第15話 騒がしい洞窟
しばらく熱風を送り続けると湿っていた紙は極度に乾燥していく。ただ手は乾かない。彼は空気中から水分だけを取り除いたものを、風として送っていると言っていた。つまり別の魔法で手回りに結界か何かでご丁寧に保湿しているのだ。
ヒマリは魔法陣を展開しているエルフの手元を覗き込む。右手だけで二つの魔法陣が作用している。
「片手だけで魔法を二つも使ってるんですか。あとどれくらいで終わります?」
「あと三十秒」
「!、意外と早く完成するんですね」
「そりゃ、これでも最大出力で回してるからね」
見た目は小柄な魔法に見えるが、三つも魔法を同時使用しているのだ、魔力の消費は激しい。並の魔法士ならとっくに息切れている。
「これでも結構難しいことしてるんだけどねー」
エルフはそう呟くと手を止め、「ふぅ」と息をつく。
「完成ですか?」
「大体はね。あとはこのガラスケースに入れて完成。まぁこの作業は簡単だからお願いね」
ヒマリは板と紙を花弁が破れないようにそっと剥がし、差し出されたガラスケースに密着させるように入れる。カチッと、音が鳴り洞窟の天井に反響した。彼女はスカートのループに金具を引っ掛けるとシヤに向けて問う。
「どうですか?」
「うん、いいね。ちょっとこっち来て」
座り込むエルフは手を上げる。手招きし、こちらに来るよう促してくる。ヒマリは首を傾けながらも彼に近づく。エルフは彼女の押し花が入ったガラスケースに身体を寄せて優しく包み、目を閉じた。
祈りに見えるそれは美しく、その意を汲み取ったヒマリも衝撃的な感情を抑えただエルフの行為を見守った。
しばらく静観が続き、エルフは祈りを終えるなり懐中時計を取り出し時間を確認する。既に月が姿を現している時間だった。予定ではもう少し早く終わるつもりでいたが予定通りにはできなかったようだ。
「はぁ〜。もうこんな時間だよ」
「そうみたいですね。どうします?」
「もちろん早くこんな洞窟抜けて、次の目的地へ旅を再開する」
エルフは地図を取り出す。劣化の影響で見るからに古い物だということが分かる。
「ルートは君が寝てる間に先取りしといた。次はここだよん」
「はっ?遂に頭がおかしくなりましたか?」
「なんでなんで。酷くない?」
エルフは真顔で物言う。だが、おかしい事は嘘ではない、なぜかというと・・・・・・。
「その目的地って、空の上ですよ」
「そだよ」
「船に乗る前に私に提示してきた場所は、全部陸だったじゃないですか!」
「予定が変わっちゃった。ごめんね」
少なくとも今の彼の態度からは、反省している様子は伺えない。しかも寝ている時なのだ、ルートを確定したのは。
「この計画って、ずいぶん前から立ててたんじゃないですか?」
「余計なことは気にしない、気にしない。それでは出発!」
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