第4話 エスぺラと言うもの達

 エジ達「エスペラ」は、魔王宅の玄関を強引に蹴破ぶると家主に挨拶もないまま侵入してくる。

 魔王は立ち上がると、異星人に「説教が必要だ」と言い、笑みを浮かべる。

 ウーガーはバチンと音がなるくらいに、右手の拳を左手の手のひらにぶつけると、戦闘準備と言わんばかりに首をゴキゴキと鳴らすのだった。


エジ「邪魔するぜっ!」

 

 エジは眉間にシワを寄せた顔で、魔王たちがいる一室に入ってくる。尖った顔、不躾な態度からも敵意をむき出ししているのがわかる。

エジは部屋を睨みつけるように見渡す。魔王たち3人をチラッと見たあと、ウーガーに視線を合わし指をさす。


エジ「ウーガー! お前に用がある!!」


ウーガー「うがが。わざわざやられに来るとは、ご苦労なこった」


 ウーガーの笑い顔にエジは睨みを返すと、魔王たちを横目で見た後、再びウーガーに顔を合わす。


エジ「ーーーここじゃなんだ。面貸しな」


 エジは親指で後ろを指差す。


マンチ「もーー、エジさん一人でつっぱしらないでくださいよー」


 マンチが苦言を吐きながら遅れて現れる。マンチはウーガーと睨み合うエジを見た後、部屋の隅にいた魔王たちと目が合う。


マンチ「ありゃ?!」


マンチは目を大きく開き、大口を開け声を漏らす。状況を再度確認するように魔王たちを見た後、エジに慌てて顔を合わす。


マンチ「もーー、だから私言ったじゃないですかー。生体反応が4っつあるってー。怒られても知らないですよ」


 マンチは顔を寄せたようなむくれっ面をエジに見せたあと、魔王たちを見つめる。


マンチ「す、すみません。直ぐに出ていきますんでー、あっ、お邪魔しますが先か。いやいや、ドアを壊してすみません。あー私マンチって言います」


 マンチは気の抜けるような勢いでベラベラと喋りだす。ついには自己紹介した後に魔王たちにお辞儀する。


魔王「ガールは、そこの極太眉毛と違って礼節を踏まえてそうだな。可愛い顔してるしな」


魔王はエジを邪険に指さしながら、マンチを褒める。


ルー「もー、まーちゃん。ナンパしてんのー?」

魔王「ナンパじゃねーよ」

マンチ「あっ。ありがとうございます。でもでも、マンチ良く可愛いって言われるんですよ。この前も異星に行ったとき求婚されて結構困ちゃってーーー」


マンチは体をくねらせ喜ぶ。


エジ「マンチぃぃ!! くっちゃべってる暇はねーぞ!!」

マンチ「・・・・・・」


マンチ「・・・はい」

エジに怒られたマンチはシュンとして、下唇を出し悲しそうな顔で視線をそらす。そして、トボトボとした足取りで魔王の前に歩いていく。


マンチ「・・・怒られちゃいました」


魔王「そんなに怒らんでもいいのになーあの極太眉毛。可哀想に」


魔王はマンチの頭を撫でる。


マンチ「あの人機嫌悪いんで・・・」

マンチは小さく動かし小声を出すと、小さく指先でエジを指し示す。


魔王「あいつが立派なのは眉毛だけだな。ガールは悪くないからな」


マンチ「ですよねですよね。マンチ悪くないですよねっ!」


マンチは魔王になだめられ、急に声を大きくする。


魔王「そうそう。ガールは悪くない。あーいう人に当たるやつはな、肝も小さいし、たぶん金玉もちっちゃいから気にせんほうがいいぞ」


魔王の言葉にマンチは笑みを浮かべると、バシバシと魔王を叩く。


マンチ「もーー、ヤダーー。いきなり下ネタですか。あーでも、ちょっとわかるかもー。エジさんいっつも怒ってるから、勃起不全起こしそう」


マンチ「もーー何言わせんですか! やだーー」


魔王「だろー」


魔王とマンチは意気投合したように笑い合う。マンチはずっとペシペシ魔王を叩いている。


エジは魔王とマンチの会話に額に徐々に浮かんでくる青筋をピクピクとさせると、鼻がしらを引つらせる。


エジ「うるせーぞっ!!! お前ら!!」


エジがマンチと魔王に一喝したあと、アビシニアがだいぶ遅れて登場する。


アビシニア「・・・ウーガー」


ウーガー「次はねぇーって言っといたはずなんだがな。嬢ちゃん」


ウーガーの顔を見たアビシニアは深刻そうに声を漏らす。アビシニアの顔を見たウーガーは瞳をとがらせると、右足を一歩前に出す。


エジ「アビー! 下がってろ!」


エジはアビシニアを庇うように片腕を横に伸ばす。


お互いにらみ合う緊迫した場面だが、魔王はアビシニアの顔をマジマジと見つめる。


魔王「おっ。エライ綺麗な姉ちゃん出てきたな」


魔王の声にマンチが即座に反応し魔王に顔を寄せる。


マンチ「あっ。あの方アビシニアさんって言います。えっ、えっ、もしかしてタイプですか?」


魔王「いや、タイプというか。綺麗だなー。と思ってだなー・・・」


マンチ「アビシニアさん綺麗ですよね。でもでも、マンチちょっとショックだなー。あなた誰でも可愛いとか綺麗とか言いそうですねっ?」


マンチは子供のように頬を膨らませる。


魔王「いや、そういう訳ではないぞ。俺はガールみたいな元気で可愛い子がタイプだしな」


マンチ「もーーーー、いきなりマンチ口説かないでくださいよー」


マンチは嬉しそうに魔王をペシペシ叩く。


魔王「痛い痛い、ガール・・・」


マンチ「あはは、すみません。えーっと、そうだ! 名前! 名前ですよ! 名前教えて下さい!」


魔王「あぁ、そうだったな。こちらも礼節にかけていた」


魔王はマンチを見つめ頭を下げる。


魔王「申し遅れた、俺は魔王という」


マンチは顎を突き出した不思議そうな顔をする。


マンチ「うん? マオウ?」

魔王「うん。魔王」


魔王はコクンと一回頷く。


マンチ「マオウって。名前ですか? それとも、魔族や魔物の王って意味で言ってるんですか?」


魔王「そうだな・・・。名であり、称号であり、魔王単体では意味をなさない言葉でもあるな」


マンチ「???」

マンチは首をひねる。それを見た魔王は微笑んだ後、少しだけ影がかかるように俯く。視線は何処か憂いを帯びており、包み込まれそうな雰囲気を醸し出す。


魔王「そう。誰よりも弱い世界最弱の魔王でなければ、俺には意味がないのだ・・・」


マンチ「・・・・・・・・」


マンチは魔王の言葉に少しだけ口を閉じる。視線を固定し魔王を見つめると、不意に微笑む。

マンチ「・・・ふーん。マンチですね。魔王の事少し興味出てきたんで、保護対象に推薦しちゃおうかなーって思ってます」


マンチは笑みを浮かべながらも、真剣な表情で魔王を見る。

マンチを見たルーは、魔王を肩をぶつけてくる。


ルー「もーマーちゃん。なに初対面で口説き落としてんの?」

魔王「く、口説いとる訳ではない! ルーちゃん」

ルー「宇宙人口説き落としたのマーちゃんくらいだよー。歴史の教科書にのるんじゃないのー」

魔王「ま、まあな。教科書くらいわな。魔王だからなっ」


ルーは魔王に顔を寄せて微笑むと、魔王も鼻の頭を掻きながら照れ笑いする。


チー「・・・・・・・・」


チーは無言で3人を見つめる。

チー(なんでこの人たち、緊迫した場面なのにずっと談笑してるんだろ・・・。魔王とルーさんが常識外れなのは知ってるけど全然わかんないや)


チーは眼鏡がずり落ちるくらい呆れていた。


マンチ「あっ。でもでもっお姉さん。私落ちてないですよ、落ちてないですからね」


マンチはルーにブンブンと手を横に降り否定する。ただ、暫くおどけるように手を降っていたマンチだったが、突然殺気立ったような瞳を開くと、ゾッとするような視線をぶつけてくる。


マンチ「マンチ。自分より強い人じゃないと嫌なんで」


急に瞳をギラつかせたマンチを、魔王は少しばかり瞳を尖らせ見つめる。


ウーガーとエジに場面は変わる。

ウーガーとエジはお互いに膠着した姿勢で未だ睨み合う。


ウーガー「おーい。怖気づいてんなら、こっちからいってやろうか?」


ウーガーは牙を見せて笑う。


エジ「調子に乗んなや、・・・ガキが」


エジは右腕の手首を掴むと、銃身をスライドさせるように手前に引く。


アビシニア「ま、待ってくださいエジさん。一つだけ、・・・一つだけ、彼に尋ねさせてください」


アビシニアは手を伸ばすようにしてエジに声をかける。エジはアビシニアを振り返らず額から汗を垂らす。


エジ「アビー。あいつの顔を見ろ。話なんてできそーにねーぞ」


エジが言うようにウーガーは殺気立つ。己の牙を歯を食いしばるようにして見せつけ、瞳には殺意を乗せてくる。

アビシニアはその凶悪さにゴクッと喉を鳴らす。凶悪に尖っていく顔を見るたびに体に震えが襲ってくるが、アビシニアは意を決してウーガーに声をかける。


アビシニア「ウーガー、一つだけ聞かせてください!」

ウーガー「嬢ちゃんとは大分お話したはずだぜ」


 ウーガーは更に一歩前に出る。


アビシニア「私には分からないんです! あなたが何に怒っているのか。なぜ、この世界が滅んでほしいのか!」

ウーガー「・・・・・・・」


 ウーガーは何も言わず、歩みを進める。


アビシニア「嫌なんです! 他者の気持ちを分からないままにするのは! ・・・嫌なんです、もう・・・」


 アビシニアは考える様に瞳を閉じると、幼少期の自分を思いだすのだった。

 顔がクシャクシャになりながらも、耐えるように必死で瞳に力を入れるアビシニアは、ぬいぐるみを握りしめる。瞳からはポロポロと涙が溢れ、時折餌付くように嗚咽を漏らす。

アビシニア「おとっ、・・お父、さん」

アビシニア「おとっ、ぅさんの事、き、嫌いだった、グッ、っの? い、嫌なことしちゃったの? なんで? なんでっ?」

アビシニア「なんでお父さん、死んじゃったの?」

 泣くアビシニアの近くには、若い頃のエジとリカンシが顔を顰めると突っ立っていた。


 アビシニアは何かを思い出したのか、少しだけ顔を歪める。

ウーガーはまた一歩前に足を出す。エジは身構えると臨戦態勢に入る。マンチはスッと体の力を抜くように脱力させるとウーガーに視線を合わす。


アビシニア「・・・闘う前に教えてくれませんか? 嫌なんです。聞けるのに、聞けないのは・・・」


 アビシニアは悲しそう瞳を垂らす。懇願しながらも歩み寄るように精一杯に優しい顔を作り上げる。


不意にウーガーの前に出そうとした足がピタッと止まる。同時に攻撃態勢に入っていたエジとマンチも動きを止める。


ウーガー「・・・約束だ」


ウーガーはボソリと呟く。


アビシニア「約束? あ、貴方は誰かにお願いされてーーー」

ウーガー「お前に答える義理はねーよ」


 ウーガーはアビシニアの声をかき消すように言葉を被せる。

もう話すことはないという意思表示。だが、アビシニアは諦めない。諦めないと言うより、聞かなければならない思いに駆られる。

そして、自分の頭に浮かんだ言葉を口に出す。


アビシニア「・・・大事な人との約束を守っているんですね」

ウーガー「・・・・・ッ!」 魔王「・・・・・・・」

アビシニアの言葉にウーガーと魔王がピクッと反応する。

 

 ウーガーは少し驚くように目を開いた後、何かを思い出すように俯く。魔王は横目でアビシニアの顔を凝視するように見つめる。


ウーガー「・・・マジカを殺したこの世界」

魔王「!!」

アビシニア「マジ、カ?」


魔王はウーガーを振り向く。


ウーガー「マジカを嫌ったこの世界・・・」


ウーガーはつぶやき続ける。


ウーガーの言葉に魔王は俯くと、まいったと言わんばかりに両目を隠すように片手でおおうと、意味ありげに微笑む。


魔王「そういう事、か・・・」

ルー「マーちゃん・・・」


ウーガー「俺が許すわけにはいかねーだろうがぁっ!!!」


 ウーガーは叫ぶ。

 ビリビリとウーガーの放つ怒気で空気が揺れる。

皆が怯むように後退りする中、魔王は微笑みながらも、何故かせつなそうに瞳を閉じると、ゆっくりと開く。


魔王「・・・そうか。お前もあの嫌われものに用があったんだな。ウーガー」

ルー「・・・・・・・」


 魔王の表情にルーは珍しく真剣に魔王を見つめる。


エジはウーガーの怒気に即座にマンチに横目でアイコンタクトを送ると、マンチはすぐさま頷く。


ウーガー「お前らには、わからねーよーーー」


 ウーガーが全ての言葉を言う前に、目の前にいたエジの姿が消えたように見えなくなる。そして、気づいたときにはウーガーの横で右手を構える。

ウーガーがエジに視線を合わしたとき、エジの右手は爆発的な光量を発し、部屋が真白く照らされる。そして、同時に家の壁が轟音と共に消し飛ぶ。


エジ「わりーな。まずは交渉しろって命令だったが、俺は気が長くねーんだわ」

エジはしかめっ面で囁く。

家の外に吹き飛ばされたウーガーはギザギザの歯だけを見せるようにして笑い顔を見せた。


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