第3話 次なる目的地


彼は、ドラゴンの四方に魔法陣を構築し、目で捉えるのがやっとの雷を食らわせた。胴は結界で防がれたが、翼に注意が遅れたのか、まともに攻撃が入る。


ドラゴンは瞬く間に台座の上に崩れ落ちる。が、すぐに捨て身の体勢を上げ、充分にひらいた鋭い爪で、地面もろとも二人を薙ぎ払おうとしてくる。


だが、彼はそれを許さず今度こそ雷を両腕の付け根と心臓があるであろう部分に突き落とす。鋼より硬そうな深紅の鱗をいとも容易く突き破り貫通させてしまった。


一息つき、流石に彼も疲れた様子になる。


「ふぅ。これで終わりかな」


「貴方、戦いに慣れているんですか?エルフなのに」


「慣れてるといえばそうだけど、それこそ君の世界のエルフはどういうイメージなんだい?」


自分たちの世界の違いに言葉を交わしながらも、ヒマリは大きなドラゴンの死体に視線を向け、エルフに聞く。


「それにしても、この死体どうするんですか?」


「とりあえず、きれいな部分だけ素材ごとに分けて・・・・・・他は僕の実験材料として保管するかな」


「待って下さい、実験ってなんですか!?」


彼はヒマリの反応に手を唇に当てながら微笑む。またすぐに魔法陣を展開し、牙と角、爪と肉、鱗の付いた皮膚に分けていく。


ヒマリには何の魔法を使っているのかは解らないが、淡々と作業を進め、見ているうちに跡形もなく死体は収納されてしまった。


「それは、やはりどこかに売ったりするんですよね?」


「そうそう」


彼は、ヒマリの問いに対し相槌を打ちながら、血で汚れた草原を元に戻していく。


「・・・・・・意外と、こういうことには細かいんです

ね」


「いずれこれもヒマリには覚えていってもらって、楽する予定。って言ったら?」


「全力で忘れる努力をします」


シヤは、彼女の否定的な答えに静かに笑いながら台座へと向かう。


台座は傷の一つもない。あるのは劣化による痕だけ。


ドラゴン程のものが落ちて来ても台座が壊れないのは、この世界そのもので、生み出したものに壊されるなどまず無いのが道理だからだ。


「魔力を流そう。さっき、魔力の存在は感じ取れたはずだ。あとはこの台座に向けて放出するだけだよ」


「わかりました」


目には視えないが、この世界に生きるものなら産まれたときから泣くのと同時に感じ取れる・・・・・・それが魔力。


乱雑に放出された魔力は、吸い付くように余すことなく台座に吸収されていった。台座の十字の溝は閉まり、霞がかっていた光は眩しいと思うほどの充分な光となる。


彼は少しばかりの必需品の入ったポーチを再び腰に下げ、立ち上がった。


「これでここは終了。次の要所に行こう」


そして魔法陣を展開する。その魔法はどこかしらの風景を映し出しているようだった。


「次の目的地は君が選んで。ここからだと、この三つが近い位置にあるんだけど・・・・・・」


「よく見せてください。そうですね・・・・・・」


かがんでまじまじと見比べている少女は、何やらぽつぽつと呟いている。


「これは、南国に似ていますね。海も透き通っていて気持ち良さそう。他の二つは見るからに登るのが大変そうな山岳に、何もない砂漠・・・・・・」


「そろそろ決まったかな・・・・・・」


彼は珍しく、肩を竦め座り込もうとしていた。


「決めました。この南国みたいな場所で!」


「ナンゴク?が何なのかは分からないけど、ここね。そしたら・・・・・・船に乗って行かなきゃな」


「船?もしかして、島なんですか?」


彼は「正解」と笑いながら、地図を出した。


「私、ついでにこのフルーツを食べたいです!」


「それが決め手?でも残念。そのフルーツ何故か一部の人間だけに出回ってて、民衆の市には流通してないらしいんだよね〜」


「なら調査しましょう!」


彼女はエルフの挑発的な言い回しを退け、肯定する。彼も諦めの声色で、変わらず地図を眺めながら応じた。

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