第13話 帰艦
地表から母船の大広間に転送されたエスペラの面々と魔王達をよく似た出で立ちの男女が出迎える。
???「「お帰りなさい、皆さん。いらっしゃいませお客様」」
同時に喋り、同じように頭を下げるとリカンシは同じ動作をする2人に近寄ると声をかけるのだった。
リカンシ「ありがとね〜。キジサバちゃん」
キジト、サバト「「いえ、どういたしまして」」
魔王「かわいいな。小学生のコロポックルみたいだ」
魔王はリカンシと話すキジトとサバトの二人を見ながら呟く。魔王の呟く声が聞こえていたのか、隣にいたマンチが魔王に顔を合わせる。
マンチ「魔王。キジサバさん、この惑星の年齢でいうと30代くらいですよ」
魔王はマンチの言葉に少しだけ目を大きく開くとマンチに視線を合わせる。
魔王「…えっ?」
マンチ「キジサバさん。私達と種族が違うんですよ。エスペラって色々な種族の人が働いているんで」
魔王「そうなのか。…しかし、俺と同じくらいの歳とはなー…いやはや」
魔王は頭を掻きながら言葉を吐くと、今度はマンチがギョッとした顔を魔王に見せる。
マンチ「…え? 魔王30代なんですか?」
魔王「ああ、30手前だな」
魔王はマンチに微笑みながら自らの歳を答えるが、外見から判断していたマンチにとっては予想外だったらしく何度も左右に首を振る。
マンチ「全っ然見えない。マンチ10代かと思っていました…」
ルー「ふふふ、まーちゃん心が少年だから〜、そう見えるんだよ〜」
ルーはニコニコした笑顔で魔王とマンチの会話に混ざると、隣にいたチーも改めて魔王の顔を確認するように見るのだった。
チー「確かに魔王若く見られるよね」
ルー「そうそう〜、小学生とよく遊んでるから余計そう見られるんだよ〜」
マンチ「まっ、マンチ的には強ければ年齢なんてどうでもいいですけどね」
マンチは頭の後ろで両手を組むと顔を斜め上の方向に向けるのだった。
女子たちの自身の年齢についての会話は続く。
そんな状況を魔王は口を出さずに見ていたが、不意に踵を返すとリカンシの元へ歩いていくのだった。リカンシの周りにはマンチ以外のエスペラメンバーが総集結しており、魔王の知らない丸顔、丸ぶち眼鏡の女性と多少小太りの女性二人が、しきりにラグドーラとセルカークの体に光を当て、動かしていた。
魔王はそれを確認するとエジと喋るリカンシに声を掛ける。
魔王「ヒゲモジャ。ネコ子の容態は?」
リカンシは魔王の声に振り返る。振り返った先には魔王が真剣な表情で自身を見ていた。
リカンシは魔王に顔を合わせた後にセルカークに視線を持っていく。
リカンシ「…あ、ああ。今調べているところだよ」
魔王「そうか。…大丈夫そうか?」
魔王は体を調べられているセルカークを一度見た後に、再びリカンシに顔を合わせる。顔を合わされたリカンシは魔王に頷き返すと口を開いた。
リカンシ「大丈夫だと思うよ。この後、治療室に向かうはずだし」
リカンシの言葉に魔王は微笑む。
魔王「そうか、良かった。ありがとう」
エジ「・・・お前は邪魔になるからあっち行ってろよ」
リカンシに頭を下げた魔王だったが、突然会話に混ざってきたエジに邪険に扱われるとエジに顔を合わせる。顔を合わせたエジは不機嫌な面持ちで右手をシッ、シッと、まるで小動物を払うように動かす。
魔王「・・・極太眉毛は俺の事が嫌いみたいだな」
エジ「ああ、そうだよ! お前の顔を見るとイライラすんだよっ!」
不快感を表すエジは口調も荒く言葉を返すが、魔王はなぜだか微笑むのだった。
魔王「俺は、今はお前の事好きだぞ。仲間思いの良いやつそうだし・・・」
魔王はエジに触れられる程度に近寄り、顔を合わせる。
魔王「世話好きだしな・・・」
魔王は微笑みながら、エジの肩を優しく叩く。
エジは魔王の言動に大きく鼻から息を吐くと、少しだけ血色の良くなった顔を合わせた。
エジ「知ったような口を聞く、そういう所も腹立つんだよ! お前は!」
エジは怒っているのが丸わかりの態度で口を大きく開くが、魔王はエジの怒った姿を見て再度笑い声を上げた。
リカンシ「・・・似てないけど、似てるんだよな〜。・・・あの笑い方とか」
怒るエジと微笑む魔王。
リカンシは対照的な二人を見ながら、誰かを懐かしむような顔で呟くのだった。
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暫くして運搬用の機器が到着するとセルカークとラグドーラの二人は医務室に運ばれるらしく車輪のついた運搬具に載せられる。魔王もセルカークに付いて行くような素振りをみせるが、不意にリカンシに呼び止められるのだった。
リカンシ「ちょ、ちょっといいかな〜」
リカンシに呼び止められた魔王は勢いよく振り返る。
魔王「ん?」
リカンシ「少しだけ、僕と別室で話せないかな〜」
魔王は一度セルカークに顔を合わせる為に振り返ると優しく微笑む。
魔王「ネコ子。すぐにお見舞いに行くから待っててくれ」
セルカーク「にゃ」
魔王は軽く会釈するとリカンシに顔を合わせる。
魔王「失礼した。ああ、俺で良ければ」
リカンシ「よかったぁ〜。君はカー君に付いていくとか言いそうだったから」
魔王「いや、俺がついて行っても騒ぐだけで―――」
魔王はリカンシとの会話の途中でセルカークの顔を再び見るために一度振り返ると、再びリカンシに顔を合わせ微笑む。
魔王「―――ネコ子の治療の邪魔になりそうだからな…」
リカンシ「君は本当にカー君の事好きだね〜」
魔王「ははっ、それは間違いない事実だな」
腕を組んだ魔王大口を開けて笑う。
リカンシも魔王に触発されたように顔を緩めるとお互い笑い合うのだった。
リカンシ「ここじゃなんだから僕の部屋で話そう」
魔王「ああ」
リカンシは魔王の言葉に頷いた後、エジに顔を合わせる。
エジはリカンシたちの側にはいたが会話には混ざってこず、壁に持たれかかるとイライラと爪先で床を叩き続けていた。
リカンシ「エジちゃん」
エジ「行かねーよ!」
エジはムスッとした顔で即答すると、そっぽを向く。
若干リカンシの声に被るように答えたことからも、直近の態度からも、エジの性格を知るリカンシは、絶対についてこないなと感じ取れてしまうのだった。
リカンシ「…うん、わかったよ」
リカンシは静かに頷くと魔王に顔を合わせる。
リカンシ「ごめんね。じゃあ、行こっか」
魔王「ああ、問題ない」
魔王はリカンシに手を上げながら返答すると、二人は大広間から出ていこうとする。魔王が大広間から出ていこうとすると、魔王の後ろからトタトタと床を蹴る音が近づいてくる。その足音は大きくなっていくと、不意に魔王は後ろから声をかけられるのだった。
ルー「まーちゃんどこ行くの〜?」
魔王が後ろを振り返ると、ルーとチーと視線が合う。魔王は自身の前を歩いている
リカンシを指差す。
魔王「ああ、ヒゲモジャが別室で話があるそうだ」
リカンシ「・・・ヒゲモジャって」
ルー「へ〜〜。私達もついていっていーい〜?」
ルーの問いかけが聞こえたのかリカンシは後ろを振り返る。
リカンシ「うん、別にいいよ。着いてきて」
リカンシはそう告げると再び前を向いて歩き出す。魔王はリカンシに頭を下げると案内されるように別室へと歩みを進める。
魔王「わがままを言ってすまない・・・」
リカンシ「いいよ、いいよ。気にしなくても」
リカンシに連れられて魔王達はリカンシの部屋へと移動するのだった。
魔王たち居なくなった大広間では、エジが不機嫌そうな顔つきで未だ壁にもたれかかると、ぶつくさと文句を垂れていた。余程気に入らなかったのかイライラとした態度を皆に見せつける様に佇む。
エジ「誰が行くかよっ」
エジは多少大きめに独り言を呟くと、自身の着用するベストの胸ポケットを探る。
エジ「・・・ったく、煙草が吸いたくなるぜ」
エジは吐き捨てた後、飽き飽きしたように瞳を瞑るのだった。
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リカンシの部屋についた魔王達は案内されるがままに席に着席する。
リカンシと魔王が向かい合う形となり、チーは魔王の後ろで椅子に座る。
ルーはというと・・・
リカンシ「じゃあ、話し始めようか」
魔王「ああ」
リカンシ「…やっぱりでも、」
魔王「問題ない。あいつは…」
魔王は後ろを振り返る。
魔王「ただの飲みすぎだ」
ルー「………」
魔王の後ろのソファには顔を埋もれさせ横たわるルーの姿が映る。
横たわるルーの姿をリカンシは心配そうに見つめる。
リカンシ「て、転送酔いって言うのがあってね。あれは後から・・・」
魔王「問題ない。アルコールも後で回る、唯の自業自得だ」
リカンシ「…う、うん」
ルー「………」
魔王はルーの事を心配するリカンシを一蹴するとソファに寝転がるルーを若干軽蔑したように見つめる。ルーはそんな視線に晒されながらも気にする余裕が無いと言わんばかりに青い顔を床に向けていた。
魔王「それより…」
魔王「俺に話したい事とはなんだ?」
リカンシ「あ、ああ、うん」
リカンシは魔王の問いに頷くとゆっくりと口を開いた。
リカンシ「カー君。君がねここ? って言ってる、セルカークの事だね」
魔王「彼女はセルカークと言うのが本名なんだな。名前だけはわかってやれなかったんだ」
リカンシ「あ〜、うん。カー君は君も知っての通り単音しか喋れない」
魔王「ああ」
リカンシ「うん。訳があってなんだけど。母星の言葉も喋れないんだよ・・・」
魔王「聞いてもいいかわからんが・・・」
魔王は自身の膝の上に両肘をつくと顔の前で両手を組む。
魔王「それは何故だ?」
リカンシ「うん…」
リカンシは魔王から視線を外すと意図的に横を向く。魔王にどう伝えようか考えているのは明らかで、魔王もそんなリカンシを見て、次に発する言葉に注目してしまうように瞳を少しだけ尖らせた。
リカンシ「もともと言語が得意では無かったみたいなんだけど・・・」
リカンシは少しだけ俯くとやや重い口ぶりで口を開く。
リカンシ「自分が言えなかった一言で、お兄さんが亡くなっちゃったって思い込んでいるんだよ・・・」
リカンシの悲しむような素振りに、魔王は視線を斜め下に逸らす。
魔王「…そういう事だったのか」
リカンシは魔王に再び顔を合わせる。
リカンシ「…うん。そういう事情で彼女は喋れない」
魔王「…ああ」
魔王は両手を重ねると口元を隠し、俯く。
リカンシ「でもね、君の事を本当に嬉しそうに話すんだ。君を仮保護対象・・・」
リカンシ「・・・って、仮保護対象とかわからないよね?」
魔王「いや、知っているぞ。マンチが喋っていたからな」
リカンシ「あぁぁぁ、あの娘お喋りなんだよね…良い子なん…う、うん。良い子」
リカンシは魔王から不意に出たマンチの名前に、何かを思い出したのか自身の額に手添えると、言葉を詰まらせるのだった。そんなリカンシの態度を見て魔王は鼻から息を抜くようにして微笑む。
魔王「ふん。面白いやつだけどな」
リカンシ「あ、うん。そう言って貰えると助かるよ」
リカンシは魔王の言葉に少しだけ安堵するようにゆっくりと頷く。
リカンシ「そうそう、それで。カー君から君を保護対象にしてくれってお願いされてるんだ」
魔王「…そうか。セリーが自分から」
魔王のいきなりの愛称呼びにリカンシは席から立ち上がると体を乗り出すように前に出した。
リカンシ「せ、セリー!!!」
魔王「うん? 愛称がおかしかったか?」
魔王は自身の発した愛称がおかしかったのかと口角を緩めながらも少しだけ首を捻るが、リカンシは「まいった」と言わんばかりに斜め上を向くと瞼を閉じる。
リカンシ「・・・君は色々な人に似過ぎなんだよ〜」
魔王「?」
魔王は目を少しだけ大きく開き、とぼけているように顔を傾けた。
リカンシ「ううん。…カー君のお兄さんもね。セリーって呼んでたみたいだよ」
魔王「…そうか。それなら、止めておいたほうがいいかもな」
魔王は少し俯き加減で視線を落とす。
魔王「…嫌なことを思い出してしまうかもしれん」
視線を落とす魔王をリカンシはじっと見つめる。見つめた先の魔王は少しだけ悩むように顎を片手で触ると感慨深そうに瞳を閉じる。
リカンシ「…それは僕では答えてあげれないね。…君に任せるよ」
リカンシは瞳を閉じた魔王に優しく語り掛けると最後に微笑んだ。
魔王はその表情を察したのか、ゆっくり瞳を開くと小さく頷く。
魔王「…ああ。…承知した」
しばらく余韻のように、会話に間があく。お互いが考える時間を与えてもらったかのように静まり返ると、相手の呼吸音さえ感じられるような静寂を感じとれる。お互いが視線をそらすようにして考え込んでいたが、不意にリカンシは何かを思い出したように勢いよく顔を上げた。
リカンシ「あっ! そうそう、君はなんであんなにカー君と親しくなったの〜?」
リカンシの問いかけに魔王も少しだけ重くなった視線を上げる。
魔王「ああ、以前からずっと見られているような感覚はあったんだ・・・」
魔王は何かを思い出すように再び瞳を閉じる。
魔王「振り向いても誰もいない」
魔王「そういう感覚が続いた後、不意にセリーに話しかけられたんだ」
魔王は嬉しそうに緩めた顔で何かを思い出すようにリカンシから視線を外すのだった。
♦
…
セルカークは恥ずかしそうに魔王の前に出てくると、腕を後ろにまわしてモジモジと体をくねる。
魔王「?」
何事か分からない魔王は首をひねる。
セルカークは意を決したように瞳を閉じ、大きく一度頷くと魔王に喋りかける。
セルカーク「にゃ、にゃ!」
魔王は間近で自分に何かを伝えようとする女の子に顔を合わすのだが、少し不思議そうな顔つきで見つめるのだった。
魔王「…」
セルカーク「…ゃ」
セルカークの声は次第に小さくなっていくと、言葉が伝わらない思いからか
顔をどんどんと下に向けて、下げていく。自身の気持ちが伝わらないと諦めセルカークが踵を返そうとした瞬間だった。
魔王は目を輝かせるとセルカークに顔を寄せた。
魔王「ネコ子! お前はネコ子なんだな!」
セルカーク「にゃ!」
不意に出された大きな声にセルカークは猫が驚くように体を跳ねさせる。
魔王「かわいいなー、お前。撫でたい欲求に駆られそうだ」
魔王は小動物を愛でるように瞳を緩めると両手を震わせる。ワナワナと体を震わせる姿は他人から見たら少し不審にも捉えられてしまう程で、セルカークはどんどん顔を紅潮させると魔王から顔を反らし走って逃げていくのだった。
セルカーク「にゃ、にゃー―――」
魔王は逃げていくセルカークを目で追った後に、にこやかに笑う。
魔王「恥ずかしがり屋さんだな」
魔王は水の入った如雨露を地面から取ると、再び家の門扉に顔を向ける。
魔王「ふふっ。また来いよ。―――ネコ子」
魔王は微笑みながら再び花壇の手入れを行うのだった。
………
♦
リカンシと顔を合わせた魔王はなにか思い出したのか、小さく笑い声を上げる。
魔王「ふふっ」
リカンシ「?」
魔王「・・・失礼。ネコ子。セリーと初めてあった時の事を思い出していた」
リカンシ「そうなんだ」
リカンシは口角を緩める。
リカンシ「カー君って引っ込み思案だから、自分から話しかけるって本当に珍しいんだよ」
魔王「ああ、そうだな。そこもかわいいけどな」
リカンシ「うん。本当に珍しんだよ。・・・カー君が自分から君の事をす、・・・」
リカンシは言葉を詰まらせると、何やら自身の口を片手で抑え動揺し始めるのだった。魔王はその様子を見て大きく首を捻る。
魔王「???」
リカンシ「ごほっごほっ。ごめん、ごめん。むせちゃったよ」
魔王「ああ?」
魔王がリカンシの態度に怪訝な表情を浮かべる一方、リカンシは自身の不審な動きに
動揺したのか、魔王から視線をそらした。
リカンシ「・・・だって、あんなこと本当に珍しいんだよ」
誰にも聞こえないような小さな声で呟いたリカンシは何かを思い出すように
天井を見上げる。
リカンシ{そうそうあれは…}
リカンシ{僕が執務室で項垂れていた時だったんだよね・・・}
♦
………
それはリカンシが執務室に一人でいる時だった。
誰もいない執務室で椅子に持たれかかり忙しい日々の業務に頭を悩ませている時、セルカークが慌てた様子で執務室に入ってくるのだった。
セルカーク「にゃ! にゃ! にゃ!」
リカンシは珍しく自身に必死に何かを訴えようとするセルカークに不思議そうな顔を顔を合わせた。
リカンシ「ん〜? どうしたのカー君」
セルカーク「にゃ、にゃ」
セルカークは自身の映像機器で撮った男の画像を何枚もリカンシに見せると
仮保護対象の隊員推薦書類をリカンシに見せるのだった。
リカンシ「あ〜。その人を推薦したいの〜?」
セルカーク「にゃ! にゃ!」
セルカークはリカンシの問いかけにブンブンと首を上下させる。
リカンシ「う〜ん。カー君的に何かピンときたのかな?」
セルカーク「にゃ!!」
セルカークは身を乗り出すとリカンシに顔を近づける。
リカンシ「わかった、わかったよ〜。カー君」
リカンシは若干興奮しているようなセルカークに両手を前に出す。少し抑えてというように前に出した両手は細かく横に振られるとセルカークはようやく自身の行動を恥ずかしがるように体を引っ込ませるのだった。
リカンシ「そうだ!」
セルカーク「にゃ?」
少しだけ勘違いしたリカンシは突き出していた両手でセルカークの肩を掴む。
リカンシ「カー君! この人の調査をしてくれるかな」
セルカーク「にゃ?」
リカンシ「何分この人の情報が足りないんだ。それまでは僕だけに留めておく」
セルカーク「にゃ?」
セルカークは不思議そうに閉じた口で少しだけ首を横へ傾ける。
リカンシ「ああ、大丈夫だ。僕がぁ仮保護対象として登録はしておく。だから―――」
リカンシ「―――カー君には保護対象の調査任務をお願いするね!」
セルカーク「にゃ!!」
リカンシから与えられた任務にセルカークは敬礼を返すと、満面の笑みで執務室を出ていくのだった。
一人になったリカンシはセルカークから渡された資料を再び眺める。
渡された資料には女性二人を引き連れた男の画像が多く、それを見たリカンシは少し心配そうに口をすぼめる。
リカンシ「…変な人じゃないといいけど」
リカンシは資料を見ながら立ち上がると男の写真と情報を見返す。
リカンシ「まおう?! 名前、まおうっていうのこの人?!」
リカンシは渡された資料を机に置くと、眉を八の字に折りたたむ。
リカンシ「カー君が好きな人、絶対変な人だよ〜…」
リカンシは額に手を置くと、なんともやるせない顔を俯かせたのだった。
***
♦
魔王「おい!」
リカンシ「・・・・・・」
魔王は呆けたような顔を見せるリカンシに声を掛けるが、リカンシは心ここにあらずと言うような何か上の空で、ぼんやりとした表情で天井を見つめ続ける。
魔王「おい! どうしたヒゲもじゃ!!」
魔王は返答のないリカンシに近寄ると声をかけながら体を揺する。
リカンシ「・・・あっ、ごめんごめん」
魔王「だ、大丈夫か? ライオンが餌を食った後みたいなを顔してたぞ」
リカンシ「そ、その例えはわかんないよ…」
魔王の言葉にリカンシは何度か首を横に傾ける。
魔王「それより話は以上か? 大丈夫と言われても、セリーの容体が気になるんだ」
魔王の言葉にリカンシは頷く
リカンシ「うん。十分に話せたと思う。君から聞きたいことは?」
魔王「いや、今はない・・・と言うよりセリーが気になって仕方ない」
リカンシ「そうだね。また聞きたい事があれば聞いてよね」
魔王「ああ」
魔王は席から立ち上がると同時にチーも席をたつ。
ルーは以前ソファに長い髪を垂らしながら朦朧とした意識と格闘していた。
魔王「ヒゲモジャ。こいつ置いていっていいか?」
魔王はルーを指差すとリカンシに声を掛ける。
リカンシ「う、…うん」
魔王「すまない。必ず後で引き取りに来る」
魔王はリカンシに手を上げると、自動で開くドアから出ていこうとする。
リカンシ「あっ! 待って!!」
リカンシの呼び止める声に魔王は振り返る。
魔王「ん? なんだ?」
リカンシ「一つだけ言い忘れてたよ」
リカンシは急に深刻そうに顔を尖らせると魔王を見つめる。
リカンシ「カー君。動物みたいな鳴き声をするよね」
魔王「ああ。猫みたいで可愛いよな」
リカンシ「…うん」
リカンシは不意に視線を落とすと悲痛な面持ちに見えるほどに顔に影を宿す。
魔王「どうした? 別に俺は単音でも感情が乗っていれば、それなりに分かってやれると思うぞ」
魔王はリカンシに得意げに微笑むが、リカンシの顔は曇ったままで少しだけ口こもるのだった。
リカンシ「…うん。そういうことじゃないんだ・・・あのね」
魔王「……」
魔王は何やら口こもるリカンシに微笑んでいた顔を真顔に戻すとリカンシを見つめる。
リカンシ「うん。カー君ね。猫の鳴き声を真似て『にゃ』っていってるんじゃないんだ…」
魔王「……」
魔王は無言で頷く事もしなければ微動だにせずリカンシを見つめる。
リカンシ「お医者さんが言うにはね…」
魔王「……」
リカンシ「お兄さんに言えなかった言葉・・・」
リカンシ「『嫌』って言おうとしているみたいなんだ・・・」
魔王「・・・・・・」
リカンシ「お兄さんに行ってほしくなかった時に、出なかった言葉を必死で出そうとしているらしいよ・・・うん」
リカンシの告白に魔王は口を閉じると、部屋から出ていこうとした事を
忘れてしまったようにその場に静止するのだった。
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