第9話 戦闘開始

 魔王とアビシニア達が話す中、ウーガーとエジも密かに接触していた。お互い一触即発の雰囲気を醸し出したまま、互いに顔を寄せ合うのだった。


エジ「奇遇だな。俺も何だよ!!」


 エジは石畳から立ち上がると、ウーガーに眉間にシワを寄せた顔を合わせる。


ウーガー「うががっ。お互いあの野郎にムカつきっぱなしじゃ堪んねーもんな」

エジ「だな。お前と気が合うのはこれ切りにしたいが、同感だよ!」


 ウーガーは自身の髪をかきあげると、首を傾げながら親指で向こうを指差す。


ウーガー「ここだとあいつが気づくとうるせー。向こう行こうぜ」

エジ「上等だ!」


 エジは左腕につけた通信機のようなものを右手で閉じると、ウーガーに同意したように首を立てに降り頷く。


エジ「最初に言っておくが、街では暴れねーからな」

ウーガー「うがが。安心しな。俺も街では暴れたくねー。向こうに誰もいねー場所があるんだ」

エジ「ふん。ならいい」


 ウーガーに導かれるようにエジは後ろを歩いていく。後ろを歩きながらエジは作戦を考えているのか独り言をつぶやく。


エジ「・・・ブ・・ット2X2(ツーバイツー)。フォーメー・・・」


 ウーガーはエジの独り言に後ろを振り返る。


ウーガー「おいおい。緊張してんのかぁ? おっさん」

エジ「うるせー。…用意周到なんだよ。大人はな…」

ウーガー「うががー。ビビってるかと思って心配したぜ」


 ウーガーは余裕の表情で笑い声を上げる。しかし、エジは煽られているのが丸わかりの状況ながら、ずっと真剣な表情を崩さない。眉間に皺はよるが、常にどこか落ち着いた雰囲気を醸し出す。

 エジは右腕につけたウーガーに解き放った光線を放つ機器をクルクルと何度も回転させるのだった。


 場面は魔王たちに変わる。


 こちらは全くと言っていいほど、おっとりとした雰囲気で、皆で飲み物とお菓子を頬張るような感じだった。話も大方終わったのか、魔王はふと外を気にする。


魔王「あいつら喧嘩してないよな」

アビシニア「ええ、争うような音とかはしませんね」


 アビシニアは出されたお茶に手を付ける。


アビシニア「あっ。おいしい」

魔王「ああ、それは果物の入った緑茶だな。結構美味しいだろ」

アビシニア「ええ、とても」

魔王「良かったら後で分けてあげよう。―――チー!」


 魔王に呼ばれたチーは振り向く。


チー「了解。閉じるやつに入れとくね」

魔王「ああ、頼む」


 アビシニアは立ち上がると。魔王とチーに頭を下げる。


アビシニア「あの、すみません色々と」


 チーはゴソゴソと戸棚を探りながらアビシニアを振り向く。


チー「いえいえ、気にしないでよ。魔王気まぐれだから貰ってあげて」

アビシニア「あ、はい。ありがとうございます」


魔王「それより、アビちゃん。言いたくないんだけど。部屋と玄関を・・・」

アビシニア「!!」


 アビシニアは魔王の一言にハッとすると、自身の手を口元に持っていき驚いた素振りを見せる。

 マンチはルーとペチャクチャと酒について「おいしんですか?」とか、「マンチも飲みたいんですけど」とか喋りかけていた。


アビシニア「そうでした。簡易修復させてもらって、後で完全に修復させてもらいます」


アビシニアは魔王に深々と頭を下げる。魔王もアビシニアの態度に「いいよ、いいよ」と気にしなくても良いと手を降るのだった。


アビシニアが魔王に謝る中、突然マンチは外を振り返ると、自身の周りにサークル上の球体を出現させる。そして、しばらく考えるように球体の文字を確認した後、アビシニアに声をかける。


マンチ「あの〜。アビシニアさん。ウーガーとエジさん外にいないんですけど・・・」


マンチの少々困った顔にアビシニアがギョッとした顔で目を見開く。


アビシニア「サークルで確認したのマンチちゃん」

マンチ「はい。あんまり静かなんで、マンチ戦わしてもらえなかったから不安になってです」

アビシニア「ああぁぁ」


アビシニアは額に手を添えるとため息を漏らす。若干体をヨロヨロとよろめかした後、魔王に顔を合わせる。


アビシニア「すみません。聞こえていたとは思うんですが、エジさんとウーガーを私達は追います」

魔王「ああ。聞こえていた。俺も行くぞ。ルー、チー準備しろ」

チー「Roger」


 チーは直ぐにライフルを背負うと出立の準備を始める。対するルーは不満そうな顔をしながら、頬を膨らませてゴネるのだった。

ルー「え〜〜、ルーちゃん酔ってんだけど〜」


酒のパックを手で持ちながら差し出してきたルーに対し、魔王は額の血管を引くつかせる。

魔王「それ持ってついてこい!!」

ルー「・・・わかった、わかったよ〜。いくよ〜」


 ルーもしぶしぶ酒を片付け始めるとようやく準備を始める。チーとルーが準備をする中、魔王も上着のジャケットをハンガーから取ると羽織る。


アビシニア「あの、私達に任せてもらえれば大丈夫ですよ」


 アビシニアは魔王に心配そうに声をかけるが、魔王は首を横に降る。


魔王「いや、不安なんだ。なんだか嫌な予感がする」

マンチ「いいじゃないですか。魔王たちはマンチが守りますし」

アビシニア「といっても、やはり心配です」


 マンチはよほど自分の強さに自信があるのか余裕を来いて、二の腕を皆に見せつけるが、アビシニアはきがきではないというのが本音なのだろう。

しばらく狼狽えてしまうのだった。


マンチ「大丈夫です大丈夫です。マンチ強いんで」

魔王「ああ、俺も自身が何も出来んかもしれんことはわかっておる。ただ、連れて行ってほしいんだ」


 アビシニアは瞳を閉じ考える。色々と考えることがあるのだろう、「どうしよう?」という雰囲気が溢れているようにも見える。しかし、時間がないのも確かであり、アビシニアはコクリと最終的には頷くのだった。


アビシニア「ええ。一緒に行きましょう。私もなんとかします」

魔王「ああ、よろしく頼む」


魔王たちは準備を終えると、エジとウーガーの行方を追うのだった・・・



 場面は再度ウーガーとエジに切り替わる。

 ウーガーが案内したのは、人気のない廃墟とかした平地だった。宇宙人との争いがある前から人は住み着いていなそうな雰囲気を醸し出す場所。壊れた廃墟が数棟。インフラの途切れた穴だらけの土地。土地開発に失敗したような場所だった。

もちろん人気はなく、動物の鳴き声も今はしない。

 ウーガーは辺りを見渡したあと、エジに声をかける。


ウーガー「ここならいいだろ?」


 ウーガーの声にエジも辺りを見渡すと、ウーガーに声を返す。


エジ「ああ。問題ねーよ」


 エジは顎を尖らせるとウーガーを睨む。対するウーガーも両腕の拳を何度も合わせるとゴン、ゴンと音を鳴らし威嚇をする。


ウーガー「いつでもいいぜ、俺は」

エジ「ああ。俺も準備完了だ」


 ウーガーとエジは5m程度離れた場所で身構える。

 ウーガーがエジを舐め腐ったように屈伸に似た動きをした瞬間。エジは仕掛けるのだった。

エジは前進しながらボソッとつぶやく。


エジ「プレイス2」


エジが呟いた瞬間。エジの前に見えない透明なシールドのような足場が現れる。

よく目を凝らせば光が僅かに反射しており気付けるのだが、なかなか目を凝らさないことには見えない2つの長方形をエジは空中で蹴ると、ウーガーの頭上に跳躍する。


エジ「今度は最大出力で行くぜ!」


エジが右腕につけた機器を回転させると、エジの右腕に光が集まっていく。吸収されるように集まる力が臨界を迎えたとき、エジの右腕から地上にいるウーガーに向け、光線が放たれる。


エジ「喰らっとけ! レイ!!」


 エジの放った爆発的な光線は地上に目掛けて放たれる。ただ一点。ウーガーに集中するように放たれた光線は、空中で複雑な軌道を描くとすべてがウーガーに降り注ぐのだった。

 枝分かれした光線が全てウーガーに集まったとき、地上は爆発音を鳴らし崩壊する。地面は浮き上がり、破裂音が響き渡る。


エジ「プレイス2」


エジは空中に足場を作り、体勢を整えると、宙に浮くような形で静止したように動きを止め、地上を眺める。


エジ「これでやれれば良いんだが・・・」


 エジは空中から煙と粉塵の上がる地上を眺め呟く。

 動きのないまま、暫くして、地上の視界が晴れてくる。エジが見つめる中、煙の消えた地上にはウーガーの姿が見える。

 ウーガーは顔の前で両手を組んだ状態で、牙を見せながら笑い声を上げる。


ウーガー「うががががが。眩しくって驚いちまったぜ!!」


 ウーガーはエジを見ながら顔の前で組んだ両手を外し、空に向かって吠える。


ウーガー「降りてこねーなら、こっちから行くぜ!」


ウーガーは地面を踏抜くほどに力いっぱい蹴ると、地面は隆起しウーガーは空高く跳躍する。空中から見下ろすエジだったが、気づいた時にはウーガーは目の前におり、握りこんだ右の拳をエジに叩きつける。


ウーガー「お返しだ!」

エジ「なっ! プレイス4」


 ウーガーの拳が自身に届く前にエジは空中で4枚のシールドを体の前に貼る。がウーガーの攻撃は4枚のシールドを次々に破っていくと終いには残り1枚のシールドごとエジを地面に叩き落とすのだった。


エジ「がっ!」


地面に叩きつけられたエジは、うめき声を上げる。背中からめり込むようにして突き刺さった地面はひび割れ、エジの体は、くの字に曲がる。


エジ「がはっ」


エジは胸に損傷を受けたのか血反吐を吐き、地上で苦しむ。


エジ「ぐは、はぁはぁ」


 エジが口の血を拭った時、ウーガーは空中で体勢を整えるとクルリと1回転する。

そして、地上のエジ目掛けてかかと落としのような蹴りを放つのだった。


ウーガー「うがが、こいつで死んどけ!!」


 エジは頭からも流血しながら、地面に片膝をつき、ウーガーの様子を唖然と見ていた。自分にもう一撃食らったら死ぬことは確かであり、今自身目掛けて振り下ろされようとする蹴りが致命傷になるのもわかる。

が、エジは鼻から息を抜くと、ウーガーに向かい笑ったのだった。


エジ「調子にのんなや! ガキが!」


ウーガーの蹴りがエジに振り下ろされる瞬間。


エジ「ブラケット2 クローズ」


 エジが呟くと、ウーガーの体を空中で挟むように2枚のシールドが閉じる。

 空中で静止したウーガーは身動きが取れなくなり、エジの頭上で藻掻く。

2枚のシールドは先程エジが繰り出していたシールドより、遥かに大きく、遥かに厚く、その2つのシールドはウーガーの動きを封じるように縛り付けるのだった。


ウーガー「!!」

エジ「防御だけじゃねーんだよ、俺の役目は!! 閉じる! これが本来の使い方だ」


エジは立ち上がると、身動きの取れないウーガーを睨みつける。


エジ「ブラケット4 リリース!!」


 エジが叫ぶと今度は透明なシールドが2つ開き、中から岩のような屈強な男と中性的な少年のような娘が姿を表す。


エジ「ラグドーラ! セルカーク! 俺が閉じてる間に決めろ!」


 エジの近くにいた二人の人物はお互いに目配せすると、まずはラグドーラと呼ばれた男が力を貯めるように片腕を大きく引くのだった。


ラグドーラ「マルティプリケーション タイムス2」


ラグドーラが低い声で呟くと、筋骨隆々とした肉体が更に膨れ上がる。上腕部が2倍になったように膨張すると

ラグドーラは拳を思いっきり握る。


ラグドーラ「すまんな。若いの…」


 ラグドーラはために溜めた力を解き放つように空中で静止するウーガーに頭上から顔面目掛けて拳を振りかざす。

 解き放たれた豪撃は地面にウーガーを叩きつけると、地割れを起こすように陥没する。飛び上がった土砂が舞い、ウーガーは頭から地面にめり込むようにして叩きつけられる。


ラグドーラ「カーク!!」

セルカーク「にゃ!」


ラグドーラがセルカークの名前を呼ぶと、セルカークはラグドーラの大きな体の背中を蹴り、空中に飛び上がる。

クルクルと何度も空中で回転した後、両手の爪を猫のように飛び出させると、空を切るように何度も斬りつける。


セルカーク「にゃ、にゃ」


 セルカークが空中で放った斬撃は幾重の光の束のようになると、ウーガー事地面を斬りつける。10の、100の、1000にも見える無数の斬撃が地上ではいつくばるウーガーに降り注ぐ。地面はさけるように割れ、斬撃は地表に傷跡を残す。

セルカークはそれを確認した後、空中で体勢を整えラグドーラの横に着地する。


セルカーク「にゃ?」


セルカークはラグドーラに首を傾げながら顔を合わせる。ラグドーラーはセルカークの声に静かに頷く。


ラグドーラ「ああ。まだ用心しておけ」

エジ「ああ。まだ用心はしとけ。だが―――」


エジは地面に倒れるウーガーに向かい笑う。


エジ「わりーな。年のせいか用意周到なんだわ、俺は」


エジは瞳を尖らせたまま腰に手をつくとニヒルに笑う。それは、「用心しておけ」というセリフを吐きながらもこの時はエジは勝利を確信していた。



















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