第2話 波乱の幕開け

ギラギラと降りしきる暑さの中、肥えた平原を歩き始めて、数十分。ヒマリはとっくに限界を超えているようだった。


エルフのシヤは、細い身体に似合わず、辛そうな顔をせず歩いている。瞬間、彼はピタリと足を止めた。


「そろそろ着くよ」


「ようやくですか・・・・・・」


彼女が感嘆の声を漏らすのも束の間、信じられない光景が目に写る―――


魔物が、少し白みがかった台座の横に頭を置き、昼寝をしている。その魔物は頭部から尾部まで深紅の鱗が包み込み、針のように鋭く、太い角が頭に生えている。


立派に翼まで付いているその魔物は・・・・・・


「 ドラゴンじゃないですか!」


反射的に声が小さくなった彼女の必死の訴えに、エルフは真剣に捉えているのか分からない真顔で返す。


「みたいだね」


「なんでそんなに余裕そうにしていられるんですか・・・・・・。とりあえず、今すぐにここを離れましょう」


「いや、無駄だよ。ドラゴンは魔物の中でも頭が良い部類に入る。もう、僕たちの存在は相手に気取られているはずだ」


すると、ドラゴンは彼らの顔より大きい目を開き、こちらを睨んでくる。


「まぁでも多分勝てるから大丈夫」


ヒマリは彼に対し、その自信はどこから来るんだと思いながらも相槌を打った。


彼は、白い腕を彼女の前にかざし、結界魔法を発動した。光の膜は彼女の身体を包むと収縮していく。


周りは燃えるものしかない。こんなところで炎を吐かれたら、いよいよ逃げ場がなくなる。彼がそう考えた途端・・・・・・。


ドラゴンはつんざくような唸り声を上げる。翼を大きく広げ、飛び立つと、ものの数秒で魔法陣を構築し、炎を吐いた。


結界で防ぐが、炎は辺りの植物に燃え移り既に、揺らいでいた。


「豊穣なる台地に水を与えたまえ」


彼女が気恥ずかしそうに不慣れな詠唱をすると、燃えていた炎は消え、植物が水で湿る。ドラゴンは彼女の特異な魔力に驚いたのか静止し、こちらを伺ってくる。


「ちょっと、守りきれてませんよ」


後ろで隠れている少女は、結界が付いているとはいえエルフを小突く、だが彼は相変わらず余裕そうな顔で笑う。


「あははっ、ドラゴンの炎を消し止められるのなら上出来だ。さっき教えたばかりなのに、やっぱり凄いね」


「そんな冗談まがいなこと言ってられませんよ。次は確実にやばいです」


「ああ。じゃあ、次はこちらからだ」





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