マリとマリン 2in1 祝

@tumarun

第1話 セルフ+1

 校舎と校舎の間にある中庭のベンチに翔は座っていた。急に講義が休みになってしまった。いきなりだったんで予定もなくベンチに座っている。

 翔は鞄から大手通販の茶色のパッケージを出す。しばらく前にプレゼントのつもりで頼んだ本なのだが出版が遅れたため進学で1人大学に来た翔は自宅での受け取りができなかった。

 気を利かせて家人が翔の下宿先へ送ってくれたのだが送る相手はこの世にはいない。読んでもらうことも、いっしょに空へ送ることも、地に帰すこともできなかった。


「遅れたなんて、いいわけになるかなぁ」


 パッケージから出してみると黄色のカラーで装丁された、手のひらサイズの本だ。それを眺めていると、


「みーつけたぁ」 


 いきなり腕に顔を抱えられる。ブラウスの袖越しではあるが甘い香りが翔の頭を包んでいった。


「茉琳か?」

「だよー。翔、こんなところでどーしたのー?」


 ブリーチをして黄色に染めた長い髪。手入れが良くないのか髪がよれていたりする。毛の伸びきわの黒髪カラメルも増えてきている。どことなくピントのズレた表情をしている。


「講義が休みになって休憩してる。茉琳はどうして? 講義は?」

「サボリぃ。ケーキ屋さん行ってたの、すぐ売り切れるから朝早く行かないとダメだしー」


 確かに茉琳はケーキ屋のPOPが印刷された紙袋を握っている。甘い香りはその袋からだった。

 茉琳は頭を翔の肩に載せ、覗き込んできた。


「何を持ってるのー。本かなあ」 


 (その本は、この前の雑貨本屋で探してたの)


「そうだ、茉琳。この本あげるよ」

「えっ、ほんと。この本、ポエムなんだけど、作者はお気になの、ありがとう。翔」

「茉琳がポエム!」(茉琳がポエム?)

「なんか変〜って見てるシー、しつれぇーな」

「ごめん、ごめん。以外というか、茉琳も乙女だね」

「そうなのよぉ〜、でもなんでわかったの? 今日は茉琳の誕生日だって。これプレゼントだしー」

「えっ、誕生日?」

「そっ、今日は茉琳の誕生日なんです。ドンドンドン バブゥ パフぅ」

 

 (私も誕生日)


「驚いた、俺の知り合いも誕生日だったんだ」

「みんなでお祝いしおーよ。ケーキも買ってきたしチーズケーキん! おいし〜よ」


 茉琳は袋を開いて、中身を椅子の上に置いていく。


「なんで3個あるのかな」

「わたしがひとつでしょ。翔がひとつ。あれえ、そう私がひとつなのね」


 (私の分か、ありがとうね茉琳)


「二つも食べると、お腹ポッコリだよ、茉琳」

「ひどいなしー、明日からダイエットするー」

「ダイエットを失敗する人の常套句だけど」


 茉琳は両手で口を塞いだ。


「まぁ、今日は目を瞑りましょう」


茉琳は両手を万歳させて喜んだ。そして翔の頭を白分のタワワな胸に埋もれさせた。


(ごらぁ茉琳! けしからん胸、押し付けるなぁ、翔を誘惑するんじゃないよぅ)



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