第2話 一辺倒な真実
アビシニア「5日前に、私に起こった出来事を皆様に説明させて下さい!!」
アビシニアは自身の想いを主張するようにの体を一歩前に出すと、エスペラの皆に訴えかける。万全の体調ではないと言わんばかりに多少苦痛に歪んだ顔を見せながらも、自身の胸元から1枚のカードを取り出すと皆に見えるように掲げる。
アビシニア「断片的ではありますが、この記録媒体に残された映像と私の記憶を元に
お伝えさせて下さい!!」
アビシニアは掲げていたカードに、指先に付けたリングを翳すと皆が座る机の上に映像が投射され始める。皆が投影された映像に注目し始める中、なんとか倒れまいと両足を開くアビシニアの体調を気にしてか、エジは心配そうな顔つきで声を掛ける。
エジ「…アビー。もう少し休んで…」
アビシニア「嫌です!!」
「今、皆様にウーガーの真実をお伝えしなければ
私は後悔します!」
エジ「アビー・・・」
アビシニアは心配して声を掛けたエジを睨むように振り向くと、大きく声を荒らげた。
エジの知るいつもは温和なアビシニアとは違い、その顔は嫌悪や憎しみの感情が浮かび上がるように歪むと、エジの心配そうに伸ばした腕も無視する程に奥歯を噛みしめる。いつもの優しげな雰囲気は一切なく、席に座るエスペラの面々に訴えかけるように振り返ると、キッと瞳に力を込めた。
アビシニア「もう一度言わせてもらいます!
ウーガー・S・ラブレスは
この惑星の英雄などでは断じてありません!!」
アビシニアは激高するように声を張り上げると、自信の顔を怒りから震えさせる。ウーガーを嫌悪するような顔つきを皆に隠すように徐々に顔は俯かせると、アビシニアは震える唇を小さく上下させる。
アビシニア「・・・あいつは」
アビシニア「・・・あいつは!」
アビシニアの声は胸の中につっかえる感情が膨らんでいくように徐々に大きくなり始めると、そのつかえた感情を吐き出すように勢いよく皆に顔を上げた。
アビシニア「あいつは真っ当な人類ではありません!!!!」
アビシニアの声が会議室に響く。
猛り狂う感情を露わにしたように横に振った右腕は、ウーガーを否定するように力強く伸ばされると、悔しそうに歪めた顔からは荒い吐息が何度も漏れる。
珍しく憤慨する気持ちを露わにするアビシニアに、はじめは不思議そうな顔つきで見つめたいたエスペラの面々も、少しだけ同調するように意見を言い始めるのだった。
ヒマラ「アビー。
傷に響くよ。
ゆっくりでもいいから、
深呼吸してから説明してみな」
ヒマラはひたすら感情を表に出すアビシニアを心配して、落ち着かせるように声をかけた。
その自身を気遣うように掛けられたヒマラの声に、アビシニアは表に出していた自身の荒ぶる感情に気づくと、少し落ち着いたように尖らせていた瞳を緩めた。
アビシニア「・・・ヒマラさん」
少しだけ落ち着きを取り戻したアビシニアは、気持ちを切り替えるように、瞬きを繰り返しながらヒマラを見つめる。アビシニアの見つめる視線の先のヒマラは頷き微笑むと、他のメンバーも見てみろと言わんばかりに顔を少し揺すりながら横を向く。
アビシニア「・・・」
アビシニアはヒマラに誘導されるように視線を動かすとエスペラの他の面々の顔も映り始める。落ち着きを完全に取り戻したアビシニアの視界には、まるでヒマラの意見に同調したように、皆が口角を緩めるとアビシニアに向け、ゆっくりと頷くのだった。
アビシニア「・・・皆、さん」
エジ「・・・ふん。ヒマラの言うとおりだな」
エジはアビシニアの態度を見て、憂慮していた気持ちを消し去るように鼻から息を抜く。
アビシニアが振り返るようにして見たエジの顔は、自身の太い眉毛を段違いにして眉間に皺を寄せていた。だが、それは自身に怒っているのではなく、ようやく話ができると言わんばかりに緩めた片方の口角でも判断できるように、これで安心して話が聞けると言っているように、アビシニアは感じてしまうのだった。
アビシニア「・・・エジさん」
顔を合わせたアビシニアに、エジは細かく何度も頷く。
エジ「ウーガーの件は、お前の意見を聞いてからにする」
エジはアビシニアを見つめながら微笑む。
エジ「だから、少し落ち着いて喋ってくれ。
こっちは心配でおちおちしてらんねーんだよ・・・」
エジの瞳を閉じながら自身の頭頂部を何度も掻く姿に、アビシニアは少し申し訳なさそうに視線を落とすと、反省したようにトーンの落ちた声で謝るのだった。
アビシニア「……すみません」
下唇を口のうちに隠すようにして噛みしめるアビシニアの姿に、エジは優しく微笑むと肩を叩いた。
エジ「いいから言ってみろ。
・・・念の為に深呼吸はしておけよ。ふん」
粗暴に聞こえる口調ながら、滲みだすような優しさを感じさせながら去っていくエジの姿に、アビシニアは言われたように大きく息を吸い込むと、吐息と共に大きく頷いた。
アビシニア「はい!」
アビシニアのいつもの声と顔つきを見て、皆は待っていたように肩の力を抜く。
アビシニア「すみませんでした、皆さん。
今から私が話すことを聞いてから、
各々がウーガーについて
判断してみて下さい」
アビシニアは完全に冷静さを取り戻すと皆に頭を下げる。その口調、顔つき、発する言葉からも、ようやくいつものアビシニアに戻ったことを皆が認識するのだった。
アビシニアはそんな皆の気持ちを察したのか一度頷くと再び投射された映像にリングを付けた指を翳して操作するように動かし始める。
アビシニア「皆さんご存知の通り
私は5日前
ウーガーの元へ単独で向かっています」
「理由は
メインクが残してくれた映像を拝見し
彼と話がしたかったからです」
「私的にあまりにも彼に対する
人類の接し方が許せなくなって
私は独断で彼と接触しました」
アビシニアは淡々と皆に語りながら、自身の指先を動かし映像を切り替えていく。ディスプレイは罵詈雑言と物を投げられるウーガーの姿から、薄っすらと茂った木々に囲まれた閑静な山奥のような景色に切り替わると、暫くした後口を平行に揃え、佇むウーガーの姿に切り替わるのだった。
アビシニア「無言で佇む彼に、
私は話しかけ始めます」
「はじめに私はメインクの
仲間であることを告げ」
「ここから彼に対する
人類の接し方が
あまりにも酷すぎることを
訴え続けました」
ディスプレイの映像は切り替わり続けるが、必死に腕を動かしながらウーガーに語り続けるアビシニアとは違い、ウーガーの姿に変化は見られない。
ただただ無言で同じ場所に佇むと、アビシニアの話に頷くこともなければ
平行に揃った口が開くこともない。まるで同じ画面を見続けているか、停止した映像のようにウーガーは一つの風景のように溶け込むとアビシニアをフードから見える眼光の鋭い視線でただ見つめるのだった。
アビシニア「映像を見てもらってわかる通り
彼は一言も喋りませんでした」
「返答も所作もなく、話が通じている雰囲気が
全くしなかったというのが本音です」
「そして・・・」
アビシニアは皆に喋っている途中で、不意に考え込むようにして、自信の瞳を閉じた。
アビシニア「もしやと思い
彼にメインクの事を
私が語り始めた時・・・」
アビシニアは閉じていた自身の瞳を大きく開くと皆に訴えかけるように見つめた。
アビシニア 「突然、彼は自身の右拳を握リ始めます」
ディスプレイ画面には自身の顔の前で徐々に力を込めるように、拳頭を浮かしていく
ウーガーの姿が映る。
アビシニア「私は、この時ウーガーの動作に
違和感を感じましたが
話を続けました」
「もしかして
私達の仲間のメインクから
人類を守るために不本意ながら拳を
振るったのではないかと考え」
「訴え続けます」
アビシニアは一度頷くと話を続ける。
アビシニア「メインク。
私らの仲間が亡くなった事は
本当は悲しいこと!」
アビシニア「ですが!」
「侵略する体を装う私達には仕方のない事でも
あること!」
アビシニア「もし、その事を
気にかけているようなら
一言でもいいので
喋ってほしいこと!!」
アビシニアは自身の想いを強調するように声量を上げて力説すると、多少息切れを起こしたように大きく息を吐いた。ゆっくりと肩で息を整えるように間を空けると再び皆に顔を合わせた。
アビシニア「彼に訴えかける、私でしたが、
…次の瞬間でした」
モニターの映像が切り替わると拳を握りしめていたウーガーは
突然消えたように思える程の脚力で地面を踏抜く。
アビシニア「突然、
彼は片足で地面を踏抜きます」
アビシニアがディスプレイに指を翳すとウーガーの姿がコマ送りのように流れ始める。
地面は膂力により陥没すると、後ろに瓦礫が舞い上がる。土煙が上がる中、
ディスプレイには徐々に大きくなっていくウーガーの姿が映る。
ウーガーはアビシニアに飛びかかるようにして顔の横で握りこんだ拳を
徐々に弓を引くように後ろに引くと、突然アビシニアの胸部に振り下ろすのだった。
アビシニア「気づいた時には
私の胸部に彼の拳が
叩き込まれると」
「私は地面に
叩きつけられていました」
ディスプレイには地面に叩きつけられたアビシニアの姿が映るが、突然映像は途切れるのだった。複数の角度から取られていた他の映像も機器の故障のように同時に途絶えると、ディスプレイには警告を現すような赤い文字列が点灯する。
アビシニアは赤い文字列が点灯した画面を眺めると再び会話を続ける。
アビシニア「ここで私のメインカメラが破壊され
停止します。
そして・・・」
アビシニアは上着のポケットから小さい球体を何個か取り出すと、
自身の周りを包み込むように囲む球状のサークルを空間に展開させる。
奇妙な文字列が並ぶ空間は青白く輝くと、ポケットから取り出した球体は空中を浮遊するように浮かび上がり、ディスプレイには会議室の様子が複数の視点から映される。
アビシニア「連鎖するように周辺に散らしていた
スカイショットの映像もここで途切れます」
アビシニアが手を開くと空中を浮遊していた球体は手のひらに吸い寄せられるように
集まると、アビシニアは自身の周りに展開していた空間を閉じ、スカイショットと呼んだ物を再びポケットにしまい込んだ。
アビシニアは少しだけ間を挟むように息を吐くと瞳を閉じる。
アビシニア「・・・正直この時点で私は自身の生命が
幾ばくもないことを悟ります」
アビシニアは閉じていた自身の瞳を突然大きく見開くと開いた両目には記号のような文字が浮かび上がる。色素の薄くなった瞳の周りには力を込めたように筋が浮かび上がると、アビシニアはその瞳で皆を眺める。
アビシニア「私の瞳で
彼の攻撃を反らさなければ
瞬時に活動を停止していたとも思います」
アビシニアは変化した瞳で皆を見渡した後、スッと再び瞳を閉じる。瞳を閉じて
暫くした後、浮かび上がっていた筋が消え去ると、アビシニアはゆっくりと
瞼を開いた。
アビシニア「・・・ここから先は
私の記憶を語ります」
「証拠はありません」
「皆さんが私の話を聞いて
判断して下さい」
アビシニアはそう語ると自身に起こった事を思い返すように瞳を閉じた。
アビシニア「私は自身の命がここまでと悟ると」
「最後の望みをかけ
残された時間を
ウーガーに真実を伝える為に使いました・・・」
<>
ウーガーの拳を叩き込まれ、地面に叩きつけられたアビシニアは仰向けに寝そべった状態で空を仰ぐ。息を吹き返すように強めに吐いた息と一緒に口から血があふれると、溢れ出た血は頬を伝い地面に落ちる。
直撃を免れたはずだったが、その衝撃は凄まじく地面に叩きつけられた背中は麻痺したように感覚が無くなると、弱々しく動く腕を拳を叩き込まれた自身の胸に添える。
アビシニア(・・・核が)
アビシニアは朦朧とした意識の中、胸に触れた脈動から、自身の命が幾ばくもないことを悟ると上から自身を見下ろすウーガーと視線を合わせる。
視線を合わせたウーガーの瞳は固定されたように自身の顔を睨むが対話を望んでいた彼の口は以前平行に揃うと無言で佇むのだった。
アビシニア(…みな、さん。…すみま、せん)
???{・・・アビー。ーーー}
アビシニアの脳裏には、自身の愛称を呼びながら微笑む父親の姿が映しだされる。
{…おと、うさん……)
アビシニアは浮かんだ幻影に触れるように弱々しく震える手を上に翳すと、
ウーガーの身につける長いローブを掴み体を起こした。
アビシニア「…最後に、…私の話を聞いてください」
アビシニアは最後の力を振り絞るようにして膝をつくとウーガーを再び光の灯った瞳で見つめる。顔は苦痛に歪むが消失していた感覚を取り戻すように奥歯を噛みしめると、ウーガーに自身の血で汚れた顔を合わせた。
アビシニア「・・・私達は侵略者ではなく」
「・・・真実は惑星の保護を掲げている団体
エスペラ`という組織に所属している者達です」
アビシニアは、荒い吐息を吐きながらもウーガーの身につけるローブを掴む手に
力を込める。ウーガーはアビシニアの手を払うことはなく必死の形相で自身を見つめる、アビシニアを無言で見下ろす。
アビシニア「・・・この惑星。・・・アーステラは、
惑星の寿命で、もうじき滅びます!」
ウーガー「・・・!」
アビシニアの声に今まで反応の無かったウーガーの体が僅かに動く。
アビシニア「…私達はこの惑星アーステラの再生を試みましたが」
「…どの案も失敗に終わりました」
ウーガー「……」
アビシニアの必死の訴えにもウーガーの口が開くことはない。ただ、少しだけ耳を傾けていると言わんばかりに開いた目はアビシニアを見つめると動きを止める。
アビシニア「・・・万策付きた私達は生物の価値を見定めるような蛮行」
「…命の取捨選択を行う作戦。…プランBを発令しました」
アビシニアは言葉を言い終えると再び胸部に溜まっていたような血を咳き込むようにして口から吐き出す。
だが、時間がないと言わんばかりにすぐに顔を上げるとウーガーを懇願するような瞳で見つめた。
アビシニア「・・・総人口70億に対し
救える命は、おおよそ1万人
・・・だから!!」
アビシニアは声を張り上げると、最後の力を振り絞るようにして立ち上がる。
アビシニア「救える命だけでも助けさせてください!!
私の仲間に協力して下さい!!」
アビシニアはウーガーの身につけるローブを握りしめると、最後の頼みと言わんばかりに顔を寄せた。
懇願するアビシニアをウーガーは無言で見つめる。
じっとアビシニアの顔を見つめる視線は、固定したように時を止めると置物のように棒立ちになった体は微動だにすらしない。ただ、身につける長いローブだけが微かに吹いた風に揺れるのだった。
だが、寸刻した後・・・
次第にウーガーは自身の唇と体を小刻みに震えさせ始めると遂には俯くようにしてアビシニアから視線を反らす。
嘆き悲しむように俯いた顔の口元には片手を添えると、自身に芽生えた狼狽する感情を隠すように少しだけうずくまるようにして体を丸めた。
アビシニア「・・・・・・」
アビシニアは視線を落とすと小刻みに震えだしたウーガーを傷の痛みと高ぶった感情で乱れる呼吸を繰り返しながらも心配そうに見つめる。
アビシニアの視線の先で、体を小さく丸めたウーガーは告げられた理不尽とも呼べる真実に、打ちひしがれているように見えてしまうのだった。
無償で人を助け、
どんな罵倒にも決して屈せず、
それでも、
強固たる意思を掲げ、
人の為に自身の身を差し出す
高潔な精神を持った自身の目の前にいる男。
アビシニアは消えゆく自身の最後の望みとはいえ、この世の不条理に巻き込んでしまったウーガーの事を思い自分勝手な自己都合を強要させてしまうかもしれない言葉を
思い返すと、謝罪するように頭を下げようとした。
ウーガー「・・・がっ」
アビシニア「・・・?」
突然静寂の空間に、まるで似つかわしくない鼻をつまらせたような音が響く。
その押し殺したような声はやけに響くと声を出したウーガーは更に体を折りたたむようにして頭を下げる。
アビシニアは若干嗚咽するようにも聞こえた声と理不尽に震えていると思われるウーガーの顔に、自身の手を差し伸べるように伸ばそうとした瞬間だった。
ウーガー「うがっ・・・」
ウーガー「うがががががががががーーー」
ウーガーは突然顔を上げると特徴的な笑い声を周囲に響かせる。
その咆哮するような笑い声は空を薄っすらと覆う灰色の雲に向かって解き放たれると、今まで並行だった口は大きく開く。口に備えた、まるで獣のようにな牙を人目に晒すと狂ったような笑い声を上げ続けるのだった。
アビシニア「え…」
アビシニアは吐息のような声を漏らすとウーガーにすがるように掴んでいたローブから力が抜けたように手を降ろした。
少しだけ朧げになった表情には困惑するような気持ちが宿る。だが、アビシニアは
目の前で笑い声を上げ続けるウーガーも自分と同じで、困惑するような事実に直面し
最早笑うしか無い状況なのだと解釈すると、自分が作り出してしまった光景に後悔するように頭を項垂れさせたのだった。
アビシニア「…すみません。…すみません」
「…ごめんなさい」
アビシニアはうわ言のように謝罪する言葉を繰り返す。
一言一言を呟くたびに、力の抜けていく体は、徐々に地面へと向かうと、崩れるように片方の膝が地面へ触れた。アビシニアは片膝をつきながらも、せめてウーガーだけでも救いたいと必死で片手を地面に付き、起き上がろうとした時だった。
不意にウーガーは笑い声を止めるとアビシニアを振り返るのだった。
ウーガー「そうかぁああ!! よぉーうやく滅ぶのかぁああ!!」
アビシニア「…えっ?」
振り向いたウーガーの顔はまるで積年の望みが叶ったかのように嬉々とした表情を浮かべると嬉しさからくるような震えに体を揺らす。
ウーガー「だったら早く滅べよぉー!!」
「優しく滅んじまえよぉ! こんな世界ぃ!!!!」
アビシニア「…」
自身の思いを解き放っていくようなウーガーの叫びに、アビシニアは頭が真白くなると完全に力が抜けたように後ろへ、へたり込む。
ウーガーは、へたり込んだアビシニアを気にする様子も見せずに、自身の牙を見せつけながら積もりに積もった恨みのような言葉を吠え続ける。
ウーガー「この惑星の奴らをよぉ!」
「殺してやりてーのによぉ!!」
ウーガー「俺は約束があって殴ることすらできねー!!」
ウーガーは拳を力強く握りながら地面に顔を向けると体を丸める。
ウーガー「…ずっと。…ずっと待ってんだ」
「…この世界が滅びるのを」
ウーガーは独り事を地面に震えながら呟くと、再び頭上を眺めるように顔を上げる。
ウーガー「あいつらの死に様がよーうやく見れんのかー!!」
ウーガー「・・・俺は、・・・俺は!!」
ウーガーは嬉しさからか顔を震えさせると空に向かい吠えるのだった。
ウーガー「あいつらの最後を笑いながら見送ってやるよぉ!!!」
「うがががががががーーー」
ウーガーは再び狂ったように笑い続ける。
へたり込みながら一連の様子を見ていたアビシニアは、まるで突然虚構の世界に
迷い込んだように目を丸くした状態でウーガーの言動を見続けていた。
ウーガー「・・・あのデカぶつを
憂さ晴らしに殴りに言って正解だった」
ウーガー「あいつを殺したおかげで
お前が俺の元を
訪ねて来たんだからよぉ!!」
「うがががががーーー」
アビシニア「…」
アビシニアはウーガーの繰り返す行為を呆然と見ていたが、ウーガーの呟いた自身と仲間の命を軽視するような一言を聞くと途絶えそうになる意識の中、瞳から涙を流しながら訴え始める。
アビシニア「…なんで?」
「…なんでこんな奴に
メインクは殺されなければならなかったの…?」
「…なんで、私はこんなやつに会いに来たの…」
アビシニアは瞳から涙を溢れさせながら泣き声を上げると、後悔から声にならない声を漏らす。滲み出るような悔しさを声にしながら力の抜けた体は、地面に横を向いて崩れ落ちる。
アビシニア(…なんで…なんで}
横向きに崩れ落ちたアビシニアの瞳からは頬を伝い地面に涙が滴り落ちると、光の消えた瞳の視界はボヤけていくのだった。
アビシニアの生命が消えさろうとした時、ウーガーは嬉しそうに上げていた笑い声を止めると地面に崩れ落ちたアビシニアを見つめる。
ウーガー「・・・俺への最高の
プレゼントをくれたお礼だ」
ウーガーは微笑みながらアビシニアに呟くと自身の左足の足元を見る。
ウーガー「ライブリー」
ウーガーは誰もいない空間に名前のようなものを呼んだ後、今度は首を横に振ると
右足の足元を見る。
ウーガー「クライリー」
ウーガーは呼びかけるように名前のようなものを呟くが、アビシニアのぼやけた視界にはウーガー以外の人物は映らない。
アビシニア(……)
ウーガーは地面に横たわるアビシニアを指差す。
ウーガー「こいつを治せるか?」
ウーガー「・・・・・そっか。
すまねーけど、頼むわ。
後でお菓子やるからよ」
ウーガーは微笑みながら誰かと話しているような素振りを見せるがアビシニアの視界には何も映らず、ウーガー以外の声は聞こえなかった。
朦朧としていたアビシニアの意識は、次の瞬間には完全に途絶えると
瞼が閉じられたように黒く塗り潰されたのだった・・・
<>
アビシニア「・・・これが、
記録に残せなかった
私の覚えている記憶です」
エスペラの面々「・・・・・・」
アビシニアの告白にシーンと会議室内が静まり返る。誰も何も言わぬまま、皆が呆然とアビシニアだけを見つめる。
エジ「あ、アビー・・・
傷を負ったことによる
げ、幻聴や幻視といった・・・」
アビシニアは恐る恐る声をかけてきたエジの言葉をかき消す様に、話しかけられている途中で首を左右に何度も振った。
アビシニア「記憶の改ざんでもされていない限り
断じて違います・・・」
アビシニアはディスプレイに再び指先を翳すと映像が切り替わる。
そこには、しゃがみ込んでアビシニアを見つめるウーガーの姿が映る。
ウーガー「…警告のために教えといてやる。
俺の名前はウーガー・S・ラブレス」
「…次はないぜ」
会議室のディスプレイに投影されたウーガーはアビシニアに呟くとゆっくりと踵を返し、去っていくのだった。
アビシニア「この場面は皆さんも
知っていると思います」
「電子空間、スカイショットが
突然復帰しウーガーは呟くと去っていきます」
アビシニアがディスプレイに向けて指先を横に振ると、投影されていた映像は途切れる。
映像が途切れるのを確認したアビシニアは再び皆を見渡すように前を向く。
アビシニア 「・・・この後、
私は、エジさんに発見され
母船で治療を行っていました・・・」
エスペラ「・・・・・・」
再び静まり返るエスペラの面々にアビシニアは考えるように瞼を閉じる。
アビシニア「私はウーガーの行いを止めたいです。
だから・・・」
アビシニアは閉じていた瞼を開くとエジとマンチに顔を合わせた。
アビシニア「私に力を貸して下さい!!
エジさん! マンチちゃん!」
アビシニアの切望する瞳には二人の人物の顔が映るとその声は会議室に響いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます