Day 3.
第6話
ケイトが病院に運び込まれてから2日が経った。看護師の話では今日にも退院できるらしい。ただ右腕はやけどの跡がひどいので、退院しても包帯はしばらく取らない方が良いそうだ。
朝食を取って、その後は医者と役所の人と話した。ケイトが暮らしていた児童養護施設が焼け落ちてしまった以上、別の私設に入所する必要が出てくる。また、それに応じて学校をどうするのかだ。
結論から言うと、ケイトはここからなるべく近い児童養護施設に入所できることになった。学校も、ケイトの要望通り今までの場所に通わせてもらえるようだった。
いつもは大人しいケイトがごねにごねて得た成果だ。
昼頃には退院して、車に乗り込む。本来ならば自分の荷物なども載せるのだろうが、ケイトの私物は全て灰になっているだろう。
車はすぐに走り出して、病院などあっという間に見えなくなった。
車が痛ましい容貌になった施設を通り過ぎる。
たとえ新しい環境になったとしても、皆のことを忘れないよ。必ず皆の恨みを果たして見せるから。
そう思いを込めながら施設を目に焼き付けた。決して忘れないように。
新しい施設の彼らに、どんな自己紹介をしたのか覚えていない。だが、きっと当たり障りのないことを言ったのだろう。様々な煩雑な作業をなあなあで済ませ、気づけばまたケイトは元の施設の前にまで戻って来ていた。
ここからどうすれば犯人の元までたどり着けるだろうか。
特にアイデアが思い浮かぶわけではなく、ケイトはふらふらと周囲を徘徊した。
悪魔だってあれから姿を見せていない。
ケイトはどうにもならない現状にひどく焦っていた。
何か、何かないか。犯人につながる糸口は。
それは突然ケイトの顔を覗き込んだ。真っ逆さまの目鼻口。長い黒髪が地面についていた。
悪魔が逆さに宙に浮いていた。
「やっと戻ってきたか。遅いわ!」
耳元で怒鳴らないでくれ、煩い。
「悪魔……ずっとここにいたのか」
「そうじゃ、付きまとっていた方がよかったか?」
「いや、ご配慮感謝するよ」
「そうじゃろう。妾はできる悪魔じゃからな!」
悪魔は満足げに頷く。
「それで? 主は言い回しの勉強をしてきたのか?」
「そんな時間なかったよ。それより、一つやってほしいことがあるんだけど」
「何じゃ、だがあの契約を忘れておらんだろうな?」
「もちろん、やってほしいことっていうのは、僕の探してる皆を殺した犯人を見つけ出してほしいんだ。できそう?」
「うーむ」
悪魔は体勢を元に戻すと、どこかに向かって手を伸ばした。目を閉じてしばらく待つ。彼女のその姿は儀式的で、神聖さを感じさせた。
やがて悪魔は目を開くと、ケイトの瞳を見、
「とりあえず何か言ってみよ」
と言った。
ケイトは深呼吸をする。羞恥心を捨ててこの悪魔がその気になるようなことを言わねば。
「✞悪魔よ、この事件の黒幕を見つけ出せ✞」
「微妙じゃ。まあ、できんのだがな」
「なんだったんだよこの時間は。……まあそんな気もしてたけど」
悪魔はケイトが気落ちしていないのを見て、不満気だ。
「もっと残念がれ、えー絶対できると思ってたのにー、とか言えんのか」
悪魔を軽くあしらいながらケイトは考える。
その時、ふと悪魔が言った。
「にしても主は悪魔の呼び方などどこで聞いたのか」
「え?」
「普通悪魔の呼び出し方など皆知らん。それを長年研究してきた一族や、まぐれで召喚してしまった者以外はな」
「そういうものなの?」
「では逆に、皆がホイホイと悪魔を呼び出せることができたらどうする? 皆の願いが叶えられて、あっという間に秩序は崩壊するじゃろうなぁ」
「そうなってないから、悪魔の召喚方法は今もほとんどの人は知らないってこと?」
「そういうことじゃ」
それならどうして春は悪魔の召喚方法を知っていたんだろう。もしかしたらそれが施設の火事と同時期に梢が姿を消したことと関係があるんじゃないか。
「梢と春の家に行こう」
ケイトはようやく施設とは逆方向に歩き出した。
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