いいわけにはならない

高久高久

浮気現場の遭遇

 この日は本来、家に帰る日ではありませんでした。出張だったんですが、偶々仕事がスムーズに終わり、予定よりも早く帰る事が出来たんです。

 妻にはその事は言いませんでした。ここ最近、出張が多くて寂しい思いをさせていたと思い、ちょっとしたサプライズを、と思ったんです。

 家に着いたのは夜暗くなってから。夕方にはこっちに着いていました。帰り道、妻の好きなケーキを土産に買って、驚かそうと思って。

 鍵を音を立てない様に開けて、玄関でまず違和感はありました。俺の物ではない、靴があったんです。

 音を立てない様にそっとリビングを見ましたが、誰もいません。耳を澄ますと、寝室から音が聞こえました。

 開けると、妻はいました。ベッドで、知らない男と。2人共裸でした。

 あの時の妻の驚いた顔は今でも覚えています。「なんで」「どうして」って。そんなの、こっちのセリフですよ。

 とりあえず、私は2人から話を聞く事にしました。男は何故か不貞腐れた様な感じでしたね。

 妻の言い分としては「寂しかった」とか「今回が初めて」とか。まぁありきたりな言い訳でした。私の出張が多くて寂しくてつい――という。出張が多くなったのも、この家のローンの為なんですがね。

 男の方は酷いもんでしたよ。「この人の気持ちを考えた事があるのか」って。私が悪者にされていました。人の妻に手を出しておいて「俺は悪くない」ですからね。あの男の言い分は「出されるお前が悪い」という責める言葉でした。

 私が寂しい思いをさせた。だから私が悪い。それが2人の浮気の言い訳でした。


「そうか」


 私の話を聞いていた警察の人は、そう言って頷いた。

 

「でもね、だからと言って――人を殺して良い理由わけにはならないんだよ?」


 警察の人に言われて、私は振り返る。

 そこには、妻と男の死体があった。包丁で、私が刺殺した2人。


「言い訳はしません」


 私が言えたのは、それくらいだった。

 

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いいわけにはならない 高久高久 @takaku13

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