第2話 独占欲(2)

「きゃーっ!河原くんだぁ!」

「河原先輩、今日もかっこいい!」

 

 学校へと到着するなり、黄色い声援がどこからともなく沸き立った。行き交う人がちい兄ちゃんへと視線を送る。185cmの背丈はとても目立つ。奥二重の切れ長の目に見つめられたら誰でもどきどきすると思うし、ワックスで上手に整えられた茶色の髪はちい兄ちゃんの綺麗な顔立ちを引き立たせている。

 

 イケメンオーラしかないちい兄ちゃんはモテる。これでもかってくらいモテる。だから私は、ちい兄ちゃんのファンが近寄って来ないように、一緒に通学することにしている。この時ばかりは、妹で良かったと思う。だって妹でもなかったら今頃はその他大勢の女子と一緒で、ちい兄ちゃんから見つけてもらえなかったでしょ?

 

 ちい兄ちゃんとは昇降口正面にある階段でバイバイして、自分の教室へと向かった。一日の中で一番寂しい瞬間である。もっと一緒にいたいよ。同じ教室で同じ授業を受けたいよ。……そんなのちい兄ちゃんが留年しない限り有り得ないんだけど。そして成績の良いちい兄ちゃんが留年なんてするわけがない。

 

 教室でのちい兄ちゃんってどんな感じなんだろうか。同じ教室に存在できる人たちが羨ましい。ちい兄ちゃんの全部が知りたい。学校でのちい兄ちゃんは、私には全然分からない。

 

 四階まで昇り、やっと一年の教室のあるフロアへと辿り着く。一年二組というプレートが掲げられた教室へと入ると、すでに登校してきているクラスメイトがちらほらと居た。

 

「美鈴おはよっ」

 

 そんな中で私のところへと駆け寄ってきたのは、崎山愛子さきやまあいこだ。愛子とは高校に入学してから知り合った。すぐに仲良くなったし、今ではなんでも話せる存在だ。

 

「おはよう愛子」

 

 愛子の顔を見ると、自然と笑顔になれる。

 

「なんなの。美鈴ってば今日もめっちゃ可愛いじゃん」

「愛子だって可愛いよ」

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