Day 5.
第11話
翌朝、随分と遅い時間に起きて、朝食を食べて顔を洗う。学校から休校の連絡はとうに来ていた。
学園祭もきっと中止だろう。ケイトはそう思っていたが、西江は違った。学校が休みだということは、朝からポスター作りを再開できる。そう意気込んでいた。
ケイトはそんな西江の明るさに救われていた。
でも、だからこそケイトは西江をこれ以上
昼食を買いに昼はコンビニへ行った。手頃な弁当を選んで、レジに並ぶ。
「袋要らないです」
支払いを済ませドラッグストアのビニール袋に昼食を押し込んでから、ケイトはコンビニを出た。
出口の近くで西江はケイトを待っていた。太陽は眩しく、日光をさえぎる雲はない。快晴だった。
だがそこに再び途轍もない勢いで迫る何かがあった。昨日の夕方と似たような光景だ。サイズは今回の方が大分小さいが、ケイトの対応は慣れたものだった。
迷わずケイトはその何かを包帯を巻いた右手で受け止める。数秒後、ケイトの手の中には銃弾のような金属の欠片が握られていた。
金属片の飛んできた先に目を凝らすと、昨日逃した悪魔が浮遊していた。
「✞地に
だが真っ逆さまに墜落すると思われた悪魔は依然としてそのままだ。
近くにいた子供がケイトを指さす。
「ねぇあの人何やってるの?」
その隣の母親らしき人物がそっと子供の手を引いた。
「関わっちゃ駄目よ」
ケイトは後ろを振り返った。
「悪魔、どうして!」
「気分が乗らん、雰囲気がない」
背後からぬっと悪魔が現れた。
「は?」
「当たり前じゃろう!『袋要らないです』の後にそれらしいことを言ってもカッコイイわけあるか。妾の力を借りたいなら普段から言い回しを気をつけることじゃ」
「理不尽過ぎる……!」
上空の悪魔の周囲にキラキラと金属の欠片が舞う。今度は複数だ。
ケイトはコンビニを遮蔽物に隠れる。機関銃の様な爆音がして、建物はあっという間に穴だらけになった。その場にいた人々から悲鳴が上がり、瞬く間に人が去っていった。
鉄鎧の悪魔は未だ空に漂っている。このまま降りてこないつもりらしかった。
「✞地に
もう一度、呪文を繰り返す。
「仕方がない、そろそろ手を貸してやろう。だが始めからの力を借りたいのなら……ゆめゆめ忘れるではないぞ」
「分かってる」
「ならば良い」
泰然と浮遊していた鉄鎧の悪魔はいとも簡単に落ちた。鉄鎧の悪魔は落ちた先の交差点で、何倍もの重力に縛り付けられて動けないようだった。
それでも走りよるケイトを見咎めると、自らの身体の体表と言うべき部分を細かく砕き、それをケイトへ放った。
「✞反転しろ、
その一言で、即席の銃弾は全て跳ね返り、鉄鎧の悪魔を襲った。そこにはまるでケイトと鉄鎧の悪魔の間に見えない盾がある様だ。
ケイトは難なく鉄鎧の悪魔に近づいて見せる。
「✞空間を隔絶しろ、
疾風が吹いて、ケイトと鉄鎧の悪魔を囲う形で4枚の板が現れる。その板は深夜の夜空のような濃い青色で、この世界に存在しない物質だと証明しているようだった。
「ケイト!」
西江が駆け寄るより早く、4枚の板は隙間なく接合して行く手を遮る。正方形の天井が現れ、地面から6枚目の板がせりあがってケイトと鉄鎧の悪魔を完全に封じ込めた。
内側からの音や衝撃は何一つ外に伝わらない。西江は沈黙している立方体の前でひたすらにケイトを待った。
立方体の内側では鉄鎧の悪魔とケイトが対峙していた。とはいえ鉄鎧の悪魔は身動きを取れない状態なので、勝敗はほぼ決したと言っていいだろう。
「上手くいって良かった、これでこの部屋には僕とお前しかいない」
「妾もいるぞ」
角をつけた悪魔がひょっこりと現れた。
「この部屋には僕とお前とこの悪魔しかいない」
「以前のような逃亡を許さないつもりですカ」
「もちろんそれもあるよ」
西江に言った通り僕はこの悪魔の力を借りているだけ。僕自身がすごいわけじゃない。それなのに、十分に復讐を完遂するための贅沢すぎる力を貰ったのに、僕は目の前の手がかりを逃した。
僕のせいだ。
僕がこの力にかまけて使いこなそうとする努力が足りていなかったんだ。
それから、覚悟も足りていなかった。
口では何でもすると言いながら、結局僕は甘い考えを持っていた。漠然と復讐相手以外は殺したくない、傷つけたくないと思っていたんだ。本当に復讐を果たしたいなら積極的に手を汚すべきだった。
「でも一番はこれからすることを西江に知られたくないからかな」
「おお、主も友人の前で妾の力を借りるのは恥ずかしいか!」
「そういう意味じゃないよ」
僕は西江と過ごす時間が好きだ。施設の皆と暮らしていた時みたいに、とても暖かい居場所だと思う。だから、そこが壊れてほしくはない。
西江はちょっとしたことで僕を心配するから、僕のこんな姿を見せたらあっという間にこの関係は崩れてしまうだろう。そればかりではない、西江に復讐を止められるかもしれない。そうなれば本当に困る。僕は西江を傷つけてしまうかもしれないから。
だから決して西江には見せられない、知られてはいけない。
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