言い訳にすらなっていない
白鷺雨月
第1話言い訳にすらなっていない
今日は仕事で遅くなるから夕飯はいらない。
夫の
私は知っている。
これは嘘だ。
以前興味本位で夫のスマートフォンを見るとそこには見知らぬ女性とのやりとりが山のようになされていた。
そう、夫は浮気をしている。
こんなLINEなんか言い訳にすらならないのに。
ひどいときなんか仕事で会社に泊まったといっていたのに夫の髪からは女性が使うような花のようなシャンプーの香りがした。
なにそれ、本当に言い訳にすらなっていない。
でも、私は彼とは別れられない。だって彼は顔が良いのだ。もう四十を過ぎているのに顔にはシワひとつなく、体もひきしまっている。たまに思いだしたかのように夜をともにするがその感覚はどれにも代えがたいものだった。それに高校生になる男の子と中学生になる女の子の二人の子供がいるし。
「パパ、今日も遅いのね。どうせ浮気でもしてるのでしょ」
晩御飯のカレーを食べなから娘の
息子の
佑馬は誰にも似ていない。
私や夫の翔馬とも似ていない。
彼は晩御飯を食べるとすぐに部屋に行き、ゲームをしたりアニメを見たりしたりしている。
「あいつはネクラなやつだな」
自分の息子にたいして夫はひどいことを言う。たしかにもとバスケ部の彼の息子とは思えないけど、自分の子にそんないいかたはないじゃないかと思った。
そう言えば高校生のときに同じような男の子に告白されてふった記憶がある。もうそのときには翔馬とつきあっていたし、その子はなんというかちょっと気持ち悪かった。
休み時間はずっと一人でノートに絵を描いていて、それを見てニヤニヤと笑っていた。
何気なくそれを見たことがあるが、現実ではあり得ないほどの胸が大きい女の子のイラストだった。
きっと現実じゃあ女の子にもてないからイラストで満足してるのよと友人は言っていた。
その日も夫は出張で家にはいない。これも言い訳だろう。きっとあのLINEの女のところにいるんだ。
テレビのニュースではとある漫画家が女子アナウンサーにインタビューされていた。
「今回の映画記録的なヒットですが、どのようなお気持ちですか?」
キラキラしたかわいい女子アナウンサーがきく。
「ええこれもアニメ化に尽力してくださったスタッフの方々のおかげですね」
微笑みながらその漫画家は言う。
この人知っている。私が二十年以上前にふったあいつだ。
わたしが気持ち悪いといってふったあの男の子は、今や売れっ子漫画家となり、その漫画はアニメにもなっている。そのアニメの映画は記録的なヒットとなっている。
「この人すごいよ。僕もこの人みたいになりたい」
佑馬がテレビの画面を熱い視線をおくり、見ている。そんな目を夫の翔馬に向けたことはない。
はーあの時ふっていなければ。
高校生のときは翔馬のほうがいいと思ったんだけど。あんな言い訳男とは思わなかったわ。なんて私も言い訳にもならないことを思ってしまった。
言い訳にすらなっていない 白鷺雨月 @sirasagiugethu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます