直射日光はひきこもりには毒です。
トランクに必要最低限の衣服とお気に入りの本、書きかけの
(あ、暑い⋯⋯暑いです! こんなに暑いだなんて聴いてませんっ! 私は
兄の為そして自らの欲望の為、固く決意を結んだものの、いざ王宮の外に出てみれば口をついて出てくるのは文句ばかり。延々と季節外れの炎天下と
太陽の国という異名に恥じることなく、ソルシア王国には年中太陽の光が降り注いでいるが、それにしても今日はいつにも増して暑いに違いない。
「早速帰りたい、です⋯⋯」
城門を潜り1歩、2歩、3歩と歩いたところでパタリと力尽きた。
5月も未だ半ばだというのに、茹だるような暑さと灼熱の太陽が暒來の白い肌を焦がす。
暒來が身に纏うケープは王室お抱えの異能力集団——『天の
(日傘も持って来るんでした⋯⋯って普段外出をしない私がそんなものを持っているはずが有りません)
自問自答を繰り返し、最後にふうと一つため息をついてから心の中で語りかける。
(⋯⋯ウンディーネ、出て来て下さい)
『どうしたの、セイラ』
呼びかけに応じ姿を現した水の精霊。光の
「こんな事で呼び出してしまい、貴女には申し訳ないのだけれど⋯⋯此のままでは死んでしまいそうなのです⋯⋯」
『わかったワ、ワタシに任せテ』
ウンディーネはそう言うと、暒來の頭上で大きく旋回する。すると、瞬く間に薄い水の膜が形成された。
触れても決して壊れる事の無い、魔力で織られた特別製の水のヴェールが火照った暒來の身体を日光から遮る。
「ありがとう、ウンディーネ」
(これで直射日光は避けられるので暑さが大分和らぎました。魔力の流れで揺らぐ水の膜が太陽光線を分散させ吸収する事により日射を遮断するのです。よく思いつきました、私)
水のヴェールは暒來以外には目視出来ない為、怪訝な目で見られる心配は無いだろう。(しかし、たとえ目視出来るとしてもこの手段を放棄することは考えられないが)
咄嗟の機転により暑さを凌ぎ、快適な環境を手に入れた。幾分か心に余裕が出来た暒來はにんまりと微笑み自らを褒め称える。
精霊の力は攻撃に特化したものだと思われがちだが、事実それは誤りである。此のように自然由来の暒來の異能力は工夫次第で無限の可能性をも見出せるのだ。
(それにしても⋯⋯陛下だって公務以外外出していないはずなのに何故あんなにも肌が焼けているのでしょう? ああ、そうです。太陽王の名が霞んでしまうほどの暑苦しい性格ですから、身の内では収まり切らない熱が表皮にまで達し自ずと焼けてしまうのでしょうね。きっとそうです。間違いありません)
僅かに体力が回復したところでトランクを持ち直す。
そして、心の中で憎まれ口をひとつ叩くと城門の先で待つスラム行きの馬車に向かって再び歩き始めたのだった。
✳︎✳︎✳︎
同時刻、謁見の間にて——。
「陛下、私の妹は可愛いでしょう。構い倒したいのは分かりますがあまり虐めないで下さいね」
千昊は玉座に腰掛ける熾炎へ声をかける。熾炎は一瞬目を丸くした後、クツクツと喉を鳴らした。
「アレが可愛い、だと? 彼奴⋯⋯オレへの敵意を隠さないではないか。反抗的な女は好かん」
「陛下は未だ未だ青くていらっしゃる。あの子の私を見る蔑むような瞳——。アレは一度経験すれば癖になりますよ」
「フン。お前の異常性癖にオレまで付き合わせようとするな。⋯⋯お前たちレイヴィスの者は常人とは一線を画する知識と卓越した能力を持ち合わせるが、どの時代においても変わり者が多く制御が厄介なのが難点だ」
「お褒めに預かり光栄です」
千昊は胸に手を当て、仰々しい仕草で一礼する。
「お前たちは裏切ってくれるなよ。ルーニの悲劇のような惨劇はもう沢山だ」
熾炎は千昊の態とらしい敬礼を横目で見やると、そう言ったきり口を閉ざした。
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