井岩家の食卓

広川朔二

井岩家の食卓

 井岩家、会社員の父と母、大学生の姉、高校生の俺、愛犬の四人と一匹家族だ。埼玉県のギリギリ都心に通える場所の戸建てに住み家族仲は悪くない。これはそんな我が家の夕食時の一コマ。


「いい? こんな風に馬鹿なことやってSNSに投稿したりするんじゃないわよ」


「わかってるよ。大体こんな馬鹿はいつだって一定数いるものじゃん。今の時代の若者が特別馬鹿ってわけじゃないの」


 結構な頻度で報じられる迷惑動画。最近では逮捕者も出て騒動は過熱している。テレビのニュースを見た母が俺と姉に注意をする。


 いつもそうだ。何か事件が起きると大丈夫なのかと、毎回のように注意してくる。母に言いたい、今まで俺達が何か問題を起こしたことがあるか、と。そもそも常識的に考えて報道されている馬鹿共のやっていることの善悪なんて小学生でもわかる。


 善いわけがない。俺の周りの友人に聞いたって皆がそう言うだろう


 我が物顔で街を歩き、自分達中心に世界が回っていると勘違いしてる馬鹿共と品行方正に一般人をやっている俺を混同しないでほしいものだ。


 怪我の功名か、この騒ぎで馬鹿な投稿がSNSで表示されることも減った。被害に遭った企業には申し訳ないが馬鹿が淘汰されてありがたいとさえ思っている。


 言い訳のようにバズりたかっただとか言っているが、あんなのは承認欲求にも抗えない愚か者だと自分で宣言しているようなもの。


「いい加減にしてよね、お母さん。あたし達とこいつらを同レベルで考えないでよね」


「我々の時代にはSNSなんてなかったから父さんも母さんも心配なんだよ」


 けんか腰になる姉。これは面倒になる流れだな。空気を察した俺は食器を下げて自分の部屋にエスケープする。大体あんな馬鹿な投稿を身元が分かるような状態でアップするからいけないんだ。アカウントの二つや三つ用意するのが今の常識だ。さてと、裏アカウントで今日は何しようかな。

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井岩家の食卓 広川朔二 @sakuji_h

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