第12話 古き記憶

目当ての魔法書が早く見つかったからか、時間はそれほど経ってはおらず、ようやく日は南の空に上がってきていた。


エルフはあの青年から、まだ読めない文字が並ぶ魔法書を是非解読してほしい、と一冊手渡されている。


エルフは基本長生きの種族と呼ばれており、寿命はあれど竜族と並ぶ程の永い時間を生きる。だから、その分知識もあるのだろうと踏んだらしい。


正直、第三者から観ても頼まれごとはあまり引き受けないように取られる彼だが、今回は何故か萎縮せず引き受けていた。


ヒマリはまた何か企んでいるのではと、考えながら苦笑する。


二人は魔法書を買って外に出た。エルフは腰に下げたポーチに二冊の魔法書を軽々しまっている。


とても大きくはないが・・・・・・。


「・・・・・・その袋にも何らかの魔法がかかっているんですか?」


「ん?そうだよ。大体こういうのは魔導具って言ったりする」


「一定の式を魔力で普通の道具に埋め込んで作るんだけど、元々魔力が無いものに流すと反発が激しいから意外と作るの大変なんだよ〜」


確かに商業地区に魔導具を売っている売店は、無かった。


「なるほど。便利なのにあまり使ってない人が多いのはそこからだったんですね」


ヒマリは物珍しそうに眺める。エルフは彼女の問いに答えると、小さなポーチに手をかけながら歩き出した。




―――世界の誕生 十三回目


この世界では過去記録が無い「クラッシュ」が全地域で起きた。魔物の身体能力、魔力が飛躍的に向上しそれに耐えられない魔物は、暴走する。


生態系が崩れ、人は死に、土地が傷つき、文字通り世界が崩壊する現象・・・・・・。


こんな世界を御するなんて、誰もしたがらない。だから、半強制的に誰が管理者となるかは決まる。


しかし神でさえ抑えることも、治めることも出来ない事象を御することは不可能だ。一族の中で秀でている者でも然り、謂わばその世界の管理者は贄と同義。


世界が死ぬまで生きていることは・・・・・・何人たりとも叶わない。この時も一人のエルフが死んだ。


「シャス!死ぬな!お前ならここでいなくなったりしないだろ?」


シヤは一人の友人を抱き上げ、溢れんばかりの涙をみせる。だが、それに友人は哀しく笑った。


「ははっ。こうなることは、知って、いたよ。まさに因果応報、かな」


「でも、私を想ってくれていた、・・・・・・友が生きていて、くれたなら、良い。ありが、とう・・・・・・シヤ」


そう言うと彼は止まった。最期に残して、太くついていた、消えかけの灯火は静かに散ったのだった。


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