第4話 独占欲(4)
「美鈴ぅ。本当にごめんね?すぐにパン買って来るから入り口のとこで待っててね?」
眉毛をハの字にした愛子にそう言われちゃ、私もそうしないわけにはいかない。まあ、親友の愛子のためだったら、購買に付き添うくらいなんてことないんだけどね。
「大丈夫だよ。ここで待ってるから早くパン買ってきなよ」
「すぐ戻って来るからっ」
そう言うと、愛子は人ごみの中に紛れて行った。愛子の後頭部があっという間に見えなくなるくらいの人だかりだ。その様子を見て「おお」と声に出してしまう。私じゃあの人波の中に身体を滑り込ませるなんてことはできない。
愛子があんなにも申し訳なさそうにした理由は、きっとそこにある。私の身長が低いからだ。お昼休みにパンを買う人で溢れた購買は、身長が低い私にとっては結構きつい。現に今も、そこから少し離れたところに立っているけれど、行列を成す人の群れが目の前まで溢れていて、どこに身を置こうかジタバタしている。
そうして大変な思いをしている最中ではあるけれど、それとは相反してうきうきする気持ちがあった。視線の先に、私の気持ちを跳ね上げる人が居る。
購買の前には中庭があり、そこでご飯を食べることができるようにベンチが数台並んでいる。そこはいつも三年生が独占している。その輪の中にいるのが、ちい兄ちゃんだ。友達と楽しそうに笑っているから、きっと私には気づいていない。
ちい兄ちゃんの輪の中には、綺麗な女の先輩もいる。ちい兄ちゃんの隣を陣取って、仲良しの特権を発動しているのが見て取れる。それはまるで「あの河原千晶と仲が良い私っていいでしょ」とでも言わんばかりだ。そうしてまざまざと見せつけられる。将来ちい兄ちゃんの隣に居るのは私じゃないんだ、と。
ちい兄ちゃん達の方をずっと見ていると、ちい兄ちゃんの隣に座っている女の先輩と目が合った。え、どうしよ。気まずいなあ……。まさかこのまま視線を逸らすわけにもいかないし。そんなことを考えていると、女の先輩が口を開いた。
「河原ぁ。あの子アンタの妹じゃない?超可愛いんだけど!」
ひぇ~!私の素性がバレてる!
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