優しく滅べよ 世界たち

虎太郎

第1話 世界崩壊の真実と嫌われ者


???「・・・お前らが、・・・お前らが」              


???「・・・お前らが何をしたって、俺はお前らに何もしない」    

*少年は燃え盛る家屋と理不尽の前で泣き叫び             


???「この世界が優しく滅びるのを・・・」             


???「お前たちの最後を、笑いながら見送ってやる!!!」       

                                  

*この世界が滅びる事を願った・・・  

                                  

                                  


「 やさしく滅べよ世界たち」                     


                                   

???「・・・ダメ。何度やっても」                 


 夜の埠頭で頭から足元までもをすっぽりと覆う、ローブ状の服を着た少女は、首を横に振る。暗闇に隠れ顔は見えないものの、その顔色は悪く、今までの努力、切実な思いが、全て否定されたような苦悶の表情を見せる。          

                                  

???「この惑星ほしに、…命は芽吹かない」         

                             

???「どうして…どうしてなの…」             


 地面に両手をついた少女は、やりきれない想いから遠ざかるように、顔を俯かせると瞼を閉じた。少し震えるようにして俯いた顔には、光の当たらない暗闇のような影が宿ると、少女は瞳を潤ませるのだった。


???「―――もういいだろ」                   


 不意に少女の後ろから男の声がすると、男は地面を眺める少女の肩を、優しく叩くのだった。

 男も全身を覆うようなフード付きのローブに身を包んでおり、顔はよく見えない。だが、口調と薄っすらと見える口元の歪みからわかるように、少女の言葉を無理やり否定するような口ぶりではなかった。むしろ振り返った少女が見た男の顔は、自分と同じような思いを抱えながらも、いつまでも叶わない願いに自分を悩ませたくないと、自らが悪役を演じ、自らの苦渋の決断で自身の願いを断ち切ったような感じさえするのだった。


少女は男の顔を見た後に、再び肩を落とし項垂れる。


???「お前は頑張ったよ。…でも、無理だったんだ」       


???「・・・はい」                        


 少女の正面から男は微笑むと、男は再び少女の肩に優しく触れる。ただ、まだ引きずる思いがあるのか、少女は項垂れた顔をなかなか挙げることができなかった。

 男は少女に触れていた手をゆっくり離すと、踵を返し後ろを振り向く。


???「俺はこの後、「プランB」を皆に提案する」          


???「!!」                           


 男の言葉に少女は顔を無理やり上げると見開いた目で男を見つめる。


???「…で、ですが!!」                   

???「もういいだろ!!!! お前は頑張ったんだ!!」      


少女の大きくなった声に、すぐに反応した男は、再び少女を振り返ると声を掛けた。振り向きざまに少女の肩に触れた両手も先程とは違い力強く、少女に寄せた顔には苦悶の表情とも取れるシワが浮かぶ。


???「…もう無理なんだ。…もう、無理なんだよ」      


 男は少女に合わせた顔を少しだけ俯かせた。

 その表情は少女にとっては、やはり同じ想いを男が抱えているにも関わらず、憔悴した自分の為に苦渋の決断をしてくれているように見えてしまうのだった。

 少女はゆっくりと項垂れると鈍るような唇を上下させた。


???「…は、…は、い」                 


 男に返答した少女は光の消えた瞳で地面を見つめると、動きを止めるのだった。


???「お前はこの半年、この惑星の為に良くやってくれたよ」    

???「…はい」


 少女に触れる男の両手は先程までとは違い握りしめる力が緩むと優しくも、暖かくも少女には思えてきてしまうのだった。



???「この惑星(ほし)は滅びる。…仕方がなかったんだ」

   

 少女を見つめる男の顔も少し項垂れると、少女は自分と同じように男も自分が出した決断に対し、悲痛な胸のうちを秘めているように感じてしまうのだった。


???「惑星の寿命だ。…今回は俺達にはどうしようもねーよ」  


男は少女の前で両目の瞼を閉じると、ゆっくりと首を横に振った。


???「…はい。…わかりました」


 少女は瞳を閉じると男の要求を飲むように自らの頭を下にゆっくりと下げたのだった。

 男は少女の返答に微笑みながら2度程頷くと、再び踵を返し後ろを

振り向く。後ろを振り向いた男は、自分の右耳に右手で触れる。触れた男の耳につけた装置はアンテナのように伸びるとそれから数秒して男は口を開いた。


???「ああ、俺だ」                       


 男は誰かと喋っているのか、何もない空間に独り言を呟く。口元には携帯電話のようなものなく。集音するような機器すら無い。ただ男は自身の耳にのみ指先で触れていた。


???「皆を集めろ。本日付で俺からプランBを発令する!!」    


 男は誰かと会話しながら、自身の右腕を横に力強く振り払った。


???「ああ。この惑星は…」                 


 男は夜空を眺めるように頭上を見上げた。


???「滅亡する!!」                      

???「……」                         


 この惑星の滅亡を力強く断言した男とは違い、男の発言にどこか悲しむような素振りを見せた少女の顔は歪む。

 ただ・・・

 誰もその顔をみることはできなかったのだった・・・         

                                 

*男が決断した日を境に                      

*人類の住むこの惑星「アーステラ」に

*外宇宙生命体来訪の知らせと

*その者たちが、この惑星を不当に

*占領しようとしている報道が世界中に知れ渡ったのだった・・・


♦ 

                              

モブ「メーデー。メーデー。メーデー」                                    


 武器を構えた男は必死の形相で通信機に手を触れ叫ぶ。男の声は震え、男の形相からは完全に血の気が引いている。必死で繰り返す叫びは自身の生命が危機にひんしているようにも見え、明らかに自らの状況に絶望しているように見えるのだった。


モブ「ば、化け物共め!!」


 男は通信機に触れていた手を離すと、素早く銃を構える。


 男の周りには男と同じような軍服を着用した者たちが無惨にも地面に這いつくばると、男の周囲は爆弾でも投下されたかのように無惨な傷跡が爪痕を残す。


 地面は隆起し、木々は燃え、街の形をした物は破壊されると、男の周囲では震える人々が列をなす。この惑星の文明は一切機能せず移動するための手段も全てが停止するのであった。


 男は人々を振り返ると覚悟を決めたように一人立ち上がる。男は両手に構えた銃のトリガーに手を掛けると震える指先で標的に対しトリガーを引いたのだった。


モブ「うわぁああああ」


 男の叫びとともに銃口からは乱射されたような玉が前に飛ぶ。男はトリガーを握る指先を決して離さずただ、固定したような人差し指を握り続けた。だが、男の銃口の先が向いた相手は、男の視界から瞬時に消え去ると、男は何が起こったかわからないという表情で、キョロキョロと周囲を見渡す。


モブ「ど、どこ―――」


 男の声は最後まで発せられる事は無かった。

 発している言葉の途中で男の意識は途絶えると、力の抜けた体は白目を向いて地面に仰向けに転がる。地面に転がった男の周りには、背の低い人物と大柄な人物が並んだように突っ立つ。

両方とも自身の瞳以外を隠すような服に身を包むとその服は微光な光を発し輝く。


???「 aksjdienfdenhd」                

                             

 不意に小柄の人物は、大柄の人物を見上げるようにして顔を合わせると、この惑星の言語ではない言葉で語りかける。


???「jdjddheud,ksjdjdiujjh」               

                             

 小柄な人物に喋りかけられた大柄の人物は、自分の首を横にし、小柄な人物に顔を合わせると見下ろすようにして返答した。


 二人の周りにはパニックとなった人だかりが蜘蛛の子を散らしたように逃げまとう。

 大柄の人物は、その光景を見て、自身の頭を項垂れさせると申し訳なそうにも見える態度で、後頭部を何度もフードの上から掻くのだった。


 小柄の人物はパニックになった人々を見ながら腰に手を当てると、片方の脚を少々外に開いた。


???「jhjuh、あ、あ、ああ」              


 不意に小柄の人物は、この惑星の言語に聞こえる言葉を喋りだすと、確認するように暫く単音を繰り返す。そして、なにかの準備が整ったのか、自身の頭を覆うフードの上から人間の耳の部分に片手で触れると頷くのだった。


???「そっちはどうです?」              


 小柄の人物はこの惑星の言語を、女性と思われる声で呟く。

 数秒後、小柄の人物の周囲に男の声が響く。


???「ああ、お前らの陽動のおかげで無事成功だ」    


 周囲に響いた声に小柄の人物は自身の体を少しだけ跳ね上がらせる。


???「あっやば!                  

    ・・・いえいえ、

   スピーカーにしてただけですよ」  


???「お、お前なー・・・」             


 周囲に響いた男の声は明らかに女の言動に対し

 落胆しているのが分かる程だった。


???「うへへ。

    っま、人もいないしこのままで大丈夫です」   


???「・・・はぁー、まあいい。お前らの       

    おかげでこっちは対象の確保に成功したんだ。

  その位のこと大目に見てやるよ」


 女は男からの返答にまるで喜ぶように瞳を瞑ると口角を緩めた。

 

???「さすが伊達にリーゼントじゃないですね。   

    話がわっかるーー」


小柄な女性は喜ぶように拍手を繰り返す。


???「うるせー。用がないなら、もう切るぞ…」 


???「あっ。本当に切れた…ま、いっか」    


 小柄な女性は通信が切れると、見上げるように頭上を眺める。暫く頭上を眺めた後

再び前を向く。以前小柄な女性が見渡す光景は、地獄絵図のように人の群れが織りなす叫びが木霊する。小柄な女性はその光景に溜息を漏らす。


???「ふーー。

・・・あっ、何て言うんだけっけ? こういう時」  


 小柄な女性は考えるように口先に人差し指をつけると、目線を下に構えた。


???「・・・あっ、そうだ!!」         


 小柄な女性は、まるで思いついたと言わんばかりに自身の体を跳ねさせた後、パニックとかしている光景を再び見つめる。


???「無駄な努力ご苦労さまです」        


 小柄な人物は呟きながら、両手を人体の膝の部分に添え、瞼を閉じると、綺麗な所作でお辞儀するのだった。


???「jddhfddfh、fjdjddf・・・」        


 大柄な人物は小柄な人物の所作と声を聞き、頭上を見上げると、やりきれない思いでもあるのか、自身の瞳を閉じると片手で覆い尽くしたのだった。


                      

TV「「以前、突如アーステラに

   現れた、外宇宙生命体による        

   人攫い行為、破壊工作の被害は

  後を断ちません」」

 

 シェルターのような閉鎖された空間に備え付けられた大型テレビからは

臨時のニュースが流れる。

 周囲にはここに逃げ込んできたであろう人々が集まると、皆が一心不乱に

モニターを眺める。

 アナウンサーの男はその内容の深刻さに顔を尖らせると、吹き出るような汗を

ハンカチで拭った。

 モニター眺める集団の中にはまだ年端もいかない子供もいる。

 一人の子供は母親と身を震わせるようにして、お互いが寄り添いあうと、母親に

声をかける。


モブ子供「…こ、ここにも来るのかなー?」   

 

 年端もいかぬ子供の怯える声に、母親は首を横に向けると顔を合わせた。


モブ母「大丈夫よ。ここなら、大丈夫だからJくん」  

   

 母親は怯える我が子に寄り添うとそっと我が子の頭を何度も撫でる。

我が子に安心してほしいと思っての行動だったが、我が子を撫でる母親の手は

恐怖からか微かに震える。


TV「「何故、彼等はこのような

   蛮行を繰り返すのでしょうか?

   現地からお伝えします」」


 テレビモニターの映像がアナウンサーの男から切り替わる。

切り替わった映像には先日起こった悲劇が繰り返し放映される。

壊れていく街、逃げまとう人たち、蛮行を繰り返す外宇宙生命体と

戦うアーステラの軍人たち、そして、その原因を作っている侵略者の姿。


 そのモニターには理不尽しか映さない。


 明るい話題もなく、ただただこの惑星の驚異として、侵略者の姿を恐ろしくも、

大罪を繰り返すテロリストともとれるように放映し続ける。


モブ子「あいつらは泣き叫ぶ私の子を

    無理やり連れて行ったわ・・・

  うっ、うっーーー」


 我が子をさらわれたという女性は泣き崩れるように、膝を折る。


モブ「自衛隊は何をしているんだ!!

   何も対策できていないじゃないか!!」


 男はこの惑星の軍事に関わることに文句を言うと、体を怒りから震わせる。


モブC「・・・私の婚約者は先日あいつらに

   攫われました。・・・なんで」


 悲痛な面持ちの男は生気を失ったような顔でボソボソとつぶやく。


モブC「なんでこのような事が

   できるのでしょう?・・・

  私には、理解がぁ、できません

 ・・・」

 

 最後には言葉が詰まるとぐったりとした様子で項垂れた顔に涙を浮かべる。


モブ統領「我々人類はこの驚異に対し

     一丸となって望まなければ

   ならない」


モブ統領「未だ解決の糸口が見えない

     問題に対し、各国が協力

   する姿勢を崩さない事を

 誓う!!」


 力強く言い放った国の代表者だが、未だ侵略者に対し、防衛も撃退も

出来たことがない事実に、どこか悲壮感が漂うのだった。


 シェルターに備え付けられたモニターを見つめる人達全てに、希望なんて言葉は

存在しない。人々は身を震わせ、この事実を受け止めなければならなかった。


 泣く、怒る、悲しむ、全てにおいて負の感情しか浮かんでこず、侵略者に対し、「絶望」と言う2文字だけが皆に浮かんでくるのだった。


モブ子供「恐いよ、お母さん!!」

モブ母「大丈夫!! 大丈夫だから!!」


 抱きついてきた我が子を母親が抱きしめると、お互いに芯から震えるような恐怖を

共感してしまうのだった。


 一組の親子が互いに恐怖に震えた、その時だった。


 シェルターに轟音とともに衝撃が走る。


 轟音と共に突如鳴り出した警告音もシェルター内にいる人々に恐怖を

伝染させると、皆が叫び声を上げ始める。


モブ「きゃあぁぁーーー」             


 シェルター内に轟音と衝撃がはしった数秒後


 シェルターの壁だったものは、大きな丸形にくり抜かれると、消し飛ぶようにして

砕け散った。


 そのくり抜かれた穴から、遂に人々が恐怖する大柄の侵略者が一人姿を現す。

 大柄の侵略者は情報媒体で見た姿のように自身の身を微発光するスーツで覆い隠すと、隠していない目だけを動かし周囲を見渡す。

 シェルター内の人達は目を見開くと、侵略者の行動に皆が注目する。


???「ddjiwdwdh,sniqsi」           


 侵略者が聞き慣れない言語で喋った瞬間。

人々の恐怖は臨界点に達すると皆が叫びを上げ逃げまとうのだった。


モブたち「!!!!!!!(叫び声)」      


 大柄の侵略者は人々が逃げまとう光景に少しだけ顔を俯かせるとため息を吐くような仕草を見せた。息を吐いた数秒後、意を決したように頷くと右足を前に出し、両足で地面を踏み抜いた。

 大柄の侵略者が先程までいた箇所の床は消し飛ぶと、後ろに瓦礫が舞い散る。

姿が消えた次の瞬間には、大型の侵略者は一人の少年の体を両手で捕まえると、母親から引き離すようにして自身の脇に抱えるのだった。


モブ母「J君ぅぅ!!!!」

モブ子供「お母さーん!!」


 侵略者に引き離された親子はお互いを求め、腕を伸ばし合う。

その光景に大型の侵略者は自身の頭頂部を指先で掻くのだった。


モブ子供「誰かぁ! 誰かぁ! 誰か助けてぇ!!」


 子供は泣き叫びながら、侵略者の脇で暴れる。母親は子供を取り戻すように体を乗り出すが近くにいたものが母親を取り押さえるようにしてその行為を止める。

お互いの手も、想いも、重なることはなく引き離された思いからお互いが叫ぶと

救世主を願った。


モブ子供「だれかぁああ!! たすけてぇええ!!」


 子供が大声で叫んだその時だった。


 シェルターのドーム型天井に轟音が響くと、シェルター内が大きく揺れる。

衝撃は皆を揺らすと、轟音が響いた天井から一人の男が姿を表す。男はまるで隕石でも降ってきたかのようにシェルター内の床に着地すると、轟音と衝撃は瓦礫を巻き上げ降り注いだ。


???「・・・・・・・」                     


 突然現れた男は、自身をフード付きローブに身を包み半身で侵略者を無言で見つめた後、自身の被るフードをおもむろに右手で外した。


 獣の柄のような剃り込みを入れた両方の側頭部から、長く流れた毛先を揺らすと、男の平行になった口は一切開くことはない。

ただただ、獣のように鋭い眼光を光らせると侵略者を睨むのだった。



???「jdjiedfdi!!」                      

???「・・・・・・」                     


 お互いが見つめ合い侵略者が驚くような声を上げた時、獣のような目つきの男は脚に力を込めると両足でシェルターの床を踏み抜く。


???「sw!!!!」


 侵略者が短い悲鳴にも似た声を漏らす。

 一瞬で移動した獣のような男は侵略者の脇に抱えた少年を片手で引き離すと、空中で左足の蹴りを侵略者に放っていた。

 侵略者は吹き飛ばされ壁に激突するとシェルター内が衝撃で揺れる。


???「・・・」                      


 侵略者が沈黙している隙に獣のような男は片手で掴んだ少年を床に下ろすと手を離す。


???「・・・・・・」                     


 手を離された少年はお礼も言わずに母親の元へ走っていくと、親子は泣きながら抱き合うのだった。


 獣のような男は再び自身が吹き飛ばした侵略者に視線を合わせる。


???「・・・bthduf」                   


 侵略者は頭を何度も降るようにしてゆっくりと立ち上がると、ダメージがあるのか足元をふらつかせる。侵略者は再び頭を大きく降った後、獣のような男に向けて身構えるように左手を前に出した。


 獣のような男は以前変わらぬ半身の姿勢で首だけを横に向けると侵略者を睨む。


???「・・・・・・」                   

???「・・・・・・」                   


 両者が互いに牽制しあうと、暫く膠着するように時間が流れるが、不意に獣のような男は自身の右の拳を顔の前でギリギリと握りこむと、拳に備えられた4本の拳頭を浮かび上がらせた。右拳には筋が浮かび上がると、拳の筋肉は隆起するように形を変えた。


右拳を握りこんだ男に対し、侵略者は突き出した左手を右手で捻るように回すと、左手の掌を獣のような男に対し開いた。


次の瞬間。


 辺り一体を爆発的な光量で包み込むと、侵略者の左手から青白く輝く光線のようなものが男に放たれる。一瞬で獣のような男の姿は光に包まれると男の後ろの壁は消し飛ぶ。

 侵略者から光が放たれ続ける中、侵略者の視界に徐々に現れたのは獣のような男のシルエットで、その影は徐々に大きくなっていくと侵略者が姿を完全に捉えた時、獣のような男は握りこんだ右拳を頭上から振り下ろすと、侵略者の胸に斜め上から叩き込んだのだった。


 その衝撃は凄く、シェルターを地震のように揺らす。


 右拳を叩き込まれた侵略者は体を折り曲げながら床に背中からめり込む程で、侵略者は暫く床からはみ出した脚を痙攣させていたが、時間が立つにつれその動きは弱まっていくと最後は完全に沈黙するのだった。


???「・・・・・・」                     

???「・・・・・・」                     


 動きを止めた侵略者を、獣のような男は自身の髪を右手でかき上げながら見た後に、ゆっくりと踵を返すと再びフードを被るのだった。


 誰もなし得なかった侵略者の撃退を、男は己の拳一本で成し遂げると無言で去っていく。


男の存在は最早人々にとって

夢や幻、

希望、

救世主のように映り

男に対し称賛が飛び、喝采が上がる・・・はずだった。


だが、男に浴びせられたのは勝利の美酒でもなんでも無かった。

飲みかけのジュースの瓶が男の頭に直撃すると、浴びせられるのは

罵声。

怒声。

憎しみの声だけで

「ここから出ていけー」

「消えろ」

「死ね」

汚い言葉の罵詈雑言。

自分が助けたはずの少年も、その母親さえも男を睨むと

嫌悪するように近くにあった物を男に投げつけるのだった。


 フードを再び被った男はその自分を嫌悪する声を、飛来物を、決して物を言わぬ平行にしたままの口で受け続けるのだった。


 男は無言で去っていく。

 人々の態度に決して反論も反撃もぜず怒ることもしない。ただただ無言で、その行為を受けながら去っていくのだった。


ゆっくりとした足取りで男は出口へ向かう。


*この男ほど                                             


男はようやく収まってきた民衆の罵声に

少しだけ平行にしていた口の口角をわずかに緩めるのだった。       


*理不尽に愛された男は何処にもいないように見えた・・・        

                                   

♦                    

                  

*一週間後・・・          

    

*謎の男が侵略者を撃退してから1週間の時がたつ     

                                    

TV軍人「「・・・以前、我々は蛮行を繰り返す侵略者に対して

     手立てが無いというのが正直な意見でしょう・・・」」


 大型の映像モニターにはアーステラの軍人の姿が映る。

 深刻そうな顔つきで言葉を語る男の瞳の下には薄っすらと蓄積されていったような隈が見える。侵略に対し浮かび上がる焦燥感、絶望感は男の顔色を見るだけでも判断できてしまいそうなくらいに明白だった。


TV軍人「「今こそ、未だにとして侵略者たちの撃退に成功していな                      

     いこの事実に、向かい合わなければならない時かも知れません・・・」」


TVアナ「「そっ、それは一体どういうことでしょうか?」


 焦燥感を露わにしたアナウンサーの女性が軍人の男に尋ねられると男は深刻そうな顔を俯かせた。男は次の言葉が出せないと言わんばかりに口先を震えさせると、暫くして鈍るような唇を上下させるのだった。


TV軍人「「・・・無条件降伏」」

TVアナ「「・・・・・・・」

TV軍人「「被害がさらなる拡大を辿る前に国連は、この言葉も

     視野に入れるべきだと思います!!」」


 暫く無言の時間が経過した後、モニターの映像は電源が切れたようにプツンっと消え去るのだった。


???「・・・っというわけだ」                    


 男は映像が流れていたモニターに翳していた、自身の人差指につけた指輪を元に戻すと、目の前に置かれた机に両手を開き叩きつける。男は周囲に人でもいるのか、同意を求めるように何度か頷くと辺りを見渡すように首を左右に動かすのだった。


 男の左右に動かした視界の先には8人の男女が球体の椅子に着席すると皆が男の顔を見つめる。


???「エジさん。おかしくないですかー?」                  


 頭頂部を髪留めで跳ねさせた、目が丸めの女性はエジと呼んだリーゼントの男に問いかけると、自身の顎を机の上で組んだ両手の上に載せた、だらしない格好で見つめる。


エジ「ああ! おかしいに決まってんだろ!! マンチ!!」


 エジは多少頭に血が上っているのか、マンチと呼んだ女性に荒い口調で言葉を返すと、机を自身の右手の拳輪で叩く。

 ドンッと音がなるくらいの力強さで叩いた机は少しだけ、揺れるように机の置かれていた小物を浮かせる。


エジ「この一週間メインクを殺したのことが一切報道されていないんだぜ!!」


 エジは左手を机に添え、体を乗り出すと自身の太めの眉毛を段違いにしたような皺を眉間に寄せた。荒々しく右腕を横に降った姿からも、皆から見てかなり鬱憤のようなものが蓄積されているように見える。

 エジは視線を左右に動かし皆を確認すると、荒い吐息を鼻から吐くのだった。


???「僕の作戦ミスで、メインクには悪い事をしてしまったね・・・」     


 ライオンのような顔中髭だらけの男は発言すると、申し訳なさそうに顔を俯かせた。

 顔を俯かせた男に、エジは即座に顔を合わせると口を開く。


エジ「お前のせいじゃねーよ、リカンシ!」

リカンシ「でも…」


 エジは部屋に響く位の大きな声を上げ、リカンシと呼んだ男を庇うが、リカンシは瞼を少々垂れ下がらせたハの字の眉で、悲痛な心境を醸し出すと、エジは怒りを表すように両手の拳を握り、再び机に拳輪を激しく叩きつけるのだった。


エジ「この惑星ほしにあんな奴がいるなんて誰もわかんねーだろっ!!」


エジは今日一番の怒声にも似た大声を部屋中に響かせると皆を大きく開いた眼で見つめる。エジの大声でシーンと静まり返った

 部屋の中は嫌な雰囲気の静寂が包む。静まり返った部屋には小さくな鳴り続ける機械の駆動音だけが響くと、皆が平行に揃えた口で目の前にある机を眺める。


マンチ「でもでもー。メインクさんは、

    私達『エスペラ』の戦闘要員ではありませんからね」


 マンチは静寂を切り裂くように自身の掌を上に向けて顔の前に出すと、あっけらかんとした態度で発言する。多少空気が読めないような雰囲気をマンチは醸し出すが、発言を止めていたメンバーもこれを機に発言し始めるのだった。


???「・・・確かに。

    メインク殿は惑星再生班。戦闘要員ではないな・・・」


 まるで岩石や鉱石と呼べそうな筋骨隆々とした男は、太い腕を組んだ

堂々とした姿勢で落ち着いた声で発言する。


???「「そうですね、私達もそう思います。ラグドーラさん」」


 似たような顔つきの男女は机から頭だけを出した小さい体で、同時に同じ内容を

ラグドーラと呼んだ男を見ながら喋りかける。


ラグドーラ「キジトとサバトも同意見か・・・」


キジト、サバト「「はい。メインクさんは戦闘指数を現す

         アナリティクスも3000位。

         我々エスペラの平均値よりは大分下回ります」」


ラグドーラ「・・・しかし、この惑星の軍人が武装した状態で

      アナリティクスは10〜20程度。

     およそ考えれん話ではあるがな・・・」


ラグドーラは不可思議と言わんばかりの物言いをすると

深刻そうに瞼を閉じ、分厚い首を左右に何度も降る。


???「そうは言ってもねー、ドーラ。現にメインクは撃破され・・・」


 恰幅のいい女性はしゃきしゃきとした物言いでラグドーラに声を掛けると、自身の後ろを親指で指し示す。


???「亡骸はここにあるんだよ」


 恰幅のいい女性が指し示した親指の先には、体格のいい男性が青色の液体に浸かると

目と口を閉じた状態で、微動だにせずに浮かんでいる。

 ラグドーラはメインクの亡骸を見ると大きく息を吐くのだった。


ラグドーラ「ふーー。・・・そうだな、ヒマラ」

ヒマラ「亡骸が回収できただけでも救いだよ。

    言い方は悪いけどね・・・」


 ラグドーラからヒマラと呼ばれた女性は深刻そうに俯いたラグドーラに声を掛けると、自身の瞳を閉じるのだった。


マンチ「もうー、マンチ大変だったんですよー。

    メインクさんの様子がおかしいから

   至急現地に迎えってエジさんに言われて」


マンチはまたしても空気が読めないと言わんばかりに多少体を起こすと、両頬を凹ましたような口で自分がいかに大変だったかを説明する。

自分の命令のせいで苦労したと言いたげなマンチに、エジは口を歪ませると顔を合わす。


エジ「お前が一番近くにいたからしょうがねーだろ!」


マンチ「でもでもー! 

    行ったらびっくりだったんですよ! マンチ!

    メインクさん地面に埋もれてるし、

   人だかりできてるしで、

   急いで回収したんですからね!」                  


エジ「ああ。それには俺も感謝してるよ」


 エジは顔を尖らせながらもマンチに感謝していると伝えるが、不意に視線を横に逸らすのだった。


エジ「・・・死んでるとは思ってなかったけどな」


 エジは机に肩肘をつくと顔を尖らせる。


???「でも、いわゆる「プランB」。

    私達の任務は人類の選別救出ですよ。

  惑星の住人と争いが起こるのも

 こちらが被害を受けるのも

 言わば想定内の事ですよ・・・」


丸顔の女性は丸淵のメガネを光らせると確信をつくような鋭い意見をエジに返す。

その歯に物を着せぬ発言にエジは小さく舌打ちを返す。


エジ「・・・っ」


舌打ちしたエジは丸顔の女性に顔を合わせると不機嫌な自分の面に右手の親指を突きつける。


エジ「あーー、そうだよ、スコティ! お前が言うとおり 

   俺が発令した「プランB」は言わば

 アーステラ人類の強奪だ!」


エジはスコティと読んだ女性を睨むと、悔しそうに自身の下唇を前歯で噛みしめた。

スコティは少し俯くと自身の身につける眼鏡を人差し指で持ち上げる。


スコティ「・・・そうですね。

     70億の総人口に対し計算上救えるのは1万人程度。

    人類の選別なんて創造主に等しい蛮行を私達は

    行わないといけないんですよね・・・」


 スコティの言葉に皆が黙り込む。

 皆が口を閉じて俯く中、マンチはお通夜のような雰囲気を嫌ってか静寂を切り裂くように口を開く。


マンチ「でも、もうじきアーステラ滅ぶんだから

    しょうがなくないですかー?」


 マンチの見も蓋もない意見に皆がマンチから視線を反らす。

ただ、リカンシだけはマンチの意見に頷くと口を開いた。


リカンシ「そうだね、マンチちゃん。

     この惑星。アーステラは星の寿命で

    もうじき滅びる。

   それは間違いない事実なんだよね・・・」


 皆がリカンシの意見にコクコクと小さく頷くと、

 エジは両手を机に添え、勢いよく席から立ち上がる。


エジ「俺達の任務にはそういうことは起こり得るんだよ!」


エジは見開いた目で皆を見ると、自身の後ろにある標語のような物が書かれた壁を親指で力強く指差す。


エジ「俺達は !! 

   通称『エスペラ』なんだからな!!!」


リカンシ「・・・そうだね、エジ副官」


 エジの言葉にリカンシは頷くと、エジが指差す壁に掲げられた標語じみたものに視線を持っていく。そこには惑星の成り立ちとともに、記号のような奇妙な文字列が並ぶ。リカンシはそれを改めて確認するように目を通す。


リカンシ「そうだね、僕たちはエスペラ。

     数多にある惑星を救うのが、僕達の仕事なんだよね」


 リカンシの言葉に皆が力強く頷く。


リカンシ「確かに今回の作戦はアーステラ人類にとって

     横暴に見えるかもしれない。・・・でも!」


リカンシは力強く振り返ると、改めてエスペラの面々を見返す。


リカンシ「救える人がいるなら救おう!

     それが人類側にとって蛮行に取られても!

     僕達が救うのは、この惑星の権力者ではない!

   住民同士の争いが起こらないよう、

   僕達は悪役になりきるよ!」

 

エスペラ隊員「「はい!」」 エジ「おうよ!」 マンチ「はーい」 

ラグドーラ「有無」 セルカーク「にゃ!」


 エスペラの皆が一致団結したようにリカンシの言葉に返事を返す。

 皆に少しだけ雲がかっていた雰囲気が消し飛ぶと、雲の合間から明るい日差しがさしたように皆の瞳に光が灯るのだった。


リカンシ「うん。みんなで頑張ろう」


 リカンシは再び頷いた後、エジに顔を合わせる。


リカンシ「それじゃ〜、エジ副官。プランBについて改めて説明を」


 リカンシの声にエジは広角を緩めると、任せろと言わんばかりに頷く。


エジ「おう。リカンシ艦長が言ったように

   「プランB」で救出者する者の選定条件は

    なにもこの惑星の権力者じゃねー!」


 エジは大型モニターに自身の指を翳すとを再びモニターが点灯する。


エジ「人格や特異性も重要だが、環境適応の側面や繁殖。

   言わば他種族との共存の可能性を視野に入れて

  各々が選定してほしい!!」


エジは大声で皆に説明すると、皆が一斉に頷く。


エジ「わかってると思うが、選別者の調査は

   各々でするが、合格基準を満たせるのは

 半数以上の隊員の同意が必要になる!

 いいな!!」


 エジの発言に皆が頷く中、マンチは机に肘をつきながら

右手を上げると口を開いた。


マンチ「あのー。それで何ですけどぉー」


エジ「なんだぁ! マンチ!」


 エジは発言の途中で割り込んできたマンチに顔を合わせる。


マンチ「いやいや。あいつって結局どうなるんです?

    マンチわかんないんですけど…」


 マンチはエジを見ながら首を左右に降った後に、大きく傾ける。なにか納得がいかないのか、しきりに資料を見つめながらエジに問いかけるのだった。

 エジもマンチの発言ですぐにマンチが誰のことを言っているのか理解したのか静かに頷くと、両手を顔の前で合わせ瞳を閉じた。


エジ「あ、あぁ…アビー。アビシニアの記録に残っていた

   メインクを破壊した男・・・」


 エジは閉じていた目を大きく開くと、マンチに顔を合わせる。


エジ「ウーガー・S・ラブレスの件だな」


 マンチはエジの発言に満面の笑みで何度も頷く。


マンチ「うへへへ。そうです、そうです」


 マンチは笑い声を上げた後にウーガーと呼ばれた男の資料を

皆に見せるように掲げる。


マンチ「だってこいつアナリティクス3万あったんですよね?

    マンチ的には強ければいいんで、

  それだけで合格なんですけどー」


 マンチは資料にあるウーガーの顔を、強調するように

自身の手で何度も叩きながら発言する。


ラグドーラ「・・・確かに特異性という面では間違いはないな」


 ラグドーラはマンチの意見に瞳を閉じながら静かに頷く。


ヒマラ「でもね、少々危なくないかい? この男・・・」


 ヒマラは口元に手を添えると考え込むようにして資料を見つめる。資料を見る目をやや尖らせると改めてエジに顔を合わせた。


ヒマラ「こっちはもやられてるんだよ?」


 ヒマラの発言で再び場が凍るように静まり返る。

 ヒマラの意見に頷くもの。喜ぶもの。視線をうつむかせたもの。皆がそれぞれの反応をする中、エジは眉間に皺を寄せた多少不機嫌な顔つきになると注目しろと言わんばかりに両手を叩いて音を出す。パンっと乾いた音がなると皆がエジを注目するように見つめた。


エジ「ああー。こちらは二人も被害が出てる。

   俺も正直言うと、こいつをぶん殴りてー!」


 エジは胸の底にある思いを吐き出すように発言すると握った拳を机に叩きつける。苛立っているのが丸わかりの態度だが、エジは眉間に多数の皺を寄せた怒りの形相ながら奥歯を噛みしめると、事実を受け入れたように言葉を続けた。


エジ「だが! 俺らはアーステラの住人にとっては

   蛮族や侵略者に映る! コイツがやっていることは

  何も間違いじゃねーぇ!!」


 エジの意見に皆が何度も頷く。


エジ「お前らにも見てもらったメインクの

   残してくれた映像によれば

   むしろこいつは、この惑星の住人に

   嫌われながらも、何も見返りを求めずに

  人を助けている!!」


 エジは机を両手の掌で叩くと身を乗り出す。


エジ「助けた相手に物を投げつけられようが!」         

                               

エジ「罵詈雑言を浴びせられようが!」


エジ「感謝の言葉すら無い状況で、こいつは何も言わずに去っていっている!!」


エジは熱弁した後、多少切れた息を整えるように間を空けると、真剣な顔つきで皆を見渡す。

 皆がエジの意見に同意したように頷くとエジは真剣な顔つきで発言を続ける。


エジ「俺は正直こいつは捨てたもんじゃねーとも思ってる・・・」


 エジは何度も首を細かく上下させた後に、顔を横に向けると微笑んだ。


エジ「・・・普通できねーよ、大したやつだ」


 エジが横を向いて頷くと、スコティもコクンと一度頷く。


スコティ「エジ副官に同意します。

     余程高尚な精神が無いと自分を嫌悪するものを

    助けるなど、私はできないと思います」


キジサバ「「ですね。私達もそう思います」」


ラグドーラ「有無。アーステラの人類から見れば、普通なら救世主だな」


ヒマラ「英雄視されてもおかしくはないねー」


マンチ「マンチは強ければいいんでOKです」


???「にゃ」


突然今まで発言しなかった中性的な癖っ気の女性は動物のような

鳴き声を上げる。


エジ「お前もそう思うのかよ、セルカーク」


セルカーク「にゃ」


エジからセルカークと呼ばれた女性は動物のような泣き声を返すとコクコクと何度も頷く。


リカンシ「うん。僕もみんなと同じで、そう思うよ」


エジ「全員同意見かよ・・・こりゃー、ウーガーを保護対象にするしか・・・」

???「待って下さい!!!!」


皆の意見が一致し、エジがウーガーを保護対象に加えようとした瞬間だった。

エジの声をかき消すように女性の大きな声が部屋に響くと、皆が声がした方向を振り向く。振り向いた先にはよろめきながらも部屋の入り口の壁に手を添え自分の体を支える聡明そうな女性がこちらを見ていた。


エジ「・・・アビシニア」


エジは女性の名を呼ぶとすぐさま女性のそばに近寄り、体を横から支える。


エジ「無理すんな、アビー。お前はまだあいつにやられた怪我が・・・」

アビシニア「大丈夫です。それより…」


アビシニアはエジに支えながらも体を起こすと皆を見渡した後、エジにしがみつくようにして話し掛ける。


アビシニア「あいつ。…ウーガーを保護対象にするっていう話は本当なんですか?!」


エジ「・・・ああ、そうだが」


 エジはアビシニアの問いかけに首を立てに降る。

 エジが首を立てに降ったのを確認したアビシニアは大きく開いた目でエジを見つめる。


エジ「お前もしかして部屋のモニターで・・・」

アビシニア「ええ。拝見していました! だからここへ来たんです!!」


 アビシニアは聡明そうな顔を歪ませるとエジに多少怒気を混ぜた声で返答する。

 エジもアビシニアの表情を察すると、アビシニアの腰先に回す手を緩めてしまう。


アビシニア「私にも発言させて下さい!!」


 アビシニアはエジを押しのけるようにして前に出る。


アビシニア「あいつは・・・」


 アビシニアは俯いた顔を震えさせる。そして、怒りに震えるように奥歯を噛み締めた後、勢いよく顔を上げる。


アビシニア「あいつ! ウーガー・S・ラブレスは英雄などでは断じてありません!!!!」  


エスペラ「・・・・・・・」


 アビシニアの大きく断言した一言に皆が注目する。

 アビシニアの事をよく知るエスペラの面々は、珍しく激昂しているアビシニアの表情を察し黙り込むと、ただただ意外過ぎる出来事に時が止まったようにアビシニアを見つめる事しかできなかった。


アビシニア「私に起こった出来事を、断片的な映像記録とともに説明します」


アビシニアは一枚のカード状のものを上着の胸ポケットから取り出すと          

皆に見せるのだった。

                                          




 

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