ切れることはできない。
「何を隠している?」
「なんだろうね」
まず彼らには竜人は倒せない、今更話し合いで片を付ける気も彼にはないだろう。いや、、、最初から戦闘に持ち込むことを想定していた。
だからここまでの流れが不自然にならないように敢えて最初から不遜な態度を取っていた。なら、次の行動は「逃げる」。
「逃げる、か。そうはさせない」
竜人は全身に力を入れる。おそらくこれが今の戦闘において唯一の予備動作、強化魔法無しの規格外の身体能力。
ヒュッ、と風を切る音が鳴る。竜人との距離は声がようやく届く程の差だ、間合いとしては十分すぎる。だが、疾い。竜人の剣が二人の胴に触れるまで一秒も保たないだろう。
「でも残念。こっちの魔法はもう発動してる」
「なに!?」
エルフは口元を緩ませ言う。切っ先が彼らに触れることは叶わなかった。光が散り、二人の姿は消え、先刻まで静寂であった空を切る。
「まさか・・・・・・。逃してしまったか」
これは転移魔法だ。通常、転移魔法で消えようとと気配が感知できるはずなのだ、だが・・・・・・。
「気配がしない。転移先は相当離れている、か」
気配が感知できない程に離れているとなると、相当高位の転移魔法だ。今思えば、話している最中も魔法陣の構築をしていたということになる。
「逃げることは彼にとって私と会った時から確定していたのか・・・・・・。大事をとるしかない、早く竜王様の元へ戻らねば」
竜人は自身の躰と同等の大きさの翼を広げ、天高く翔び立った。
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