第13話 シスラス


「まさか、こんなにも台座が周りの岩場と同化しているなんて」


「確かに。これはやり過ぎだ。うーむ、魔法を創り変えた事は吉だったね」


相変わらずの笑みを浮かべる彼を横目にし、ヒマリは周囲を確認する。


「多分貴方だけですよ。洞窟全域を照らせるように大魔法に創り変えるなんて。それに、魔法書店に居た人も驚いてましたよ」


この世界にある魔法は、全部あの神が創り出したものだ。だが、それに近い存在の彼なら創り変えることも案外容易だったのかもしれない。


二人は一つ目の時と同様、台座に魔力を流した。すると、洞窟を形作っていた岩石は共鳴するように微細な光を漏らす。


「わっ!これ何ですか?」


彼女はこの世界特有の現象に鋭敏に反応した。


「この洞窟の岩石は魔力を宿した鉱石を含んでてそれと一体化した台座の魔力に反応してるみたいだね」


この景色は壮観で、浮き世離れしている。エルフは休息の時間を所望し、丁度良い岩に座り込んだ。


この洞窟に魔物はいない。ヒマリも体を落とそうとする。その時一輪、台座と岩の境目に割って入るように咲いていた花が視界に入る。


「シヤ、この花知っていますか?」


彼女は花弁をつつきながら、エルフに問う。


「んー?どれどれ。あぁこの花はシスラスだね」


「シスラス?」


「うん。どんな環境でも枯れることなく咲いて、美しく咲く花」


「へぇ。よく知ってますね。そう言えば貴方の腰のそれも同じ花ですよね、押し花ですか?」


彼は初めて会った時から、シスラスの押し花が入ったガラスケースを腰に着けていた。だからこそ彼に問いを投げた。


彼はそのケースを優しく、そして余すことなく撫で回しながら答える。


「これは昔の友人と作ったもの。でもその後すぐ僕の前からいなくなった」


「・・・・・・死んだんですか?」


「そう。ずっと前のこの世界で。そのエルフは優秀だった、神にすら届くと言われていた」


重々しい空気が一瞬漂った。管理者の立場でも死ぬときは死ぬ、たとえどれだけ強くても。だが、生きたいのなら手はある。


―――それは神ですら意表を突ける強力な手が。


エルフは右手を密かに強く握り、ヒマリの視線に気付くと悪戯に笑う。一方彼女はそんな事、聞かされていないと言わんばかりに彼を見つめた。


彼はそんな不安を肯定し、打ち消すように屈んでシスラスの根元を一度叩き言う。


「この世界で君は死なせない約束だからね。僕はどんな手を使ってでも約束は守る主義なんだ」


「・・・・・・その言葉は本当と受け取っておきます」


「それよりもさ、この花で同じように押し花作ってみない?いつか君が帰るときの贈り物にさせてよ」


「ふふっ、わかりました。良いですよ」


彼女は笑いながら了承し、立ち上がる。それにエルフは微笑み、強く咲く一輪の花を摘んだ。

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