砂時計

 午前6時17分


 あの日から月が昇ったままだ

 きっと砂時計のせい


 あの日から太陽が沈んだままだ

 ひっくり返せば動き出す


 一室に僕と砂時計と窓がある

 ドアノブは開け方すら忘すれられてもう出られない

 あの日太陽の明かりがあれば、部屋の鍵の所在は分かるのに

 太陽の言葉をぼくが嫌ったから知らないままにして

 砂時計はひっくり返ってない


 乱雑な思考に振り回されるたび

 ただ砂時計の中に答えはあるのを思い出すが

 ひっくり返さず生きるには俺の息遣いはあまりにもうるさい

 ひっくり返して生きるには俺の体内時計はもうすでに老いていた

 熱に弾けて死んでしまっていた


 なあ僕は罪びとか

 確かあの日僕は砂時計のひっくり返しで時の支配を受けいれていた

 時がただ一点して見つめる支配の渦からは

 不規則に揺れて舞う埃の行き先すら支配からは逃れられないから

 受け入れるしかないと思っていた


 窓の太陽が唆した

「時の限界が来る、時は弾けてやがて死ぬ。俺のようにだ。お前は生きたいか?」

 それでいい気がして僕は

「きっとそのせい

 きっとそのせいでぼくは動けずじまいだ。」

 そう呟いて動けない

 砂時計の零れる音が反響して止まった。


 月と太陽はもちろんドアノブすら、もう固着した。

 ひっくり返す日まで僕は在る


 午前6時17分

 あの日から時は止まったままだ


 熱くもなく寒くもなく

 ただ窓付き部屋が在る日

 どうやらまだ春は来ないらしい

 きっとそのせいだ

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