神秘の力
「髪は銀、瞳は
暒來は時々ツッコミを入れつつ人相書とにらめっこしながら険しい顔で歩き続ける。すれ違うのはスラム街の住人(それも子ども)ばかりで一向に見つかる気配がしなかった。
細い路地を抜け、壊れた噴水のある広場に出る。すると、何やら人だかりが出来ており騒がしかった。
(何かあったのでしょうか⋯⋯?)
近付くにつれ、人々の会話から少しずつ状況が飲み込めて来た。スラムの子どもが何かのトラブルに巻き込まれたようだ。
すると、ふわりと生温い風に乗って微かな血の香りが届く。
「!!」
暒來は思わず走り出した。
「すみません、通して下さい!」
人だかりをかき分け、騒ぎの中心に飛び込む。暒來は曲がりなりにも医学の心得がある身だ。怪我人がいるならば放っては置けない。
(久しぶりに走ったせいで肺が痛みます。足も震えて立っているのも辛い⋯⋯ですが——)
膝に両手をついて、呼吸を整える。一瞬の後、顔を上げると暒來は目にした光景に目を見張った。
(腹部から上腕にかけての
汚れた布切れのような衣服は一文字に引き裂かれ、そこから止めどなく血を滴らせる裸足の年端も行かぬ茶髪の少女。
目の前に広がる残酷な光景に暒來は思わず目を背ける。その間にも、血の気を失い横たわる少女から流れ出た血液がジワジワと地面を濡らしていた。少しずつ、少しずつ生命の気配が薄れていくのを感じる。
「——通してくれ!」
為す術なく呆然とする暒來の耳に、雑踏を破るように凛とした声が届いた。
「まだ息は有るのか!?」
瀕死の少女を取り囲むようにして形成された円を暒來と同じくかき分けて真正面に現れた銀髪の男性。彼は直ぐに少女に駆け寄り、膝をつく。
「ニーナじゃないか⋯⋯。待っていなさい、直ぐに楽にしてやるから」
そう言って男は瞳を閉じる。傷付き横たわる少女——ニーナの前に両手を掲げると、辺りの空気がピンと張り詰めるのが分かった。
すると、程なくして男の手先から光の粒子が舞い上がり、ニーナの身体を優しく包み込んだ。
光の粒子は、まるで星空に散りばめられた
「!!」
暒來はその光景に驚き、目を見開いた。
(これは、異能力⋯⋯。なんて幻想的な光景なのでしょうか)
暒來がその光景に目を奪われていると、頭の中に鈴の音のような声が響く。
『セイラ⋯⋯あのコ、おかしいワ』
「ウンディーネ。おかしいとは⋯⋯?」
姿を現したウンディーネは心配そうな面持ちで異能力を行使する男を見つめる。
『あのコの内側にある生命の泉のキラメキが全て少女に向かって流れているワ。つまり、ジブンの生命力を分け与えているノ。このまま続けていると何れ生命力が尽きて死んでしまうワ』
「⋯⋯!」
暒來はあまりの驚きに声を失った。
(異能力の行使には少なからず代償が付きものです。しかし、これはあまりにも——)
ウンディーネの話から推測するに、目の前の男性は他人の傷を治癒する代わりに自分の生命力を分け与える類のものだろう。
暒來の異能力『
やはり、他人の生死に干渉する異能力は代償も大きいということなのだろうかと暒來は静かに結論付ける。
(異能力は元々の素質に加え、強い感情が起因となって発現するとされています。一体、どれほど強い想いがあれば自身の命を削るという選択が出来るのでしょう⋯⋯)
暒來が立ちすくんでいる間にも、男は治癒を続ける。
次第にニーナの傷口から血が止まり、傷跡は徐々に縮小していく。間も無くして男の治癒魔法によって少女の体内に生命力が注がれ、傷は跡形もなく癒えた。
「ニーナ、終わったよ。大丈夫かい?」
額に滲んだ汗を拭い、未だ瞳を閉じるニーナに声を掛ける。
「う、ん⋯⋯。ありがとう、ユキお兄ちゃん⋯⋯」
「僕だけの力じゃないさ。ニーナの『生きたい』って強い想いがあったからだよ」
男はそう言ってふわりと笑った。それまでの真剣な顔付きから一転して、全てを包み込むような柔らかい笑みを浮かべた男に暒來は思わず見惚れる。
「ユキ⋯⋯?」
しかし、聞き覚えのある名前を耳にした暒來はハッとして手の内に握り締めていた人相書に目をやる。
(銀の髪に菫色の瞳⋯⋯。間違い有りません、聴いていた雰囲気とは異なりますが外見や背格好が一致します)
騒ぎの中、暒來は図らずも探し求めていた人物を見つけたのだった。
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