第9話 二人の暇ごと その5

無事、商人を農園まで護衛することが完了し、老人にもこれまでの経緯を説明することが叶った。


老人も孫の特異体質の事は知っていたようで、商人を襲っていた魔物の行動も腑に落ちような様子だった。


そして、今目の前に大蛇の魔物を連れて来られても動揺しないところを見るに、おそらく過去にも同様の例があったのだろう。


ヒマリが魔物を連れて来られたら自分の場合卒倒しているだろう、なんてことを考えていると何やらエルフが管理人に何かを訊ねていた。


「あの、何を訊ねているんですか?」


「ん〜?今日みたいな天気の日に、何か変わったことはなかったかって」


真上の空を指差しながら彼は言う。


「そうじゃ。こんな曇り空の日は特に畑の腐敗が酷くての。よう分かったな」


「えっ、ちょっと待ってください。ということはもしかして・・・・・・」


「そう。来るよ、死霊が」


死霊は元々霊体の魔物であるため日中は基本、姿を現さない。だが、曇り空など日が隠れている時は別なのだ。


管理人はこの時間、農園には来ていなかったらしい。だから、敢えて時間をずらしこの時間に農園に来てもらうように頼んだのだと、彼は少し錆びた時計を見ながら話す。


分厚い雲が一面に広がり、日の陰りが一層強くなっていた。


エルフは勢いよく懐中時計を閉じると、囲まれた柵の入口に視線を送る。


「来たね、やっぱり。ちゃんとここで倒させてもらおう」


半透明な灰色の胴体、脚は視えない。だが手はくっきりと形が分かる、あの手で腐敗の魔法陣を展開するのだ。


魔物とはヒト以外で魔力を持った生物全てを指す。死霊は魔物だが、ヒトの死骸から生まれ出る魔物だ。だから聖魔法で浄め、討伐する必要がある。


二人は商人から聖水を三瓶ずつ受け取り、構える。死霊は詠唱を既に終え、いつでも攻撃出来る態勢だった。


思わずヒマリは足を後ろに退いてしまうが、エルフは少しも動揺を見せない。


―――先に動いたのは死霊でも、この二人でもなかった。動いたのは蛇の魔物。


常人では追い付けない速さで、地面を這い死霊との間合いを一気に詰める。


その瞬間吐息を死霊の躰全体にかけようとしたが、死霊も腐敗の魔法を即座に放った。


・・・・・・通常腐敗は吐息などの細かい物質でも腐らせてしまう。だから、吐息は攻撃に成らない。


だが結果は違った。蛇の吐息が魔法を全て飲み込み、死霊は半透明だった身体が更に白化していき遂に消えてしまった。


「・・・・・・討伐出来たのでしょうか?」


「うん。出来ちゃったね」


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