第9話
「宇良川ケイト、直ちに所持する悪魔を差し出しなサイ」
機械のような声で、彼女はケイトに迫った。
悪魔を知っている異形ということはつまり……。
「悪魔か!?」
「あ、悪魔……? なんだそれ」
隣の西江が茫然と呟く。
鉄鎧の異形はケイトの質問に肯定し、先ほどの言葉を繰り返した。
「その通りデス。宇良川ケイト、悪魔の私的利用は重罪デス。直ちに所持する悪魔を差し出しなサイ」
僕が悪魔と契約したことを知っているんだ、もしかしたら梢と春の失踪とこの悪魔は無関係ではないのかもしれない。
ケイトはダメ元で悪魔に声をかける。
「このクラスの紫園梢と春を知らないか。梢は僕と同じくらい背丈で茶髪で短髪の子。春はちょっと背が低くて、茶色いストレートの子。一昨日から行方不明なんだ」
「茶髪ノ、貴方に似た高校男児の格好をした悪魔ならバ、一昨日捕縛しまシタ。質問は以上デスカ。直ちに所持する悪魔を差し出しなサイ」
悪魔だって……梢が悪魔なわけない。だって高校に入学してからずっと一緒に登校してきたじゃないか。一緒に授業だって受けてきた。
色々なことがあった。あったはずだ。そうだ、初めて会ったのはきっと入学式の時で、そのとき梢は……梢は………………。何をしていたんだ? どうして何一つ思い出せないんだよ!
「でも、それでも、梢は悪魔なんかじゃない!」
ケイトはまるで絶叫のように叫んで、眼前の悪魔を睨んだ。
「貴方が認めても認めなくトモ、どちらでもよいことデス。宇良川ケイト、直ちに所持する悪魔を差し出しなサイ」
「差し出さなかったら?」
「貴方ヲ、排除しマス」
鉄鎧の悪魔は部位としては右腕というべき鉄の塊を持ち上げ、ケイトに襲い掛かった。
「✞悪魔を吹き飛ばせ、
ケイトがそういった途端、強烈な風が吹いて鉄鎧の悪魔は教室に風穴をもう一つ開けて、外に吹き飛ばされていった。
分からないことだらけで、隣で目を回していた西江は、ぽかんと口を開いたまま固まっていた。そんなおかしな光景が広がる教室で、長い黒髪をそよがせながら角の生えた悪魔はゆっくりと降り立った。
「今回のはなかなか良かったぞ。勉強の甲斐があったなぁ」
「何もないところから、人、人? が……」
西江は彼女の出現でますます混乱している。
「悪い、後で説明する」
「お、おう。頼むぜ…………」
西江はケイトの言葉で留飲を下げることにしたらしい。神妙な顔で頷いた。
「悪魔、あいつから春と梢の情報を聞き出したいんだけど、できそう?」
「それは主次第じゃ。あの悪魔は急造りの粗悪品。妾は悪魔に効く自白剤のようなものは作れんが、この勝負に勝利することは容易いだろうよ」
「分かった」
悪魔にも出来の違いがあるのか? 気になる発言だったが今は目先のことに注目しなくては。何をしてでもあいつに春と梢の居場所を吐かせてみせる。
硬いもの同士がぶつかり合う音がして、南の窓を見れば鉄鎧の悪魔が戻って来ていた。
逃がさないように、殺さないように、慎重に。
「✞悪魔を捕らえろ、
壊れた壁から飛び出していた鉄の棒が、鉄鎧の悪魔に巻き付こうと伸びる。だがそれより早く鉄鎧の悪魔がケイトに接近する。鉄鎧の悪魔はその塊状の右手を鋭い剣のように変形させ、ケイトの首を掻き切ろうとした。
とっさにその攻撃を防ぐ何かを言おうと口を開くが何も出てこない。もはや今からでは何を言ったところで間に合わないだろう。ケイトが唱え終わるよりも、その鉄剣がケイトの喉を切り裂く方が速いと誰もが分かった。
悪魔は、助けてはくれないだろうな。そういう性格だ。
ケイトは悪あがきで右手を前に出した。こんなことをしても、どうにもならないというのはケイト自身も分かってはいた。同じ悪魔仲間に粗悪品だと言われていても、悪魔は悪魔だ。ただの何も鍛えていない人間が勝てる相手とは思わない。
右手を投げやりに出した直後、ケイトは後悔した。
慌ててつい利き手を出してしまったが、こちらの手は怪我をしていたのだ。あまりにも痛そうな衝突に、ケイトは思わず目を閉じた。
きつく包帯を巻かれた右手に衝撃が走る。ケイトが出した右手は鉄鎧の悪魔の腹部に食い込み、そのままケイトが振り切る形で床に叩きつけたのだ。
鉄鎧の悪魔が叩きつけられた部分は大きなクレーターができていた。
「これが僕の真の力……?」
「主にそんな力ないから安心せい」
ケイトは鉄鎧の悪魔に近づき、しゃがみこんだ。
「✞出でよ、万物を切り裂く
「万物は切れんがなぁ」
背後で浮遊する悪魔から注釈が入る。
ケイトの右手にはいつの間にか黒く輝く禍々しいナイフが握られていた。それを鉄鎧の悪魔の首に押し付ける。
「僕の質問に正直に答えろ、答えない場合は殺す」
「梢の居場所は? お前の契約者はどこにいる」
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