第12話 決着

ウーガー対マンチ。獣同士の闘いは、またしても魔王の手により閉廷する。

無言で去っていったウーガーに魔王は頭を下げると、マンチの声を無視するようにセルカークの元に駆けていくのだった。


マンチ「…腹立つ」


マンチは自分の声を無視した魔王を呆然とした表情で見つめ続ける。


エジ「マンチ」


 いざとなったら魔王を止める為に近くで待機していたエジはマンチの名を呼ぶ。

マンチはその声にエジを振り返ると、不機嫌な顔を合わせた。


マンチ「なんですかっ?! マンチ、ムカついてんですけどっ!!」


 マンチは鼻から大きく息を漏らすと、エジを頬を膨らませながら睨む。

エジはマンチの態度に、年端もない子供を見るような目で見つめると苦笑いを漏らす。


エジ「あいつのことは気にすんな。それより・・・」


 エジは鼻息を荒くして魔王に怒りを表すマンチに真剣になった顔つきを合わせる。


エジ「あいつに勝てそうか?」


 エジの一言にマンチは不意に真顔になると、多少鋭くなった視線を合わせる。


マンチ「勝てます。マンチ本気じゃなかったですし」


 マンチはニヤリと笑う。


マンチ「も使ってませんよ」


エジはマンチの含みある一言に鼻から息を漏らすと上機嫌でマンチの肩を叩く。


エジ「ふんっ。だな・・・」

マンチ「使ったら案外余裕かもですよ」


 マンチは余裕と言わんばかりに親指を立てるとエジに微笑む。微笑まれたエジは少しだけ考える様に間を空けた後に口を開いた。


エジ「わかった。副官命令だ。今度あいつと相対したら―――」


エジは発言の途中で瞳を閉じ間を空けると、多少冷酷になった瞳をマンチに合わせ開いた。


エジ「初手で殺せ!」

マンチ「…うへへ」

エジ「頼むぞ」


エジはマンチの肩を再度叩くと、マンチは両手を腰に当て胸を張る。


マンチ「もうー、しょうがないですねー。楽しみは減っちゃうけど―――」


マンチは少しだけ落胆したように下を向いた後、自身を親指で力強く指し示すと顔を上げた。


マンチ「マンチに任せてください。うへへへ」


最後に笑い声を上げたマンチにエジは微笑むと踵を返し、負傷した仲間の元へ向かうのだった。


一人になったマンチは頭上の空を見上げ、呟く。


マンチ「あーあ…どっかにマンチより強い人いないんですかねー…」


マンチは暫く、星に願い事をするように空を見上げた後、仲間の元へ向かったのだった。



場面は魔王に変わる。


魔王は全力で走ったせいでセルカークの元に着くと、暫く膝に手をつき、息を整える。数秒後、セルカークに顔を合わせた魔王は微笑む。


魔王「早く母船に戻ろう」


 魔王はエジのベストを頭に敷き、仰向けになりながらも顔を向けてきたセルカークにしゃがみながら右手を伸ばす。

 自身の前まで伸ばされた魔王の手をセルカークは握ると少しだけ紅潮した顔で微笑むのだった。


セルカーク「にゃ、にゃ」

魔王「…うん」


 魔王は静かに頷くと微笑む。


???「エジちゃーん!!」


 魔王が微笑んだ瞬間だった。

 エジを呼ぶ大きな声が聞こえる。

 その若干威厳のない声と口調に皆が振り向くと、大柄でライオンのようなヒゲモジャの男、リカンシが突然姿を現せるとエジの元へ駆けていくのだった。


 リカンシはエジの側に行くと泣きそうな顔でエジに抱きつく。


リカンシ「変なこと言うから心配したんだよ、ぼくぁ〜」


 エジはリカンシのヒゲが顔に当たると嫌そうな顔をする。


エジ「離れろ、リカぁ!!」


エジは面倒くさそうに両手でリカンシを突き放す。


リカンシ「ごめん、ごめん〜。・・・でも、無事で良かったよ」


リカンシは少し悲しんでいるようにエジに微笑む。


リカンシ「シャルト君だけじゃなく、エジちゃんまで居なくなったらって思ったら・・・ぼくぁ〜」


リカンシは遂には瞳から涙を流すと腕で拭う。

エジはその様子に優しく微笑むとリカンシの肩を叩く。


エジ「俺はお前との縁が切れねーらしーな。ははっ」

リカンシ「うん・・・うん」


リカンシは涙ぐみながらも指先で自身の瞳を拭う。

その強面ながら、安堵する表情にエジは再び笑い声を上げる。


エジ「はははっ、ガキンチョの時と変わんねーな、リカ。今でもおもりが必要かぁ?」

リカンシ「うん・・・シャルト君とエジちゃんに、ずっとついていってんたんだよね。ぼかぁ〜」


 リカンシは昔を懐かしむような言葉を言った後、思い返す様に瞳を閉じる。



シャルト「リカ、辛かったね」

リカンシ「うっ、う、うん」


未だ瞳から涙が止まらないリカンシの背中に手を添えるシャルトは優しく微笑む。


エジ「おい! あいつらやってやったぞ! リカ!!」


 突然後ろからエジが現れると、二人に顔を見せる。

その顔には殴られた傷跡があり、エジは未だ流れ出る鼻血を上着の袖で拭う。


シャルト「ふふっ、すっごい顔だよ、エジ」


 エジの顔を見たシャルトは笑いながらハンカチを差し出す。


エジ「やれたんだから問題ねーよ、はははっ」


エジはシャルトからハンカチを受け取ると、ハンカチで鼻を覆い、笑い声を上げた。


シャルト「ふふっ、エジ。ハンカチ真っ赤だよ」

エジ「はなひって止まんへーよなー」


エジとシャルトの会話を聞き、リカンシもエジを見つめる。


リカンシ「・・・ふふ」

シャルト「良かった。ようやく笑ったね、リカ」

リカンシ「うん・・・」

シャルト「じゃあさ―――」


シャルトは両手を合わせ音を出すと立ち上がる。


シャルト「―――みんなで楽しいことしよっか?」

エジ「・・・おう」 リカンシ「・・・うん」

エジとリカンシとシャルトの3人は笑い合うのだった。



少々昔を思い出したエジとリカンシは笑い合う。


エジ「それより、リカ。怪我人がいる。母船に戻るぞ」

リカンシ「そ、そうだったね。念の為に少し離れた所に転送機は用意してあるよ」

エジ「了解。急ごう」

リカンシ「うん」


 この後、リカンシは皆と合流することになるのだが…。

 セルカークを抱える魔王にリカンシはなぜだか驚愕の表情を見せるのだった。


リカンシ「!!!!」

魔王「?」


 魔王は自身の顔をみ見て驚くリカンシに首を横に傾けると不思議そうな顔つきを披露する。


魔王「どうした? 俺の顔に何かついているのか? ヒゲモジャ」


 魔王の言葉にリカンシは首を何度も左右に降る。

 ただ、明らかに動揺しているのは明白で無理やり閉じたような口で顔を震わせる。


リカンシ「……」

魔王「……」


マンチはお互い見つめ合う二人を見て、リカンシを見ながら魔王の肩に触れる。


マンチ「あっ、艦長。この人、魔王です」


魔王「そうだ。挨拶してなかったな。失礼した・・・」


 魔王はリカンシにペコリと会釈すると前を向く。


魔王「誰よりも弱い世界最弱のと申す」

リカンシ「…や、やっぱり」


 魔王の自己紹介にリカンシは更に動揺すると、誰にも聞こえないような小声で自身の考えを肯定するように呟く。


魔王「それよりヒゲモジャ。ネコ子の治療を!!」


 魔王は自身の腕に抱えるセルカークを一瞬見て、リカンシに声を掛ける。


リカンシ「…う、うん」


 リカンシは動揺しながらも頷き返すのだった。


 その後、皆が転送装置の元へ向かう。

 目を覚ましたもののまだ若干ダメージの残るラグドーラはエジとリカンシが両脇に抱え付き添っていた。


 転送機の元へ向かうと既に準備はできているらしく、魔王たち以外の皆が指輪のようなものを取り出す。


リカンシ「え、エジちゃん。あの人達どうしよ〜?」


 足取りの重いラグドーラを、エジとリカンシの二人は両脇で抱えながら、リカンシはエジに小声で話す。


エジ「あぁあー。・・・もう、母船まで連れてってやれ」


 エジは左手で額に触れる。まるで頭が痛いというように悶えるような表情をしながら言葉を返した。


リカンシ「で、でも〜・・・」

エジ「特にあいつは言っても聞かねっーんだよ・・・」


不安そうな顔を見せるリカンシに、エジは不躾に魔王を指さしながら答えると再びリカンシにしかめっ面を合わせた。


エジ「最悪データキラーで記憶消去すりゃーいい」


エジがしたり顔で話すとリカンシはこくこく頷くのだった。


リカンシ「マンチちゃーん」


 リカンシがマンチの名を呼ぶと、魔王と話すマンチは振り向き自身を人差し指で指差す。リカンシはマンチの仕草に何度か頷くと、掌を上に向けて指先を自分の方に振り、「こっちへ来てくれ」と合図するのだった。

 マンチはその合図に気づくと、リカンシの元へ向かう。


マンチ「どうしたんですかー?」

リカンシ「うん、ごめんね。あの人達にこれを・・・」


 リカンシは青白く光る指輪のような物を3つ、服から取り出すとマンチに差し出す。


マンチ「ああ、丁度今アンテーノについて魔王と話してたんですよ」


 マンチは自身がアンテーノ呼んだ物をリカンシから受け取ると微笑む。


リカンシ「そうなの。転送方法とか、副作用も話してある〜」

マンチ「ええ。一通り伝えていますよ」

リカンシ「じゃあ、そろそろ移送するから、あの人達に渡してあげてね」

マンチ「はい」


 マンチはリカンシの元から離れると魔王たちへアンテーノを渡していく。


魔王「これがさっき言ってた転送装置か? 小さいな」

マンチ「そうですね。それを皮膚に接触さておけばいいので指にでも嵌めといてください」

魔王「ああ、わかった」


 魔王はマンチに言われたとおりに指にアンテーノを嵌めると、ルーとチー同じように指に嵌めるのだった。


ルー「まーちゃん。これブカブカなんだけど〜」


ルーがアンテーノをつけた親指を魔王に見せた時、3人がつけるアンテーノは発光するとつけている

指のサイズぴったりに収縮するのだった。


ルー「あっ・・・」

魔王「おおぉー。金属が収縮したぞ」


魔王は右手の中指につけたアンテーノを見ながら少年のように驚き声を漏らした。


マンチ「それ金属じゃないですし・・・こうやって広げて」


 マンチは魔王に喋りながら自身の中指につけたアンテーノを抜き取ると、両手で持ちゴムのように広げる。


マンチ「腕にもつけれます」


 マンチは広げたアンテーノをゴムバンドのように腕につけ直すと魔王に顔を合わせる。


魔王「おおぉー。髪留めにも使えそうだなー」

マンチ「そんな使い方する人いませんけどね…」


マンチが魔王に返答した時、リカンシは声を上げる。


リカンシ「みんな〜! 母船に戻るからサークル内へ入って!」


リカンンの呼び掛けに皆が青白く光るエリアに集まる。

半径10mくらいの範囲で光り輝く円の中に皆が入ると、リカンシは自身の右耳に触れる。

触れた瞬間、通信機のようにアンテナのようなものが伸びるとリカンシは声を上げる。


リカンシ「キジサバちゃん。こっちは準備OKだよ」

???「「……了解です艦長。こちらも準備できています。記号はアー、イクソ、ボーで」

リカンシ「りょうか〜い。アー、イクソ、ボーだね」


 リカンシは通信しながらPCサイズの箱を操作すると、先程まで青白かった光の円が黄色く輝き出す。

 星空の星のようにキラキラと粒子が辺り一体を包みこむと、リカンシは皆に声をかける。


リカンシ「3秒後に移送するよ〜。絶対に円の外に出ないでね〜」


 リカンシの声に皆が頷く。


 皆が静止する中、突然空間が歪曲すると眩い閃光を放つ。

 白く照らされた世界から視界が戻った時、皆は機械的な駄々広い空間にいた。

大広間と形容できそうな所に転送された皆の前には、背の低い似たような出で立ちをした男女二人に出迎えられる。


???「「おかえりなさい皆さん。いらっしゃいませお客様」」


 出向かてくれた男女二人は同時に同じ言葉を喋ると頭を下げるのだった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る