Day 6.
第13話
翌朝、早朝ともいえる早い時間にケイトは出発の準備をしていた。
「結局包帯はやめたんか。それはそれでつまらん」
悪魔が面白くなさそうに言った。
「うん、あの格好をしていてもお前がいつも手を貸してくれるわけではないみたいだから。目的地に着くまでに変質者として捕まるわけにもいかないし」
眠たそうにあくびをして、西江がリビングに来た。
「おはよう、西江」
「ふぁ~~あ。はよー」
目をこすりながら、西江はてきぱきと朝食の準備をする。西江はその生活に慣れているようだった。
「それで、今日はどこに行くんだ? つーか、朝早いなら言ってくれても良くね?」
愚痴と共に、当然のように西江は行き先をケイトに尋ねる。
「秘密だよ」
「何で」
「危ないことに巻き込めないから」
そういうと西江は思い切り顔をしかめた。ケイトはそれに知らぬふりをして、西江に残った画用紙を押し付けた。
「それに西江には残りのポスターを片付けてもらわないと。いよいよ明日は学園祭だからね。この量なら、一人でも終わるでしょ?」
西江は言いづらそうにしていたが、口を開いた。申し訳なさそうに彼は目を伏せている。
「悪い。ケイトが正しかったんだ、俺も本当は、心の底ではそう思ってた。学校から通知が来てたろ? もしかしたらなんてない、確実に学園祭は開催されない。だからこんなことに意味は――」
ない。
そう続けられるはずだった言葉は遮られた。
「やめろ!」
普段は大人しい友人が声を荒げる様子に、西江は顔を上げた。
「……やめてよ。そんな言葉は、聞きたくない」
僕はあの時、君の前向きな発言に救われたっていうのに。
その君自身がそれを否定するのか。
まるで裏切られた気がする。
「学園祭など、主が望めばどうとでもなるじゃろ」
唐突に悪魔がとんでもない事を言い出した。ケイトも西江も訳が分からず首を傾げた。
「どういうことすか悪魔さん」
「簡単なことじゃ、妾にはできないことでも、もっと力の強い悪魔ならば話は別。つまり、梢に頼めばいい」
「梢に? でも梢は悪魔じゃ――」
「まだ分からんか。あの鉄鎧も言っておったじゃろう? 梢は悪魔じゃ」
クッションにもたれながら、その断定した言い方に腹が立つ。一体あの悪魔が梢の何を知っているというのか。会ったこともないくせに!
「梢は悪魔じゃない。お前みたいに角もないし、鎧を付けてたりもしない。高校だって通ってる。高校に通えるってことは、多分中学校も小学校も通ってて、戸籍があるってことだ。それに姉の春だっているじゃないか。悪魔に兄弟なんてないだろ。だから、梢が悪魔なわけない」
そうだ梢が悪魔なら、おかしい所がこんなにあるんだ。
「悪魔も、僕に嘘を吐くならもういい」
「主……?」
「今までありがとう。後は僕一人でやるよ」
ケイトは一人で西江の家を出た。
出たはずだったのだが。
「待てっ! 俺も行く!!」
玄関が大きく開け放たれて、西江が飛び出してきた。
「一人で行くって言ったよね?」
時間がもったいない。ケイトは歩きながら西江を説得することにした。
「分かったとは言ってねぇけど?」
屁理屈に思わずため息が漏れる。
「西江、今度は悪魔との戦いじゃないんだ。僕はこの復讐の完遂のために今日、人を殺そうと思ってる。安全か危険かだけじゃない、僕と一緒にいるだけで西江に被害が及ぶんだ」
「今更巻き込みたくねぇとか言うなよ! 俺はもう、ケイトと学校で悪魔に襲われた時から巻き込まれてると思ってたぜ」
いつも気を使ってばっかりで本音は言わない。ケイトは西江をそんな奴だと思っていた。だがどうだ今日の西江は、普段とまるで違う。
ケイトの説得はまるで効かず、とうとう駅前までたどり着いてしまった。たとえケイトが何を言ったところで西江はついてくるのだろう。駅前までの時間はケイトにそれを思い知らせるには十分だった。
「分かったよ。西江、ついてくればいい。でも敷地内はだめだ。不法侵入になるから」
「それでいいぜ。でもお前が戻ってくるまで俺は入り口で待ってるからな」
「絶対だよ」
ケイトは更に念を押してから改札を通った。西江も揚々とそれに続いた。
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