第14話 小さな謀

誰かが話している。大切だった、懐かしい声で。


―――シスラスは何をしようと必ず百年経つと、崩れて死に、その年月の中で一度だけ花弁の色が紺色から別の色に変わる。


シスラスがどんな苦環境でも生きられるのは、栄養の代替として魔力を吸って成長していくから。


生物学的には育った環境や、商品として行き着いた地域の魔力の違いで色は異なる。同じシスラスでも、売られている場所によって色が異なることは必然的なことと言える。


色は多種多様、同じ魔力が流れている土地は確認されていないから、大体の国の象徴色はシスラスの色から取られている。


国同士で王族が結婚する際に交換する花でもあるんだ。と、まぁこんな感じかな。


あっ、そうだ。


最後に花言葉は「わ・・・の・・・」―――


・・・・・・エルフが抱える友人からの押し花の色は、変化していない。これは不吉な出来事を示していたのか昔から心の奥底で引っ掛かっていた。だから彼は誰かに贈ることで新しい色を見れるのではないかと、期待した。


花程度のことで焦燥に駆られていたのだと自覚した自分が可笑しく、彼は思わず笑う。


「どうかしました?何か面白い事でも?」


「いや、何でもない。ただ慎重に扱わないと花が破れちゃうから気を付けないとなって」


「確かに。慎重にいきましょう」


彼は粗い岩肌を覆うようにカーペットを敷き、指差し座るよう促す。


そして絵描き用の紙と、同様の大きさの板を取り出した。板の表面は滑らかに削られていた。


ヒマリは座ると眉をひそめて言う。


「・・・・・・板はともかく、そんな絵を描く紙で良いんですか?」


「これしか紙が無いんだよね。僕に言われても困っちゃう、でも魔法使えば何とかなるから」


「何とかなるって・・・・・・」


「まぁその大前提として、君にも手伝ってもらうから、そのつもりでね〜」


と、彼は花弁が破れないよう絵描き用の紙に水分を含ませ花を付けていく。慎重に、丁寧に触る。

ここは完成後に響く最初で最後の要所だ。


彼女もこの緊張感に巻き込まれたのか、花一点だけを凝視している。まぁ彼女としてもこれは一生残る物だ、綺麗なまま保存していたいだろう。


「そんなに緊張しなくていいよ。ミスするつもりはないし」


「ミスはつもり、で防げることではないですよ」


「ははっ、その通り」


苦言を呈すが、それでも大切な場面で冗談を言える程の力量が彼にあるのは本当だと思えるのも、また確かだ。


紙に貼り付け終わる。手を引き、曲がっていないか確認する。


「良いね。完成形はこれ。じゃあここからお手伝いのお時間だよ」


「その言い方は少し鼻につきますが、何をすれば良いんですか?」


「僕が今から炎魔法と風魔法でちょっと熱めの熱風を送るから、耐えて板で押さえておいて」


・・・・・・この役回りが一番苦だとヒマリも察した様子だった。だが、それを流すようにエルフは紙で挟んだ花を更に板で押さえ、彼女に差し出す。


「お手伝い、してくれるんでしょ」


ヒマリは謀られ、仕方ない、という顔で受け取った。

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