この恋を禁忌と呼ぶのなら【カクヨム版】

茂由 茂子

第1章 独占欲

第1話 独占欲(1)

 あなたさえ手に入れられるのなら他に何もいりません。この恋が間違っているなんて、自分でも分かっています。だけどどうしようもないくらいあなたが欲しいのです。あたしにあなたをください。私と一緒に堕ちてください。

 

 河原美鈴かわはらみすず十六歳。私には大好きで、大好きで死ぬほど手に入れたい人がいる。だけどこの恋は死んでも叶わない。でもそれでも好き。今は傍にいられるだけで幸せだと思える。だって今一番、あなたの傍に居るのは私だから。

 

 ねぇ、そうでしょう?みんなの知らないあなたを、一番知っているのは私でしょう?


「美鈴ー!支度、出来たかー?」

 

 この世で一番愛しい人が私を呼ぶ。それだけで心臓がどきりと跳ねる。自然と頬っぺたが上がって顔が緩んでしまうけれど、そんなことを微塵も感じさせない声を出さなければならない。

 

「待ってー!もうちょっと!」

 

 好きな人と一緒に学校に行くために、私は毎朝奮闘する。一秒でも多く一緒にいたいって思う気持ちは恋する乙女の常識でしょ?

 

「早くしろよー。遅刻するじゃんよ」

 

 せっかちなあなたはぶつくさと文句を垂れる。でも私は知ってる。それでも私を待っててくれるってこと。洗面台で制服の赤色のタータンチェックのリボンを整えてにいっと笑う。よし、今日も可愛い。リボンと同じ色のプリーツスカートを翻して廊下へと飛び出すと、玄関で待っていてくれる彼を見つけた。

 

 「待ってよ。ちい兄ちゃん」

 

 私の好きな人、河原千晶かわはらちあき。二つ年上の実の兄。絶対に欲しくても手に入らない人。でも私の一番近くにいる人。だから私は毎朝こうやって、妹の特権を濫用しまくる。

 

 だっていつかは毎日一緒にいられなくなる時がやってくる。こうやって一緒に学校に行くことだって、ちい兄ちゃんが高校卒業したら終わりだ。その時がやってくるまで、できるだけ一緒の時間を過ごしたいのだ。それに、私がちい兄ちゃんを独占するのには、もう一つ理由がある。

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