第7話 二人の暇ごと その3

「随分と雲行きが怪しくなってきましたね」


「確かに。早く終わらせないとずぶ濡れになっちゃいそうだ」


二人は腐り、半液状化している農地を歩き、隅にこじんまりと佇んでいる管理人用の小屋の前に立つ。


「すみません。誰かいますか?」


一回声をかけ、三回ノックする。すると少しの間を置き黒縁丸眼鏡をかけた、白髪の老人が出てきた。


「こんな老いぼれに何の用ですかな?」


掠れたか細い声で、二人に用を問うてくる。


「実はここの農園のことで、土が腐る原因を調べているんです。そのことに関して何か知りませんか?」


「・・・・・・魔物じゃ。魔物がここを腐らせているのじゃ」


大当たりだったが、エルフは何やら面倒くさそうな顔をしている。理由を聞こうとするが、「おじいちゃんにどんな魔物か教えてもらって」の一点張り。


ヒマリはそのように再び問う。


「それはどんな魔物なんですか?」


「死霊じゃ」


それを聞くや否や、エルフは悲観の声を上げ、座り込んでしまう。


「はぁ、やっぱりかぁ〜」


「やっぱりってどういうことですか?」


「魔物で土地規模のものを腐らせると言ったら、死霊しかいないんだけど、あるものが無いと倒せないんだ」


「あるものとは?」


老人が腐った農地に視線を送りながら答える。


「聖魔力が籠もった剣で斬るか、聖水をかけるか・・・・・・とにかく、霊体だけの存在の奴らを消し去るには聖魔力を当てる必要があるのじゃ」


「ではそれらの方法で討伐すれば良いのでは?」


だが老人はその方法にも問題があると言わんばかりに首を横に振る。


「じゃが、聖魔力の力がある魔法具は限りある。一番身近な聖水も商人が別の魔物に続けて襲われ、手に入らないのじゃ」


話を聞いていくと、知り合いの商人が近々来ると言う。その護衛を引き受けてくれたら、死霊も倒せ、農園も再稼働できるとも。


二人は老人に明日商人を護衛してくる時間までにはここにいて欲しいと話し、一度街に戻る。街の北東門からすぐの簡素な宿で、仮眠を取りながら商人が来る時間まで待つことにした。


―――夜が明けても相変わらずの曇り空。思わずエルフは呟く。


「今日は丸一日、曇りそうだなぁ」


「何ボーっとしてるんですか。置いて行っちゃいますよ!」


虚ろな目を強く開き、駆け出していった。


「今行くから、ちょっと待ってよー」

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