第3話 倖がかわいいわけ

 ゆきはかわいい。

 倖は、濃いめの色で肌を塗り、中途半端に黄色く髪を染めている。体もそんなに小さくはない。遠くから見れば、ちょっとギャルっぽいけれど、頼りになる、自立した若い女性、って感じだ。

 また、ウェブデザイナーの仕事を無事にこなせているのだから、事実としても、頼りになる自立した若い女性なんだろう。

 たまに、いや、ときどき、仕様書をなくしたり、デザイン原案を送ってもらっているのに気がつかなかったり、ということがある。でも、それでも仕事を続けていられる、というのは、やっぱり実力だろうと思う。

 しかし。

 「ウェブでばりばり仕事をする実力派の若手女性」というイメージを仮定して、そこから倖を見ると。

 かわいい。

 異様にかわいい!

 想像しただけで口もとがゆるんでしまうくらいに、かわいい……。

 まずドジっ子という属性だけでかわいい。

 同じ居間のなかで、PCの置いてあるところまで走ってもたいして時間の節約にならないのに、バタバタと走るとか、そういういっしょうけんめいさがかわいい。

 そして、そうやって走るときのデニムのズボンのお尻の線……。

 肩も、なで肩でなく、肩に関節のボールがきっちりついてるな、と感じさせてくれる、しっかりした肩の線をもっている。

 そして、ポロシャツを着たときも、セーターを着たときも、首の下のところは開け放っていて、肌を見せている。そこも何か塗っているらしいのだけど。

 これで、冬にはどうするつもりだろう?

 だめだ。

 倖のことを考え続けるのが怖い。倖のどこがかわいいかを考えるのが怖い。

 こんなにかわいい倖をいますぐ自分のものにしないなんて考えられない!

 そう思ってしまうのが怖い。

 冷蔵庫から缶チューハイでも持って来て飲んで、適度に考えを麻痺まひさせなければ、と思う。

 でも、何か飲むなら、下で倖といっしょに飲むほうがいい。倖が声をかけてくるまで待っているほうがいい。

 倖は、さっき電話で頼まれた仕事が終わったら、声をかけてくれるだろう。

 少なくとも、夕飯は作らなければいけない。

 肉とサラダの材料は買ってある。そういえば、倖は、ピーマンの入ったコンソメスープという、ぼくから見れば、いや、味わえば、奇妙なものが好きなのだった。

 ピーマンはたしか唐辛子とうがらしの一種だったはず。ということは、唐辛子的なピリ辛の入った洋物スープが好き、ということなんだろうか?

 いや。

 やっぱり、何かで頭を冷やすか、頭を適度に働かなくさせなければ……。

 そこに電話がかかってきた。

 倖だろうか?

 取り出したスマホの画面を確認する。

 違った。

 父親だった。

 そういえば、次の週末は帰省することにしていたのだ。

 どうしても倖に考えが吸い寄せられていく。それを止めるには親と話すのも悪くないだろう。

 ぼくは電話に出た。

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