第19話 アスタリスク

魔王達3人とアビシニアはエジの運転する車でウーガーの元へ向かっていた。


魔王「ウーガーの居る位置は分かっているのか?」


魔王の問いかけにアビシニアは振り返ると魔王に顔を合わせる。


アビシニア「ええ。ウーガーの動きは逐一確認できるようにしていますので…」


振り返ったアビシニアは自身を電子空間で囲むと、赤く点滅する箇所を指し示す様にして指を添える。


エジ「眼の前とはいかねーが、あいつの座標のすぐそばに転送してあるからな。直ぐにつくぜ」


 エジは運転しながら魔王に告げると魔王は頷く。


魔王「ああ。わかった」


エジも魔王の行動をバックミラーで確認すると再び前を向いた。


魔王「しかし、いつも山の中にいるな。あいつは…」


 魔王は窓の外に見える森林に少しばかり呆れたように眉尻を垂らすと口を折り曲げる。


アビシニア「そうですね。私が初めて出会った時も山の中でした」


魔王「人との接触を避けているのか、居心地がいいのかは知らんが、家に来れば泊めてやるのにな」


 魔王は指先でポリポリと頭を着掻きながら呆れたようにものを言うと、愛想笑い気味にアビシニアは声を漏らした。


アビシニア「やはり呪いのせいでしょうか?」


魔王「だろうな。本来あいつは内なる部分は優しい奴だからな」


アビシニアの問いかけに魔王は頷くと、がっしりと組んだ両腕を上下に揺する。


エジ「どこがどうなったらあんな凶暴な奴に優しさがあるように見えんだよ…」


会話の聞こえていたエジは横から口出しすると、自身の本音を吐き出す。段違いに尖った眉も眉間に処せた皺を強調して見せると、魔王をバックミラー越しにチラリとみるのだった。


魔王「人に嫌われ続けても、あいつ自身は人類に何もしとらん。約束と言っておったしな」


 魔王の声にアビシニアは頷くと祈るように両手を重ねると魔王を振り返る。


アビシニア「マジカさんとの約束…ですよね」


魔王「ああ。間違いなくあいつは、マジカの言葉に縛られている」


エジ「約束ねー。…あいつが」


魔王「純粋で一途なのだよ、ウーガーは…」


 互いに言葉を交わし合うとお互いが間をつくるようにして頷く。エジは前を向き直し運転に集中すると、アビシニアは考え込むようにして瞳を閉じた。魔王は一息つくように大きく吐息を吐き出すと再び体の前で両腕を組むのだった。


エジ「そろそろつくぜ」


 エジは自身の周りに電子空間を張ると、赤い点滅する光へと自身を指し示す矢印が近づいていく。数分後、エジは車を道沿いに停車させると車を降りる。


エジ「こっからは歩きだ」


魔王「わかった」


 魔王はエジに合わせるようにルーの降りたドアから地上に足を着けると言葉を返した。5人は車を降りるとエジを先頭にウーガーの元へ向かう。草木が伸びきった山道を皆が払いのけるように前に進むと、山陰に佇むウーガーの姿が見えてくるのだった。


魔王「ウーガー!!」


 魔王の怒声にも似た言葉は静寂の森の中で響くと、ウーガーは鬱陶しそうに声の出る方向に顔を向ける。「またかよ」と言いたそうな飽き飽きした顔をウーガーは皆に見せつけるように後ろを振り返った。


ウーガー「まだなんか用があるのかよ。テメーは」


魔王「ああ。お前に助力を求めに来た」


ウーガー「…助力?」


 魔王の言葉にウーガーの身体はぴたりと動かなくなると、鬱陶しそうに舌打ちを返した後、魔王に顔を合わせる。


魔王「ああ。エヴィルスという奴がこの惑星に向かっている。力を貸して欲しい」


 真剣に顔を合わせた魔王に対しても、ウーガーはじれったくも取れる態度で首を横に振る。


ウーガー「断る」


 ウーガーは魔王の言葉を遮るように前髪を右手で掻き揚げると、ふーと大きく溜息を漏らした。怒気を周囲に撒き散らすのとは違い、ほとほと疲れたと言わんばかりの態度を示すが魔王は更にウーガーに近寄る。


魔王「何故断る。ウーガーこの惑星が悪い奴によって滅びるかもしれんのだぞ」


ウーガー「滅びるなら願ったり叶ったりなんだよ、こっちは」


魔王「ウーガー…」


 ウーガーは魔王を突き放す様に右手で軽く押すと距離を取るように視線を魔王から反らした。身に纏うローブが風に揺れるとウーガーはだんまりを決め込むように口を閉ざすのだった。


アビシニア「私からもお願いです。どうか力を貸してください」


魔王「頼む。ウーガー」


 アビシニアもウーガーに助力を求めるように頭を下げるのだが、ウーガーは同じように頭を下げた魔王を確固たる意志で首を横に振ると、後ろを振り返るようにして体を返した。


ウーガー「何度もは聞けねー、そういったはずだぜ俺は」


魔王「ウーガー…」


ウーガーの一言に魔王はしばし沈黙する。考えてみれば見る程何度もウーガーにお願いを聞いてもらったのは間違いなく、自分の意見だけを一方的に通してきたのも確かだった。

 魔王は少しだけ申し訳なさそうに垂らした頭で下を見ると、ボソボソと口を動かし始める。


魔王「ウーガー聞いてくれ。俺はラフレ―――」

ウーガー「何度もは聞けねーって言ってんだろう!!」


 魔王の声をウーガーの怒気が掻き消す。ウーガーは魔王の胸ぐらをつかむと上に挙げる。


ウーガー「あれはダメ、これもダメ、全部お前の都合じゃねーか…」


魔王「…ウーガー」


 ウーガーの言葉が的をえたのか魔王は名前を呟いた後、歯痒そうに唇を噛みしめた。ウーガーが言うよう自身の都合で戦いを止め、何度もお願いしてきたのは間違いなく魔王のせいだった。だが、魔王は一歩も引かずにウーガーの話を聞いたうえで近寄ろうとした瞬間だった。


エジ「なにぃ! エヴィルスが飛来してるだって!!」


 エジの大きな声に皆がエジを見つめると、深刻そうに鼻頭を引き攣らせた顔が皆に浮かぶ。


エジ「つーことは、皆出払っちまってるて事だな。俺らも大至急そちらに向かう」


 エジは通信を切ると大きく一息ついた後にアビシニアに顔を合わせる。


アビシニア「エジさん」


エジ「聞こえてただろう。エヴィルスがもう飛来してる」


アビシニア「明日だったはずなのに、何故ですか?!」


エジ「撒き餌が効きすぎたのかもな。それより、大至急現場に向かうぞ」


 エジに駆け寄ったアビシニアは首を縦に振ると、魔王に顔を合わせる。


アビシニア「魔王さん。私たちはエヴィルスの居る場所へ向かいます。魔王さんたちは―――」

魔王「俺も行く」


 魔王はウーガーの手を払いのけるとスタスタとアビシニアの方へ歩きだす。


ウーガー「………」

魔王「後で話そう。マジカ・ラフレスについて」

マジカの名を聞いた瞬間、ウーガーの身体がピクリと揺れる。

魔王は今までしつこかったのが嘘のようにウーガー説得を諦めると、ルーとチーも魔王の後ろを歩くのだった。


エジ「お前は邪魔になるだけだ!!途中まで送ってやるから―――」


魔王「嫌な予感がするんだ。例えるならこびり付く様な感覚が」


 魔王は西の空を見つめながら呟いた。


エジ「お前は戦えないんだろうが!!エヴィルス相手に守ってやれる余裕なんて無いんだよ!!」

 

魔王「大丈夫だ。絶対に邪魔はせん。チー、ルー、乗り込むぞ」


 魔王はエジの後ろの後部座席に座ると、チーとルーも合わせるように両側へ座るのだった。


エジ「ああああ、どうしてお前はそうなんだよっ!」


魔王「俺が行かなければならぬ気がするんだ」


 エジと魔王は睨み合った後、エジが先に吐息を漏らした。


エジ「はぁ…絶対ジャマすんなよ」


エジの真剣な一言に魔王は首を縦に2度大きく振ると約束は守ると言わんばかりに自身の胸を叩くのだった。


魔王「ああ。承知した」


 エジは諦めたのか運転席に座ると自動車のエンジンを掛ける。エンジンの掛かった車は直ぐに急反転するとエヴィルスのもとへ向かうのだった。


アヒシニア「皆さん大丈夫でしょうか?」


アビシニアの言葉にエジは無言で頷くと鼻から息を抜くようにして鼻を鳴らす。


エジ「はんっ、あいつらなら大丈夫だ。スコティ達が陣取ってるらしいしな」


アビシニア「対空攻撃ですか?」


アビシニアの言葉にエジは満足そうに笑うと、アビシニアに声を掛ける。


エジ「そうだ。あいつをまずは撃ち落とす」


 エジの言葉にアビシニアも頷くと、前を見つめる。見つめた先には暗雲立ち込めるかの如く薄暗い空が何者かの飛来を暗示するように広がると、アビシニアは少しだけ吐息を漏らした。


エジ「エヴィルス飛来が今日でも明日でも、何も準備できてない訳じゃない。全部想定内の範疇なんだよ」


 エジは少し強めに言葉を吐くと自身の操る車のステアリングを強く握る。


エジ「少しだけ飛ばすぞ!」


 エジは右足に力を込めるとアクセルを吹かす様にして徐々に車を加速させていくのだった。



 場面はビルの屋上に変わる。

 屋上には、スコティ、ヒマラ、キジサバの4人が並ぶようにして隊列を組むと屋上に陣取る。


リカンシ「スコティちゃん。聞こえる?」


 名を呼ばれたスコティの耳元からリカンシの声が漏れるとスコティは首を縦に振る。


スコティ「聞こえています。オーバー」


 スコティは無線に応答すると暗雲立ち込める西の空を見つめる。そこには、空中から飛来したエヴィルスの金属質な身体が目に映ると、赤く輝く眼が地上にいる人達を見つめる。その大型のロボットのような外見は不気味に地上を見渡すと開くようにして両手を広げた。広げた両手からは触手の様な管が何本も伸びると突き刺さるようにして地面を隆起させ動きを止める。動きを止めた何本もの触手は地面にめり込むように刺さるとエヴィルスは空中で動きを止めるのだった。


リカンシ「吸着し始めてる」


スコティ「はい。こちらも準備に取り掛かります。オーバー」


 スコティは両手を前に出すと力を込めるように右の手首を左手で握る。眼鏡越しから見える地上はエヴィルスの飛来によりパニックとなり、人は蜘蛛の子を蹴散らす様にして逃げ纏っていた。


スコティ「ウェーブダッシュ300」


 スコティが呟くと力を込めるように前に出した右手の先から蒼く揺れる波動球が徐々に形を成していくと、分裂するように数を増やしていく。一つ一つが手の平サイズの球体は空中で揺れると蒼く輝く光を放射する。


ヒマラ「力み過ぎんじゃないよっ!」


スコティ「はい」


 ヒマラは多数の波動球を空中で制止させるスコティの肩に両手を添えると落ち着くように声を掛けた。


ヒマラ「じゃあ、あたしもいくよ」


スコティ「はい。お願いします」


 ヒマラの声にスコティは肯定するかのように首を縦に動かすと狙いを定めるようにして両手を空中に構える。


ヒマラ「いくよ。…ディットー!!」


 ヒマラが大きく声を張ると無数に散らばる球体は分裂を繰り返す様に増殖すると辺り一帯を覆いつくすかの如く広がる。300個ほどだった球体は倍以上に膨れ上がるとスコティはそれを制御するかのように両手を開いた。自身の肩に添えられたヒマラの手の体温を感じ取るようにしてスコティは踏ん張るように両足を開く。


キジサバ「「こっちもいきます」」


スコティ「お願いします」


 キジトとサバトの二人はお互いが向かい合うようにして両手を無数の球体に合わせると青白く輝く両手を捧げる。


キジサバ「「いきます。ダブルクォーテーション!」」


 キジトとサバトが同じ声、同じ所作で空中をなぞると、野球のボール位の球体は肥大するようにして大きさを変える。最後には一つ一つがバスケットボールサイズに膨れあがると、キジトとサバトの二人は頷く様にしてスコティの方を振り返った。


スコティ「リカンシ艦長。いつでも打てます」


リカンシ「了解。頼んだよ、スコティちゃん」


スコティ「はい!」


 スコティは無線に応答した後、両手を握りこむ。更に力を込めるように握りこまれた拳には筋が浮き出ると比例するように青く輝く球体は空中を揺れ動く。街灯の青白い光のような球は更に発光すると力強く星々のように煌めく。エヴィルスが空中に静止する中、その星々の輝きはエヴィルスの赤い眼を注意でも引くかのように機械的に動かすと閃光した。


スコティ「撃ち落とします」


 屋上で構えるスコティは握りこんだ両腕の拳を突き出すと両手を開いた。


スコティ「アスタリスク!!」


 スコティの声と同時に無数の球体はエヴィルスに向かい束になると、流星が駆け回るように尾を引く光を漏らす。一つ一つ輝く流星の輝きは青白く辺りを照らしながら

エヴィルスに加速するように速度を上げ放たれた。エヴィルスの眼がそれに気づいた時には自身に向かってくる球体はエヴィルスの金属的な皮膚を鈍く輝かせると一発一発が体に触れると同時に爆発を起こしていく。空中で制止していたエヴィルスの身体が蒼白く包まれると、赤く輝く爆炎が空を焼き尽くしたのだった。





 

 

 

 

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優しく滅べよ 世界たち 虎太郎 @Haritomo30

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