第18話 それぞれの思い

 エスペラの面々と魔王を合わせたエヴィルスについての打ち合わせが終わる。

 リカンシの命令により、エジは魔王とアビシニアと共に、ウーガーに助力を求めに行く手筈となった。



魔王「よろしく頼む。アビちゃん。極太眉毛」


エジ「絶対に助力なんかしねーぞ、あいつは」


 エジは頼まれた魔王の言葉を否定するように言葉を返すと、しかめっ面を披露した。


魔王「隠し球があるのだ、こっちには…」


 魔王はアビシニアを振り返ると微笑む。


魔王「なあ、アビちゃん」


 魔王に微笑みかけられたアビシニアは一度頷くと微笑み返す。


アビシニア「そうですね。魔王さん」


エジ「何が隠し球だ! あいつに話なんか通じるかよ!」


魔王「俺には通じる理由があるのだ」


 エジのまくしたてる声に負けじと、魔王は多少自身のある顔つきをでものを言うと、先程まで流れていたエヴィルスの映る画面をもう一度見渡した。


魔王「大変だな。エスペラと言う職務も…」


 魔王の言葉に、エジは多少顰めていた顔をわずかに緩めた。


エジ「あー、大変だよ。お前みたいな輩とかの世話で」


魔王「世話好きも大変だな。ははっ」


エジ「ははっ。じゃねーよ。ったく」


 魔王の無邪気な笑い声が響く中、エジは再び眉間に皺を寄せると肩がこると言わんばかりにグルグルと腕を回す。アビシニアに合わせた顔もどこか疲れたと言わんばかりに歪むと、瞳を閉じるようにして後ろ髪を掻いた。


エジ「アビー。そいつらの寝床用意してやってくれねーか」


アビシニア「そうでしたね」


 エジが母船内の空き部屋をスクリーンで確認すると、アビシニアは笑顔で頷くと言葉を返した。


アビシニア「魔王さん。私についてきてください」


魔王「ああ。わかった」


 アビシニアの声に魔王は頷くと後ろをついていく。魔王はアビシニアについて行きながらもエジを振り返ると屈託のない笑顔を見せた。


魔王「明日はよろしくな、極太眉毛」


エジ「しっ、しっ、早く行きやがれ」


魔王「ははは。じゃあな」


 エジに邪険に扱われながらも魔王は笑い声を響かせるとエジの肩を叩く。叩かれたエジは眉間に皺を寄せるが、その場から立ち去っていく魔王を見つめるのだった。


アビシニア「魔王さん。皆さん同室がいいですか?」


魔王「あぁ。同室で構わんよ。いつもと変わらん」


アビシニア「でしたら…」


 アビシニアは指先に付けた指輪を振ると、目の前に出てきた小さなモニターに視線を持って行く。一通り確認した後、アビシニアは大きく頷くと魔王に顔を合わせる。


アビシニア「ルーさんと、チーさんとまず合流しましょう」


 アビシニアが魔王に話しかけた瞬間だった。


チー「魔王」

ルー「…まーちゃん」


 ルーを片脇に抱えたチーとばったり出くわすと、チーは驚いたような声を上げた。相変わらず顔色の優れないルーは青白い顔を見せると、プルプルと震えたような声で言葉を返す。


ルー「まーちゃん。ルーちゃんは、もう寝たいです」


魔王「だろうな」


チー「ルーさん。さっきからこの調子でさ」


魔王「知っとるよ。その酔いどれの事は」


 吐き気を通り越したような顔を見せるルーに、魔王は非情にも聞こえる声を返すと、自身について来いと言わんばかりに前を歩くアビシニアを指差した。


魔王「丁度、今から寝室に案内してもらう手筈だった」


アビシニア「直ぐ準備しますんで、それまで我慢してくださいね」


魔王「ああ。この酔いどれの事は気にせんでいーぞ」


 魔王は振り向いたアビシニアに顔を合わせるとルーを指さす。


魔王「いつもの事だ」


アビシニア「は、はは…」


 アビシニアは苦笑いを上げるが、魔王は大きく頷くと気にしなくて良いと言わんばかりに親指を立てて合図した。その後、アビシニアに案内されるままに部屋まで歩いて行ったのだった。


魔王「何から何までありがとう、アビちゃん」


 部屋の準備を整えてもらい魔王達は一室に入る。アビシニアがシャワーの仕方から寝具まで全て説明し終えると、魔王はお礼を言い頭を下げた。頭を下げた魔王にアビシニアは謙遜するように片手を振る。


アビシニア「いえいえ」


 魔王が見渡すと柔らかそうなベッドが3つ並んでおり、すでに事切れたルーは、その内の一つのベッドに寝転がると、すやすやとベッドで寝息を立て始める。


魔王「あいつは…」


アビシニア「まあ、転送酔いって辛いですし」


魔王「酒の飲み過ぎだからなっ」


アビシニア「は、はは…」


 アビシニアが苦笑いをすると魔王は苦虫を潰したような顔を披露した。


魔王「じゃあ、明日は頼むな。アビちゃん」


アビシニア「ええ、こちらこそ」


魔王「うん。おやすみ」


アビシニア「おやすみなさい」


 アビシニアは魔王に挨拶を返すと部屋を出て行った。魔王はアビシニアの後ろ姿を見送った後、部屋の椅子に腰かける。そして、暫し考えるように瞳を閉じる。腕を組み、瞳を閉じた魔王は、ゆっくりと息を吸い込むと瞳を開きチーに顔を合わせる。


魔王「チー」


チー「なに? 魔王」


 魔王の声にチーは髪をなびかせながら振り返る。


魔王「ライフルの手入れを念入りにしといてくれ」


 魔王の真剣なトーンで呟いた一言に、チーは自身の身に着けるライフルを、やや尖らせた視線で見つめる。


チー「了解」


魔王「お前の技術が必要なりそうな予感がする」


 魔王の言葉にチーは頷くと言葉を返す。


チー「魔王の予感当たるんだよね。了解だよ」


魔王「うむ」


 チーはライフルの整備を行うように腰を下ろすとスコープ越しに見える景色を見渡す。


魔王「明日は忙しいぞ」


 魔王は独り言を呟くと、そっと椅子から立ち上がるのだった。



 エスペラと魔王がエヴィルスの脅威を確認した時、ウーガーもまた惑星に迫る脅威を森の中で感じ取っていた。夜空には星が瞬くとウーガーは自身の足元にすがる二人の子供ライブリーとクライリーに顔を合わせる。

 その時だった。ライブリーとクライリー二人の身体が発光し始めると言葉を話し始める。


???「コノワクセイにキョウイがセマッテイル」


ウーガー「あー、わかってるよ」


 子供の声とは似つかわしくない声がウーガーに響くと、その声にウーガーはじれったくも取れる態度で声を返した。


???「コノワクセイをマモレ」


 ライブリーとクライリーから発せられる声に、ウーガーは首を即座に横に振ると否定するように言葉を返す。


ウーガー「断る」


 ウーガーの即座に否定する態度に、二人の子供の身体が蒼く発光するとしばしの間を挟んだ後に言葉を返す。


???「ソレはケイヤクイハンだ」


ウーガー「まあ、話を聞けよ。クソッタレ」


 ウーガーは謎の声に諭すように声を返すと悪態をつく。悪態をついたウーガーは自身の牙を見せつけるように笑う。


ウーガー「器なんだろう? あいつが…」


???「………」


ウーガー「始めっから可笑しかったんだ。ライブリーとクライリーの姿も感じ取っている」


???「アノコはトクベツ。だが、ウケイレテクレナイ。エイユウにはナラナイトチカラヲキョヒスル」


 二人の子供は発光しながら言葉を紡ぐと首を横に振る。

 ウーガーはそんな態度を示す謎の声の持ち主に何度も小さく頷くと言葉を返す。


ウーガー「だろうな。馬鹿みたいに魔王、魔王ってうるせーからな」


???「アノコにスベテをウケトッテホシイ。だが、エイユウのチカラをコバム」


ウーガー「うがが。余程嫌われてんだな、お前」


???「チョウシにノルナヨ。キラワレモノが」


 ウーガーは自身の牙を見せつけながら笑うが、蒼く発光する二人の子供は瞳を尖らせると強く言葉を返した。


ウーガー「うがが。そこでだ…」


 ウーガーは笑いお声を上げた後、暫し満点の星空を見上げると蒼くも光る星空に向かい視線を持っていった。


ウーガー「俺が戦闘を拒否する事で、あいつに器の力を受け取らせる。それなら、いいだろう?」


???「…アノコがチカラをウケトッテクレルナラ」


ウーガー「いざとなったら絶対にあいつは力を受け入れる。今度のやつはやけに力がでけー。人類の為にあいつは必ず力を受け取る」


 ウーガーは微笑むように笑うと言葉を続ける。


ウーガー「今度のやつは人類にとっても脅威となるはずだ。必然的に注目も集める」


???「ソレがドウシタ?」


ウーガー「要はもうあいつが力を受け取らなければ、敵を倒せない。しかも、倒させればこの惑星の救世主。お前の言う英雄の出来上がりだ」


 ウーガーは言い切ると再び笑い声を上げる。夜闇に響くその笑い声はこだまするように周囲に散らばる。


???「ナゼ? オマエゴトキがイイキレル」


ウーガー「何故って? あいつがこんなラストを望んじゃいないからだ!」


???「………」


 ウーガーは声を大きくし答えると二人の子供は沈黙する。沈黙して数秒、蒼く微発光しながら星が瞬くように点滅を繰り返す。ウーガーは二人の子供に視線を合わせると笑顔を見せる。


ウーガー「それに、俺もこいつらを手放す事ができる」


 ウーガーは二人の子供を片手で指し示すとフッと息を吐いた。


???「ナゼ? ザンシをテバナシタイ」


ウーガー「あいつなら、こいつらを雑には扱わないだろ。違うか?」


???「…アノコナラソウナノダロウ」


ウーガー「だろう。俺の過ちを修復する保険ともようやくおさらばだ。うがが」


 ウーガーは笑い声を上げるが、二人の子供は視線を尖らせると口を開く。


???「ソノコタチもオマエも、ショセンエイユウにトッテのカザリだ」


 ウーガーは謎の声の発した言葉に顔を顰めると牙を噛み砕く様に擦り合わせる。牙の軋む音が鳴る中、二人の子供は沈黙したように口を閉じる。ウーガーは歯痒そうに舌打ちを返した後、言葉を返す。


ウーガー「次に飾りって言ったらぶち壊すぞ!!」


???「オゴルナヨ、キラワレモノ。ショセンカザリはカザリだ」


ウーガー「次にマジカまで侮辱したらぶち壊すかんな…」


 ウーガーは静かに言い放つと殺気を纏ったように佇む。


???「ナゼ? オマエはアノコにチカラをモタセタイ? ソレガワカラナイ?


ウーガー「ここまで御膳立てしてやるんだ。お前と契約を交わしたい」


???「…ケイヤク? ナンダ、イッテミロ」


 ウーガーは謎の声の言葉に一度頷くと尖らせた視線で二人の子供を見つめる。


ウーガー「ああ。この戦いの後、俺と器を持ったあいつと戦わせろ」


???「ウツワをモタナイオマエゴトキガ、アノコにイドムだと?」


ウーガー「ああ」


???「コッケイなハナシもアッタモノダ」


ウーガー「どうなんだっ?」


 ウーガーの言葉に二人の子供は瞳を蒼く輝かせると瞬きを繰り返す。瞳の奥には蒼く輝く星空が映りこむと点滅を繰り返す身体は再び発光する。


???「…イイダロウ。ショセンカザリゴトキがドウニモナラナイコトをショウメイシテヤロウ」


ウーガー「契約成立だな」


???「ウツワをモタナイイミをシルトイイ。キラワレモノ」


 ウーガーは吐き捨てられた言葉に再び視線を尖らせると睨むように二人の子供を見つめる。見つめた先には蒼く輝く瞳が星空を象徴するように光ると暗転したように輝きをふっと失う。ウーガーはそれを確認した後、満天の星空を見上げながら微笑んだのだった。



 翌朝。魔王達は目覚めるとアビシニアと直ぐに合流する。心配だったルーの体調も回復しており、今朝は元気そうに笑っている。魔王はそれを確認すると朝食を取った後に、地上への転送装置の元にアビシニアと共に向かう。向かった先には、エジが待ち構えるようにサンルーフ付きの自動車の窓から腕を出して手招きする。魔王達はその合図に従うようにエジに近寄ると、魔王はエジに声を掛ける。


魔王「よろしく頼むぞ。極太眉毛」


エジ「ああ、運転は任せろ。だが、エヴィルスの動き次第では急な展開もあり得るからなっ」


魔王「ああ、承知した」


 魔王はエジと会話を交わすと後部座席にルーとチーと共に乗り込む。アビシニアも魔王達に合わせるように助手席の乗りこむとエジは近くに佇むリカンシに窓から顔を出して声を掛ける。


エジ「リカンシ。俺がいない間、エヴィルスの件は任せるぞ」


リカンシ「任されたよ。みんなも準備が出来てるよ」


エジは運転席側の窓を開くとリカンシと会話を交わした。お互いに顔を合わせ頷き合うとエジは前を向くようにして視線を戻した。


エジ「じゃあ、行ってくるぜ」


リカンシ「わかった。転送するね」


リカンシの声にエジは了解ずる用に親指を立て合図するのだった。


魔王「そう言えば何で今回は車なんだ?」


エジ「もしかしたら母船には誰も居なくなるかもしれないし、俺達的にウーガーを母船に転送するわけにはいかないだろう」


エジの説明に魔王は納得したように首を縦に振る。


魔王「確かにあいつの立ち位置的にはそうなるか…」


魔王とエジが会話する中、空間が歪曲すると地表への転送が完了する。

地上に降り立ったエジは車のアクセルを右足で踏むと、ウーガーの元へ向かうのだった。






 

 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る