Day 4.
第8話
朝、電車に乗って学校に向かう。昨夜こっそり新しい施設に戻ったケイトだったが、抜け出していたのはバレていたらしい。職員に見つかって1時間こってり怒られた。
ケイトは朝日が差し込む電車で盛大に欠伸をする。
そして悪魔だが……実はついて来ている。
どうやら自分を透明にする方法を覚えたらしい。暇だとケイトにごねた結果がこれだ。
風が吹いたわけでもないのにケイトの前髪が一筋逆立ち、アホ毛の様に揺れる。周囲の乗客はぎょっとした目でケイトを見ていた。
「あんまり遊ばないでよ」
誰にも聞こえないように、小声で悪魔にくぎを刺す。効果はないようだった。
駅から降りて20分、歩き続けてようやく学校に到着だ。
蝉時雨が聞こえる昇降口で上履きに履き替える。
学校へは随分と遠くなってしまった。いつもならここで春と別れるけど、それもない。
日常だったものが一気に崩れ落ちてしまった感覚にケイトは胸が苦しくなった。
教室には既にちらほらと生徒が集まっていた。一つの机に集まって雑談をする者たちや、学園祭の準備に追われて必死にポスターやらを作っている者、そこの西江のような。
「まだ終わってなかったの?」
ケイトは西江に呆れた顔をする。
「だってよー、梢が全部やってくれると思ったんだよ」
普通音信不通になると思わねぇだろ? 西江は不貞腐れていた。
「そうだとしても少しは自分でもやるべきだったよ」
「もう少し早く言ってくんねぇ? どんだけ急いでも終わんねぇな、この量」
西江は隣に山と積まれている画用紙を見やった。
「……僕も手伝うよ」
ケイトはため息をついた。
学年一の優等生。
それが周囲のケイトへの印象だった。
だが今はどうだろうか。無謀にも焼けた家屋に突っ込み、無遅刻無欠席は崩れた。授業中は豪快に寝顔を晒すか、教科書を読んでいるふりをして、痛々しい漫画や小説を読んでいる。学校に魔法陣なるものを持ち込んだのも記憶に新しい。
もはや、学年一の優等生は見る影もなかった。
学校一の厨二病患者。
それが周囲の今のケイトへの印象だ。
今日も6時間の授業をこなした。春と梢は最後まで学校に来なかった。
放課後、約束通りケイトは西江を手伝った。
「それで、今どこまで終わってるの?」
「ポスター3枚くらい?」
呆れて物も言えないとはこのことだろうか。ケイトは2度目のため息をついた。
これは本当に終わらないかもしれない。学園祭まで、復讐を進めることはできないだろう。そもそも何かあると思っていた春と梢の家に、犯人へ繋がる手がかりは何一つなかったのだからそちらは正直手詰まりだ。偶然にでも手がかりが掴めるまで待つしかない。
ある意味、西江の残してくれた激務は僕にとって丁度良かったのかもしれない。何かしていないと、ただ待つだけというのは精神が参ってしまいそうだったから。
隣席の西江が下書きをして、ケイトがそれをペンでなぞる。西江は意外にも絵が上手い。やはり神経質な性格をしているのだ、彼は。
また西江が下書きをして、ケイトがそれをペンでなぞる。
サボろうとする西江をケイトが叱り、西江が下書きをして、ケイトがそれをペンでなぞる。
そしてサボろうとする西江をケイトが叱り、西江が下書きをして、またサボろうとする西江をケイトが叱りながらケイトがそれをペンでなぞる。
その流れ作業は上手くいっていた。時間を忘れて書く進めていくうちに、ホームルーム直後には青かった南の空はオレンジ色に染まっていた。
ケイトがふと空を見た時、明けの明星より明るい何かが凄まじい勢いでケイトたちの方に迫っていた。
ケイトがそれを確認してからたった瞬き一つで、コンクリートを破壊する轟音が響き渡っていた。
途轍もない土煙に包まれ、とっさに両目を覆っていた右手を恐る恐る下ろす。破壊された教室の中に、土埃の中心に、そこに錆びた鉄の鎧があった。それだけでも異常な光景だが、それだけではない。その全身の鎧の異形の右半分は、成形された金属が高温で熔けた後、一度冷やされたような歪な形をしていた。
そのためケイトはあの鉄の鎧の中に人が入っているとは考えられなかった。
しかしケイトの考えに反し、鉄鎧の異形はその不揃いな四肢を動かしケイトに近づいた。鉄鎧の異形が歩くたびに丈夫であるはずの教室の床が揺れた。まるで地震のようだ。
そして、それは声を発したのだ。
「宇良川ケイト、直ちに所持する悪魔を差し出しなサイ」
機械的な声で、彼女はケイトに迫る。
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