第17話 アクセント
エヴィルス襲来に備え、エスペラ隊員10人に魔王を加えた会議が始まる。
♢
球体の座椅子に皆が着席すると、エジは席から立ち上がる。
どこか納得いかないと言わんばかりに不機嫌な顔つきを皆に披露するが、気持ちを切り替えるように大きく吐息を漏らした。
エジ「はぁ…気にいらねーけど、始めるぞ」
エジは一瞬睨むようにして魔王に視線を合わせると嫌味を言うが、自身を落ち着かせるように鼻から息を漏らすと、再び隊員に顔を合わせる。
エジ「ファインダーからエヴィルス襲来の報告を受け
緊急で皆を集めた」
魔王「・・・アビちゃん。ファインダーって何?」
魔王は邪魔にならないよう小声でアビシニアに話しかけるとアビシニアは首だけ後ろを振り向く。
アビシニア「ファインダーとは観測者の事です。
要は見張りみたいなものですよ」
アビシニアの回答に魔王はエジに気づかれないように小さく頷く。
エジも小さく頷く魔王に気づくが、無視するように視線を外すと話を続ける。
エジ「エヴィルスは知っての通り、あんな身なりだが、
飛来する時にしか観測できねーような奴だ」
エジは皆に話しかけながらディスプレイに指先を翳す。
指先を翳したディスプレイは即座に点灯すると、画面にはエヴィルスの姿を捉えた映像が流れ始める。
魔王は映像に映るエヴィルスの姿を見ると驚愕するように瞳と口を大きく開ける。
仰々しい見た目の生物を魔王は想像していただけにディスプレイに映るエヴィルスの姿は、あまりにも自身の想像とはかけ離れていたのだった。
金属のような光沢を鈍く輝かせる巨体。
顔についた無機質な赤色に光る丸い目。
ギザギザと顔の端まで切れた大口は時折大きく開くと若干丸みを帯びた顔は機械的な動きを繰り返す。
その姿はまるで自身が好むロボットアニメのような出で立ちで魔王は仰天するように席から立ち上がると大きく声を漏らす。
魔王「ろ、ロボットじゃないか!!」
エジ「っ!!」
エジは魔王の上げた大きな声に、いらついたように瞼を引きつらせると机に拳輪を押さえつけるように顔を下げる。
額には青筋が浮かび上がりそうな程に眉間にしわを寄せると、激しく引きつるように震える唇を大きく開いた。
エジ「ロボットじゃねーよっ!!!!」
魔王「!!」
魔王はエジの叫びにも似た声に、驚愕したように開いた目であわあわと顔を左右に大きく振る。左右に大きく振った魔王の視線の先には少しだけ口角を緩めたアビシニアの姿が映る。
アビシニア「エヴィルスは機械ではないんですよ。
外見はそう言う風に見えますが、
あれはウィルスの一種です」
魔王「・・・ウィルス?」
アビシニアの声に魔王は大きく首を傾けると不思議そうに垂らした眉でエヴィルスの映るディスプレイを眺める。
エジは興奮したように鼻から荒い息を何度も漏らすが、少しだけ落ち着きを取戻したのか少し震える顔を上げた。
エジ「・・・あぁ。アビーが言った通り
あいつの正式名称はエンドウィルス。
だから、通称エヴィルスだ」
エジの補足した説明に魔王は何度も頷くと呆然と見上げていたディスプレイから視線を反らす。
魔王「こんな事言っては何だが…」
「宇宙の神秘だな…」
エジ「神秘なわけねーだろっ!!」
エジは息切れを起こしそうになる位に大きく声を荒げると呼吸を整えるように肩を揺らしながら吐息を漏らす。
リカンシ「そうだね。
エジ副官が言うよう、あれは神秘などではない。
幾つもの惑星を滅ぼした最悪な生物の一つなんだよ」
リカンシは深刻そうに顔を尖らせると魔王を見つめる。
見つめられた魔王は他のエスペラ隊員を確認するようにして見渡す。
魔王が見渡す限り、リカンシ以外の隊員も笑い声を上げる暇など無いと言わんばかりに真剣な表情で自身を見つめると、魔王は場違いな態度を改めるように皆に頭を下げるのだった。
魔王「申し訳ない。事の重大さを理解していなかった」
ヒマラ「分かってくれれば、別に頭を下げなくてもいいよっ」
ヒマラは頭を下げた魔王に言葉を返しながら右手を振る。
頭を上げた魔王もヒマラの仕草に気づくと申し訳なさそうに言葉を返す。
魔王「えーと・・・お母さん的ポジションの人、ありがとう」
魔王の一言にヒマラは引きつったような苦笑いを返した。
ヒマラ「…あんたのお母さんでは無いけどね。ヒマラだよっ」
魔王「承知した。ヒマラさんだな。ありがとう」
魔王はヒマラに言葉を返すと合図するように右手を上げる。
場が収まったのを確認したリカンシは、再び深刻そうな吐息を漏らすと魔王を重々しい面持ちで見つめる。
リカンシ「でもね、本当に笑い事じゃないんだよ。
特務機関エスペラとエヴィルスの戦いは
君の想像を絶すると思うよ」
「魔王君…」
魔王「・・・・・・」
魔王はリカンシの表情をすぐに察すると無言で見つめる。
リカンシ「何度も何度も、こいつには、
煮え湯を飲まされているんだ・・・」
リカンシは大きくと息を漏らした後に、エヴィルスの映るディスプレイに指先を翳す。指先を翳したディスプレイは瞬時に切り替わると映し出された映像には、惑星に居る生物を根こそぎ吸着するようにして捕食するエヴィルスの姿が映る。時折エヴィルスの脅威に奮闘するように戦うものも映像に映るが、魔王から見ても、とても笑い事では済まされない光景に大きく見開いた目を閉じることができなくなるのだった。
エジ「少しは分かったか。笑い事じゃねーんだよ…」
エジは不貞腐れたような物言いながらも、深刻そうに尖らせた瞳を横に反らす。
事の重大さをようやく理解した魔王はゆっくりとディスプレイから顔を反らすと
皆に少しだけ青ざめた顔を合わせた。
魔王「こんなやつを、ここにいる10人で退治するつもりなのか・・・?」
魔王の問いかけにリカンシは深刻そうな顔で頷く。
リカンシ「助力は直ぐにお願いしてる。…だけど」
リカンシはエヴィルスの映るディスプレイを指差しながら魔王に顔を合わせる。
リカンシ「こいつの到着の方が早いというのが事実なんだよ…」
魔王「・・・・・・」
リカンシに発した一言で重々しい雰囲気が部屋を包む。
脅威といわざる事実と重く圧し掛かる重圧。
困難と言わざるおえない状況に誰もが口を紡ぐ中、一人机に腕を組んだ状態でうつ伏せていたマンチは多少不貞腐れた顔を上げるのだった。
マンチ「・・・大丈夫ですよ。マンチがいるんで」
少々瞼を垂らした姿で当然のように豪語するマンチに皆は顔を合わせる。
マンチ「クソ兄貴だって撃退に成功してるんですから…」
「マンチなら余裕です」
マンチは言い放つと、再び机にうつ伏せるようにして視線を反らす。
少しだけ棘のある言い方も、不貞腐れるような態度も、魔王から見ると先ほど自分が休憩室前で目にした取り押えられる様な光景を引きずっているに思えてしまうのだった。
エジ「…そうだな。今回のメンバーにはお前がいるからな。マンチ」
マンチ「ですです。マンチいるんで余裕です」
エジの期待するような一言にも、マンチは机にうつ伏せになった状態で余裕と言わんばかりに右手をヒラヒラと揺らす。
スコティ「そうですね。
失敗した事実も、撃退した実績も
両方持つのが、私達エスペラ隊員です」
スコティは照明の光を反射されるように身に着ける眼鏡を光らせると皆に声を掛ける。その冷静沈着な物言いに皆は何度も頷くとエジは少し安心するように口角を緩め、吐息交じりの言葉を返す。
エジ「だな、スコティ。何も失敗ばかりじゃねーからな・・・」
皆が少しだけ重苦しくなっていた雰囲気が和らいだように感じる。
エジは和らいだ雰囲気を感じ取ると、リカンシに話を進めると合図するように自身の顎先を上に向けた。
魔王「話の腰を折るようで、すまない。
一つ教えてくれ」
エジ「また、お前かよっ!」
魔王は少々横に傾けた首で口を閉ざした憂え顔を見せ付ける。
口元に添えた人差し指はどこか心配事があると訴え掛けているようで、邪険に言葉を返したエジだったが、少し強めに息を吐くとドカッと椅子の背もたれに体を預ける。
エジは不機嫌な顔つきながらも自分に顔を合わせる魔王をふんぞり返るようにして見ると、頭の後ろで両手を組んだ。
エジ「何が聞きてーんだよ?」
魔王は不躾な態度ながら言葉を返してくれたエジに頷き返すと多少鋭くなった眼差しで見つめる。
魔王「・・・ずっと疑問だったんだ」
エジ「何がだよ?」
エジは自身の顔を指先で掻きながら、視線を上に向けると言葉を返す。
その聞き返したうんざりとした声色も、わずらわしいと言わんとする態度も他者から見てもエジが魔王のことを疎ましく思っているのは明白だった。だが、魔王は不躾ながら言葉を返してくれたエジに応えるように頷くと少しだけ目力の強い瞳を緩めるのだった。
魔王「君たちは70億の人口を、たった10人で救うつもりだったのか?」
エジ「・・・・・・」
魔王の問いかけに、エジは間を作るように魔王を見つめる。
暫く無言で見つめた後、大きく頭上に両手を広げるのだった。
エジ「なわけねーだろっ! よく考えてみろ。
たった10人で救えるわけねーだろ!!」
エジの呆れたと言わんばかりの物言いに魔王は首を傾げる。
魔王が見た限り、招待された母船内には卓上を囲むメンバーしか見当たらなかった。広い母船内に他のメンバーがいたとしてもエヴィルスの脅威に対し、集まったのは卓上を囲む10人のみ。魔王は考えるほどに縺れていく頭の中を整理するように顎先に手を添えると考え込むのだった。
リカンシは考え込むような仕草を見せる魔王に顔を合わせると声を掛ける。
リカンシ「わからなくても無理ないよ」
魔王「・・・」
リカンシ「僕等はさっきも言ったけど、特務機関なんだ」
魔王「?」
リカンシは優しげな物言いで魔王に語り掛けるが、魔王は尚更訳がわからなくなったと言わんばかりに眉間にしわを寄せた顔を捻るのだった。
アビシニア「特務機関があれば、常務機関もあるって事です」
魔王「…常務機関」
エジ「そうだっ。
簡単に言やー、荒事の対処もしてんのが
うちら特務機関だ!」
エジはアビシニアの言葉に付け加えるように補足すると背もたれにもたれ掛かるようにして、どっしりと腕を組む。
マンチ「魔王。マンチが腕燃やしてたじゃないですか?」
マンチは会話に割り込むと、魔王に自身の両腕を見せ付けるように顔の前に突き出す。
魔王「あ、ああ」
マンチ「マンチら特務機関のメンバーは、言ってしまえば
全員が特殊技能持ちなんですよ」
マンチは頷き返した魔王に得意げに言葉を返すと皆を指し示すように両手を広げる。
魔王が皆を見渡すように顔を動かすと顔を合わせたメンバーは魔王に頷き返す。
近くにいたアビシニアも頷き返すと顔を合わせた魔王に声を掛ける。
アビシニア「私の瞳#7は一般には認識できないものを
見ることができます」
アビシニアは魔王に声を掛けると自身の瞳を閉じるようにしてに力を込める。
開いたアビシニアの瞳は見た目で分かるように白く変色すると記号のような紋様が浮かび上がる。魔王は近くで見せつけられたアビシニアの稀有な瞳を拝見し驚いたように瞬きを繰り返す。
アビシニア「こういう個別の能力の事を
私達はアクセントと呼称しています」
魔王「アクセント・・・」
魔王は小声で呟いた後、ようやく理解できたと合図するように、大きく頷くと言葉を返す。
魔王「そういうことか・・・」
エジ「ようやく、気づいたみてーだな」
エジは鼻から息を抜くと大きく声を上げ、理解を示した魔王に片方の瞳だけを細めた少しだけ高慢な態度で言葉を返した。
魔王はエジの言葉に頷き返す。
頷き返した魔王は瞳を閉じると言葉を返す。
魔王「要するに・・・」
魔王は閉じていた瞳を開ける。
開いた瞳はディスプレイに映るエヴィルスの姿を映すと深刻そうに尖らせた顔つきで皆を見つめる。
魔王「エヴィルスとまともに戦えるのは、
ここにいる10人だけと言う事だな・・・」
魔王の発した言葉にエジは首を揺すりながら頷く。
多少細めた目つきながら理解を示した魔王に、しかめるようにした顔を合わせると言葉を返す。
エジ「そうだ。メインで戦う事ができるのは
特務のメンバーだけだ」
魔王「・・・」
返答をもらう前から魔王も理解していた事だったが、エジから告げられた内容は重大さを助長させる。
魔王は絶え間なく流れるエヴィルスの映像を見つめる。
自身は戦う事は無いとはいえ、特務機関が抱える問題を目の当たりにし、魔王の中で現実味を帯びてくる恐怖のような感情は肥大する。自身の背筋にも張り詰めたような緊張が伝わると、冷や汗からか少しだけ湿った掌を隠すように合わせた。
メンバーが直面する事実を認識した魔王は改めて皆を見渡す。
魔王は込み上げてくる焦燥感故かおぼつかない視線を揺らすが、エジは一呼吸入れるように自身の前髪を掻き上げると堂々とした物言いで魔王に声を掛ける。
エジ「安心しろ。
特務のメンバーは荒事には慣れてんだ」
魔王「・・・」
エジ「じゃなきゃ、こんな所で座ってるわけねーだろうが!」
エジは粗い口調ながらも不安げな表情を見せる魔王を気遣うように声を掛ける。
エジは両方のわき腹に手を添え、ふんぞり返るように脚を組むと顔を合わせた魔王にややしたり顔を披露しながら微笑む。
エジ「常務の連中も補助はできる。
数も特務に比べると格段に多いし、
陽動や被害抑制はあいつらの仕事だ」
魔王「・・・」
エジ「まっ、あいつ相手に前線に出させると
こっちは相当な被害がでるけどな」
エジは頭の後ろで組んだ腕を頭上に掲げると再び魔王に微笑む。
マンチ「だ、か、らぁ! マンチ居るから大丈夫ですって!!」
エジ「だから期待してるって言ってんだろうがっ!」
リカンシ「もうー、二人ともエヴィルスと戦う前に喧嘩しないでよー」
スコティ「いつもの事ですよね。ヒマラさん」
ヒマラ「毎度の事だね。定例行事みたいなもんだよ」
ラグドーラ「…多少騒がしいがな」
キジ、サバ「「でも、緊張は解れます」」
セルカーク「にゃ」
机を叩きながら口論を始めたマンチとエジ。
言い争うような姿勢をみせる二人を止めるリカンシ。
他のメンバーも落ちつたように会話を交わし始めるとアビシニアは無言で佇む魔王に顔を合わせる。
アビシニア「ふふっ。いつもこうなんです。
だから・・・」
アビシニアは満面の笑みを浮かべると魔王に声を掛ける。
アビシニア「私たちに任せてください」
魔王「…はは。凄いな特務機関という奴は」
魔王は間を開けた後に笑い声を上げると感心したようにエスペラの皆を見渡す。
先程まであった重苦しい雰囲気も消え去ると、まるで日常のように談笑し始めたメンバーを魔王は少し不思議気な顔つきながら見つめる。皆に釣られる様に上がりだした自身の口角に少し呆れたように微笑むのだった。
マンチと口論するエジだったが微笑む魔王が視界に入るとマンチに掌を見せつけながら魔王を振り返る。
エジ「気持ちわりー笑み浮かべてんじゃねーよ」
魔王「いや失敬。改めて俺も協力すべきと思ったところだった」
エジ「話し聞いてたのかよっ!
お前の出る幕なんて微塵もねーぞ!」
魔王はエジから叱咤するような言葉を掛けられるがいつもの調子が戻ったのか片手を上げると不適に微笑む。
魔王「安心しろ。俺に戦う力は無い。
だから・・・」
魔王は一呼吸空けるように息を吸い込むと両腕を組む。
がっしりと組んだ両腕と床を踏みしめるように開いた両足は威厳や貫禄のようなものを漂わせる。皆を射るような眼差しは鋭さを増していくと、皆の視線を集める魔王は口を開く。
魔王「俺はウーガーに助力を求めに行く!」
エジ「・・・はぁ?」
魔王は堂々とした物言いで皆に言い放つと再び不適に微笑む。
微笑む魔王とは違い、エジは呆れたように口を開くと情けなくも聞こえる声を漏らす。
エスペラの皆も返答に困るような反応を見せるが、アビシニアは瞳を閉じながら頷いた後、リカンシに意を決したように話しかける。
アビシニア「リカンシ艦長。私も魔王さんと一緒にウーガーに
会いに行かせてください」
リカンシ「んん? アビちゃんも行きたいの?」
リカンシは少しだけ困惑するように眉を垂らすが、アビシニアは真剣な表情で頷き返すと言葉を返す。
アビシニア「はい。私も魔王さんについて行って、
ウーガーに助力をお願いしたいです」
リカンシ「んーー・・・」
アビシニアは懇願するように頭を下げるとリカンシは自身の伸びた顎鬚を触りながら
考え込むように視線を下に向ける。
魔王はリカンシに訴えかけるアビシニアを見て、解顔するように表情を和らげながら声を掛ける。
魔王「ん? アビちゃんも付いて来てくれるのか。
心強いな」
エジ「アビー!! 馬鹿いうなっ!」
エジは机に体を乗り出すようにして粗い口調でアビシニアに声を掛ける。血相を変えたように瞳を尖らせると机に付いた掌で体を持ち上げる。
エジ「あいつが助力なんかするわけねーだろうがっ!
余計な手間とるだけだっ!」
アビシニア「エジさん・・・」
エジは声を荒げると激昂するように体を震わせる。
冗談を言うなと言わんばかりに片方の眉を上げると鼻息も荒く振り返ったアビシニアを睨みつける。睨みつけるエジの頭の中には、自身が数刻前に目の当たりにした、ウーガーの凶暴な姿が思い浮かぶと、若干身震いすら起こしそうになるのだった。
リカンシは二人の会話が耳に届くと、閉じていた瞳をゆっくりと開く。
リカンシ「・・・いいよ。許可する」
アビシニア「リカンシ艦長」
エジ「リカっ!!」
アビシニアは晴れやかな笑顔を見せる中、同時に声を出したエジは荒ぶるように声をあげた。リカンシは両者の対極的な態度を確認しながら、そっと腕を左右に伸ばすと自身を挟むようにして言い合う二人に掌を向ける。
リカンシ「エヴィルスの到着予定は今日から2日後。
明日にでも向かってもらえるかな。
・・・ただし」
リカンシは間を挟むようにして言葉を止めるとエジを振り向く。
リカンシ「エジ副官も同行しなさい」
エジ「なっ!!」
リカンシからの突然の申し出にエジは大きく目を見開きながら声を上げる。
上げた声もどこか反射的で、面食らったような顔つきも合わさると、リカンシの申し出が余程自身の意見にそぐわなかったと表情だけで察することができる。
リカンシもエジの内情を察したのか、一度頷くようにして間を挟むと言葉を付け加える。
リカンシ「正直、僕もアビシニア一人だと少々不安なんだ。
彼女の能力は戦闘向きではないしね・・・」
エジ「だったらっ!!」
リカンシ「だからこそだよ・・・、
エジちゃんがついていってあげて欲しいんだ」
エジ「なんで! 俺が!」
リカンシに諭すような声にも、エジは反論するように声を荒げる。
荒げた声も、尖らせた瞳も、リカンシから見て、納得がいかないと言うことは明白で、自身に食いかかるような態度は昔を思い出させる。ただ、一見短気に見えるエジの内情を知るリカンシだからこそ、エジしか適任がいないように思えてしまう。
リカンシは優しく垂らした両方の瞳をエジに見せつけるとゆっくりと口を開く。
リカンシ「知っての通りアビちゃん。
顔に似合わず強情だからさ・・・」
「誰に似ちゃったんだろうね・・・」
リカンシの昔を懐かしむような視線と物言い。
リカンシが思い浮かべているだろう人物の事が、エジの脳裏にもすぐさま浮かび上がる。
♦
エジ「待て! シャル!」
シャルトの後ろを追いかけるようにしてエジは声を上げると、止まれと合図するように力強く肩を掴む。
肩を掴まれたシャルトは振り返ると端麗な顔つきながら多少怒気を帯びたような視線を合わせた。
シャルト「エジ。僕は納得がいかない」
エジ「シャルー・・・」
顔を合わせたシャルトの視線は自身の意見を曲げないと言わんばかりにまっすぐとエジを見つめる。
シャルト「惑星を救った後こそ重要なんだ。
僕にはそれを蔑ろにする事なんて出来ない」
普段は温厚なシャルトだが、時折見せる意気地なまでに強情になる事を知っているエジは顔を歪めながら吐息を漏らす。
エジ「・・・わかった。わかったよ! …俺も行く」
シャルト「うん。ありがとうエジ。一緒に行こう」
エジ「・・・はぁ、どうしてお前は」
エジはシャルトの発言に根負けしたようにため息を漏らすと、いつもこのような状態になる事に頭を抱えるようにして髪をかきむしる。
エジ「どうして、お前はいつもそうなるんだよ…」
シャルト「それはさ…」
シャルトは満面の笑みを浮かべるとエジを見つめる。
シャルト「僕が皆の意見を聞きたいからだよ」
エジ「そういうと思ってたよ。…はぁーちくしょー」
シャルト「いつもありがとう。エジ」
エジ「どういたしましてだっ!」
♦
エジは思い出した光景に頭を項垂れせる。項垂れた頭をそっと上に向けた時、見えたアビシニアの表情に分かりきったような溜息を一つつくのだった。
エジ「はぁー、わーたっよ。俺がついていく」
アビシニア「エジさん!」
エジ「だけどな、アビー! 俺はあいつを信用したわけではないからな!!」
エジの頭痛の種と言わんばかりの表情にアビシニアは笑顔を見せる。アビシニアは晴れやかな笑顔を見せるが、エジは再び顔を尖らせるとアビシニアと魔王を睨むのだった。
エジ「時間がねー。最悪すぐに離脱するからな」
魔王「ああ。それで構わん」
エジと魔王は睨みあう様にお互いを見つめる。両者に因縁めいた雰囲気は漂うが、魔王はコクリと首を一度縦に振ると笑顔を見せるのだった。
魔王「ありがとな。エジ」
エジ「どういたしましてっ! だ! 魔王さんよ!」
笑う魔王とアビシニアは二人で両手を合わし喜ぶ。
エジはそんな二人にしかめっ面を更に尖らせるとリカンシを見つめる。
エジ「覚えとけよ! リカ!」
リカンシ「何の事だかわかんないなー、僕には」
リカンシはエジに睨まれながらも、惚けたような笑みを浮かべた後に皆を再び見つめる。
リカンシ「エヴィルスを引き付ける為の撒き餌は常務機関がやってくれてる」
リカンシは再び真剣な表情に戻ると皆に活を入れるように声を張る。
リカンシ「戦いの舞台はウーガーのいる、この場所になるよ!! いいね!!」
リカンシは地図を指し示すと、皆も大きく頷くのだった。
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