第4話 意外な光景

平原を抜けた一角、不自然に入り込んでいる湖にその船着場はある。日は落ちたが今、二人は孤島に行くため、客船の停まる船着場に来ていた。


壁が無く、吹き抜けになっており、小綺麗に並べられた内装でホテルとでも言えそうな外見の船着場は、一瞬二人の足を竦めた。


「あの、お金持ってるんですか?」


彼女はエルフを見上げながら、問う。


「うん?もしかして僕が持ってると思ってる?」


「持ってないとは言わせません」


一種の圧を放ってくる彼女の態度に、エルフは冗談を言う余裕はない、と悟る。


「持ってる。多分あそこが乗船券を買う所だと思う」


彼が指差す所に、多くの人が並んでいる。二人は列に並び、券を買いに向かった。


券を買っている最中、ヒマリは「結構持ってるじゃないですか」と怪訝な顔をするが、エルフは意にも返さず笑う。


買い終わると、船が来るまで海岸沿いのベンチで休もうというシヤからの提案に彼女も同調し、二人はベンチに座っていた。


すると一人の女が顔は認知できないが、二人に話しかけてくる。


「仲が良いですね、貴方がた二人は。仲が良いのはよろしいことです」


隣のベンチに座っている18歳くらいと見える女は柔らかい声でそう言ってくる。


「そんなことありません」


ヒマリが即答する中、女は話す。


「そうですか・・・・・・。貴方がたの姿が、神に選ばれた御二方と似ていたので、もしかしてと思ったのですが」


「残念ながら人違いです。僕たちにそのような名誉は頂けません」


笑ってはいるが、いつもとは違う冷たい声で会話を断ち切ったエルフに女は去っていく。彼は女が立ち上がる間際、笑みを含んでいたことに違和感を覚えた。


本来、世界の管理者である二人の存在は本人達と、選んだ神しか知らないはず・・・・・・だった。それを第三者が知っていることはまず無い。


シヤは意表を突かれたように、冷や汗を一滴垂らし、微笑する。


空にはただ夜を照らす月光に一つの黒雲が重なろうとしていた。




船内であっても例に漏れず豪華なものになっており、ヒマリは先に客室に入っているエルフに対して、なぜあれ程お金を持っていたのか、疑惑の念を抱きながら、一人回廊を歩いていた。


「すみません。船員さんに色々聞いていました」


一つの仕切りから二部屋に別れた客室の扉を開いた彼女は、心からの驚きを以て声を漏らす。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」


「あのっ、何・・・・・・をやってるんですか?」


「何って、絵を描いてるんだよ。この部屋の」


「ずっとふざけてた貴方が!?しかも結構上手い!」


彼女の尊敬も含んだ言葉に、エルフは頬を膨らませ、しょげる。


「失礼だなぁ。僕にだってこういう趣味の一つくらいあってもおかしく無いでしょ」


「すみません、あまりにも意外だったので。でもそこに関しては親近感を覚えます。今までも何枚か描いてるんですか?」


エルフはいつもの顔に戻り、既に描き終わっている絵を何枚か取り、彼女の前に差し出してくる。


「そうだよ。絵を描いて身体を落ち着かせてる。その範疇で上手いって言ってくれるなら僕もそろそろ描き慣れてきたのかな?」


「・・・・・・一緒に描いてみる?」


「そうですね。それも楽しそうです」


「なら早速、君の綺麗な髪と顔を描かせてくれない?」


美しい顔でにやけるエルフに対し、ヒマリは呆れた表情になり、仕切りの奥のベッドで横になってしまった。

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