鳥の詩

ピッケルハウベの上に 鳥が止まって告げる

太陽死ニ至ル病ニカカル

風の吹かないこの塹壕

残光 ちらついて影が 両手で腰を掴む

 あたしの呟きは 着剣音で消えた


鳥は ただピッケルハウベが目印となって 

 ただ撃たれて死んだ 飛んだばかりに

 その裂かれた身体が また一発

 一発と 新兵の緊張が放ってちぎれるのだ

 何発も 砲弾がさく裂して やがて緊張は解かれる


死んだ鳥から 蠅とネズミがその匂いに誘われて

 また千切るのだから 必死に縫いて隠す

 またその縫い目から溢れは 迫ってあたしにふれる

 押される形で あたしは地下へ沈んでいった


今日も棄民が突撃をする

  恐れられる死者の国が 前線を押し上げて

生者を犯すのは そのベルティエ小銃で

  突撃を繰り返す

  砲弾に焼け死ぬそのカラダを だがやはり死者で

時の中で 静止して受け入れていられるから

  あたしはああなりたくないと 祈って今日も地下で鳥を縫う


気づいたらもう いなくなっていた

小さい勝利を得て あたしは痙攣する


同一の影 ちらつき止まらずあたしは鳥になる

 その日からここにきて 光ってちらつく

 ピッケルハウベとは 影のちらつきと ともにある


影とともに 木陰にて

光とともに この日を境に覚えた

永く抜け出せない 淡く黄色い幻覚は

太陽が あたしに永く背いて

埋没する今に似て 連続 連続の接続


怖くなって あたしは目をつぶってはあけて 

母の死亡届に 目をやり読み耽るが

あくびをし 娼婦から盗んだ声は

かつてみた緑色の空で くすぐるのだ

足をすくって ベッドへ僕を誘う

影の生業は 夢をのぞくこと 

あたしの身体を くすぐるその指を

見張る その木々に影が幻視して

ざわめく ざわめきが止まらず

静止する 太陽につかまったらどうしようと考えた 

母に置いてかれた あの日を幻視する


生まれたのは闇に討たれるためにと 伝えるために

影は太陽を見ないフリして どっかへ行ってしまった

ピッケルハウベと 影のちらつきと あたしだけ

またここにいる


戦線に終わりが来る 夢にも見た 祖国の勝利

あたしは 馬小屋へと帰る

 

 あたしは この時間から逃げ遅れた

止まった静止した時を 受け入れずに奔っていく

勝利 しかしそれは敗北の反転で

あたしの敗北の未来像とは また違う世界に

迷い込んでしまったものでしかない

 帰り道 影と手をつなぐ

 置いてかれた子供は その蒼の幻想に泣いていた


昨晩 帰り道

 影は首を吊る 断頭台から逃げ場はない

 逃げて飛び降りて 死んでいた

 影になれなかったために生き延びるあたしの気持ちは

 転回するには遅すぎて逃げれない


 あたしは 太陽に手をかざして 

これであなたはもう見えない 逃げるには不十分な呪文

部屋の扉を閉めて 気にしないふり


 ちらつく 見下げて確認

 吊られた十五の影

 あの中なら どれほどよかっただろう

 名誉ある死者ではなく 吊られた影として 

あるのは どれほど太陽に報いるものだったのだろうか

 あの中に混ざろうと あたしが輪の中に入りかけた時

 まだ両手であたしの腰をつかんで引っ張るのだ

 バラバラの鳥を抱き上げ あたしは帰路へつく


暗い時代は やがて栄光ある勝者の時代となり 

敗者としての未来は 裂いて

歴史の正しさを 死にいく太陽の間違いを 

正さぬまま 光に当てられ夢にあたしさまよう


鳥は暗く虚いでは異影となる光だったのではないか

母の死亡届は空白がにじむ空の嘘であるとの断言で

暗雲がやがて全て嘘だと告げて私は虚ろう鳥となる

ピッケルハウベに降り立っては繰り返す夢のお約束


太陽死ニ至ル病ニカカル

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