第18話 大天使ネレマの『変な話』⑩
「めいちゃん、どういうこと?」
私の言葉を代弁してくれるように春さんがそう、めいさんに質問した。
「どういうことも何も、…………ちょっと春だけこっちに来い」
なぜか私のことを数秒見つめて、めいさんが春さんのことを呼ぶと、春さんは素直に従ってめいさんの横まで歩いて行った。そして、私に背を向けてふたりだけでコソコソと何かを話し始めた。
「きっと乃瀬は、あのメイド服を着るのがそんなに好きじゃないんだ、だからわたしの所まで来て服を作って欲しいって言ったんだろ」
「うんうん」
「それならここで作らないなんて言ったら、乃瀬はどうすると思う?」
「そのまま帰るとか?」
「そうだ。それで本当に帰ったら明日からはメイド服以外の服を着る可能性があるわけだ」
「何の問題があるの、それの?」
「大ありだ。わたしは人の嫌がるような顔が見たいんだよ。だから服を作ってあげることにして、乃瀬が嫌がるものを探ろうとしたんだ。そうしたらもう見つかったぞ! 今日だけしか着るつもりがないメイド服だってよ。そんなこと言われたら毎日着せたくなるだろ。だから服が完成するまでの期間、メイド服を着ることを条件にすれば嫌がる顔が見れるわけだ」
「……? でも、めいちゃんはどうやって毎日着ていることを確認するの? ここから出たくないって言ってたし引きこもりだよね?」
「そうだよ、わたしは引きこもりだ。だから毎日メイド服でここに来てもらうんだよ」
「えー……めんどくさそ〜。それにメイド服を着るの嫌なんだったら、やっぱり作らなくていいって言って帰っちゃうかもしれないよ?」
「そんなことになったら、春がフォローでも入れて引き止めてくれ」
「お〜……そういうこと。うんうん、わかった!」
ふたりだけでコソコソ話しているのを、近くで聞き耳を立てながらも、意識の大半は別のことに割かれていた。
めいさんはさっき、完成までに何週間掛かるかもわからない服を待つ間、今私が着ているこのメイド服しか着ちゃダメと言っていた。
正直に言うなら、絶対に着たくない。
今日だけ我慢して着れば、新しい服を作ってくれるめいさんの元に行けるから着ただけ。
明日からはまたあの浴衣を着ればいいと思っていた。
なのに、服を作ってくれる条件はメイド服を毎日着るということだけだった。
これじゃ、本末転倒。
安易に答えるんじゃなかった。真帆も『弱点を見せると終わるよ』って言ってくれていたのに。
確かに今の私には、メイド服は弱点だ。
そんな弱点を易々と答えるなんて、阿呆としか言えない。
「お〜い、乃瀬ちゃ〜ん。またスカートの中入って覗いちゃうよ〜?」
なんで私はこんなにも次のことを考えられないんだろう。
……思えばあの村に住んでいた時から私はこんなだった。
「パンツ脱がしていいか?」
「さすがにそれはダメだよ、めいちゃん」
お父さんに認めてほしい思いだけで行動に移してしまい結末はあんなになって、私は今一人になってこんな場所にいる。
「なら、何を脱がしていいんだよ!」
「ブラのホックなら取ってもいいんじゃない?」
私は自分で起こした行動の結末を最初に考えることができない。
「お! それは名案だな」
「えっ! ほんとに外すの? 冗談で言ったつもりだったのに」
「ざんねーん、もう外したから。それにしてもこのくびれ凄いな」
「あたしにも触らせてよ。ほんとだー、生きてるときどんな生活してこのくびれを手に入れたんだろう」
そのせいで、結末はいつも容易に思いつく結果に至る。
「さぁな〜。わたしにはわかんないな。それにしてもスカートの中に頭を入れて服の中を覗くのは楽しいな。こういうの見ていると裸エプロンしている姿を想像しちゃうしな」
「そんなの普通想像しないよ。もしかしてめいちゃん、裸エプロン誰かにさせたことあるの?」
「そんなのあるに決まってるだろ。そいつには首輪とリードも付けてやったぞ。でもそいつなんか、Mに目覚めちゃったせいで、つまらなくなったけどな」
全て私の求めていない結末に――。
「え〜、誰のこと誰のこと?」
「知りたいか? 教えてやってもいいけど、誰かに言いふらすとそいつの妹に殺されると思うけど本当にいいのか」
「うん! いいよいいよ、教えて。あたし口は硬いから」
「ほんとか〜? まあいいか、どうせバレてもわたしにはまだ服を作れるという利用価値があるから、殺されるのは春だけだしな」
「こっわ〜い。でも教えて!」
「憂梨那だよ。この前珍しくクマのぬいぐるみを作って欲しいって言われたから、その条件としてバニーガールを着せて町中歩かせたけど、喜んでいてほんっとにつまらなかった。羞恥心とか無いのか、あいつは。ちなみに今は、二回りくらい小さいサイズの下着を頼まれたから作ってるんだけど、その条件は嫌がってくれたから嬉しすぎるんだよな」
「え! どんな格好させたの」
「今日、憂梨那と会ってるなら見てると思うぞ」
「そうなの? もしかして憂梨那ちゃんのビキニのこと?」
「そうそう着てただろ。あれわたしが完成するまで一日一回は着て外を出歩くことを条件にしたからな」
「その話がホントだったら真帆ちゃんの言っていたことは間違ってないんだ」
「真帆がなんか言ってたのか?」
「言ってたよ、こんな格好で外を歩かせてるめいは変態だって」
「――あの! なんか楽しんでいるところ悪いんですけど……なんでふたりして私のスカートの中に入ってるんですか。あと、中で何かが落ちてきている感じ、するんですけど」
私が嫌なことを思い出している間に、この人たちは何をしているの?
春さんは二回目だし、めいさんも私のスカートの中にいる……、もしかして真帆が言っていためいさんが変態ってことは本当なのかもしれない。
「スカートの中って落ち着くんだよ〜」
「わたしが自分で作った服なんだから、中からの眺めも確かめないとダメだろ……?」
二者二葉の理由を聞いたけど、全くと言っていいほど納得できる答えではない。
「スカートの中が落ち着くなら自分のスカートを頭から被っていてください。このメイド服をめいさんが作ったとしても、着ているのは私なので、中からの眺めなんて確かめないでください」
ふたりに言いたいことを捲し立てるように言うと、春さんが渋々スカートの中から出てきて、流れるようにめいさんの後ろに回り込んで、引っ張り出してくれた。
「ねぇねえ、めいちゃん」
「ん、どうした?」
「頭に被る用のスカートって作れない?」
え……、まさか春さん、私が言ったこと間に受けて……?
「作れなくはないとは思うが、そんなの被っているヤツが知り合いだったら縁を切りたくなるレベルで嫌だな。――あーでも頭にスカートを付けるなんて、ビジュアル的にも最悪だから、誰でも嫌がりそうだよな……」
「えー、さすがにめいちゃんに縁を切られちゃうのは悲しいなぁ」
最後のほうは、声が小さくてよく聞き取れなかったけど、不適な笑みを浮かべていたこともあり怖くなって、この話題を無理やりにでも中断するべく、別の話題をふる。
「め、めいさんはこういう服作りって好きなんですか」
「いや、好きなんかじゃないぞ。この服作りは、わたしの欲を満たすための手段に過ぎないからな」
めいさんは、右手を腰に当てからドヤ顔で私の聞いたことに答える。
「そうなんですか? それならめいさんの欲って何ですか?」
私がそう聞くと、めいさんの目が光る。
「人が嫌がる顔を見ることがわたしの欲だ。あー、もちろん誰にでもやるわけじゃないぞ。服や雑貨を作る代わりに、そいつとどんな服とか雑貨を作ればいいのかを訊きながら何か雑談でも挟んで、嫌がりそうなものを見つけるんだ。それで乃瀬はそのメイド服を着るのは嫌なんだろ?」
饒舌に語るめいさんに気圧されてしまう。
「え、あ、はい……」
「なら訊きたいんだけど、何でメイド服が嫌なんだ?」
「あ、それあたしも気になる。乃瀬ちゃん似合ってるのにね」
「えっと…………その、」
ふたりから無言で見つめられて言葉が詰まる。
「恥ずかしい……から、です」
そんなこと言わせないでよ。と心の中で呟きつつも正直に答えた。
「えーー、何言ってるの⁉︎ もうこのメイド服は乃瀬ちゃんにしか似合わないって言っていいくらい似合ってるのに」
「確かにそうだな、憂梨那が自分で着る用でわたしに頼んできたメイド服だけど、正直に言うなら乃瀬の方が似合っていると思うぞ。憂梨那は逆にピンクより、もう少し落ち着いた色の黒とかの方が似合っているからな」
ふたりからの突然の言葉に顔が赤くなってる気がして、それを隠すように背を向ける。
「に、似合ってなんてないです……」
「そんなに照れなくてもいいんだよ〜」
後ろから春さんの声が聞こえて、優しく頭を撫でられる。
「そろそろこんな場所で話すのも飽きてきたし、店の中に入ってどんな服が着たいのか要望を教えてくれ」
そんなことをされていると、また後ろから、カランカランという音が聞こえてめいさんの声が聞こえてきた。
「置いてかないでよ〜」
私の頭から手を離して、春さんが走り出す。
「私のことも置いていかないでください」
めいさんと春さんが入った扉から私も中に入る。
扉を潜ると、中は未知の物だらけだった。
名前も何もわからない。見たこともない物ばかりで本当に未知の物としか表現ができない。
それを見た私は、地面に足がくっ付いてしまった感覚になった。
「乃瀬、どんな服がいいのか教えてもらいたいから、二階に来てくれ。春、念の為言っておくが、何も触るなよ」
「さ、触るわけないじゃん! 何なに、もしかしてめいちゃん心配性だったりするの〜?」
「いや、そんなことは無いが壊れた場合、春のこれからが大変になると思って言っただけだ。だから、本当に触るつもりがないなら気にしないでくれ」
そう言われた途端、ふざけた様に言っていた春さんが、机の上に置かれている白い何かに伸ばしていた手を、引っ込めた。
「乃瀬早く来て」
手招きをされて、めいさんのいる階段を上がっていく。
「さて、どんな服を作ろうか」
二階に着くなり、机に備え付けられた椅子に座ってから真っ先にそう聞かれて、
「えっと、あの、着ていても恥ずかしくない、服で……」
咄嗟にそう答える。
「具体的には? どんな感じ? 完成のイメージは?」
「……あーー、えーーっと…………」
そんなの全然考えてなかった……。
「もしかして、何も考えてないまま来たのか?」
「はい……、ごめんなさい」
「そっかーー。うーーんと、……具体的にはどんな服を着たいかも考えてない感じなのか?」
無言で首肯すると、めいさんが椅子から立ち上がり、後ろにある棚からスケッチブックを取り出し、開いて中を見せてくる。
「なら、わたしが何着かこういうのを作るから気に入ったのがあったら全て渡すというのでどうだ?」
「えっ! そんな……いいんですか?」
だって、服を作るのって大変なのに……私のために何着も作ることになるなんて。
「もちろん大丈夫だ。でも乃瀬、わたしがお前に服を作る条件、覚えてるよね?」
……あっ!
「もしかしてそれが狙いなんですか⁉︎」
めいさんが私に服を作ってくれる条件。
『服が完成するまで、メイド服しか着てはダメ!』の言葉を思い出す。
という事はつまり、一着作るのに数週間、それが最低でも二 三着作ってもらうという事だから、このメイド服を着なければいけない期間は、最低でも約二ヵ月くらいだ。
「やっと気づいたのか? その嫌そうな顔、すごくいいぞ。もっと見たい」
その顔には笑顔の様なものが貼り付いていて、不気味さを漂わせている。
「念のため訊いておきたいんですけど、何着作るつもりなんですか?」
「とりあえず五着だな」
「…………」
五着……ふ〜ん五着、え、五着も作るの……⁉︎
それでその間、私にはこのメイド服を毎日着ろって言ってるの⁉︎
えーっと、一着作るのに早くて二週間、それが五着だから…………全部早くできても最低十週間……。
「こんなことを言うのは申し訳ないんですけど、それなら大丈夫です……。流石にそんなに長い間メイド服は着たくないので……」
嫌だという感情を抑え込んで、そう言った。
どう考えても、そんなに長い期間、メイド服を着ることはしたくない。
「断れると思ってるの?」
真顔でそんなことを言われて、身体が勝手に後ろに動いて、椅子の背もたれに背中がつく。
「え……」
「もうここでこうやって話している時点でわたしと乃瀬の間には契約が成立しているんだ。それを一方的に破棄なんてできないぞ」
……ということはそれって。
「だから乃瀬はもうメイド服を着続けることは決定しているんだー!」
わははっ、と笑っている。
「それは酷いと思うよ、めいちゃん」
ここに来たことへの後悔の気持ちを感じていたそのとき、下にいた春さんがそう言って二階に上がってきていた。
「どう酷いって言うんだ! これは契約なんだ、服が完成するまでの間、乃瀬はメイド服を毎日着るということで成立したんだ」
「だとしても五個も作る間、ずっとメイド服は可哀想だよ〜」
「なら春も一緒にメイド服を着てあげればいいだろ!」
「あたしはメイド服なんて持ってないから無理だよ〜」
「ん? それならあるぞ。ホントはみみに頼まれて作ってたやつだけど、完成する直前に要らなくなったらしくてな。春とみみは体格が似てるからきっと入ると思うぞ」
「なに、その用意周到みたいな感じ……。でもメイド服着てみたいからあるならちょうだい!」
少し引き気味でそう言っていたのに、次第に前のめりになり始め嬉しそうな声を上げた。
「いいぞ、取ってくるからちょっとそこで待ってろ」
そう言ってから、春さんの横を通り抜けて一階に降りて行った。
「ごめんね、乃瀬ちゃん。さすがに嫌がってるのに無理やり着せるのはよくないと思って言ってみたけど、結局止められなかったよ」
めいさんを見送ってから春さんは私の隣の椅子に座って謝り始めてしまう。
「な、なんで謝るんですか。もともとここに来たいと言ったのは私なので、全然春さんのせいなんかじゃないですよ」
そう、こうなったのはめいさんに服を作ってもらおうとした私のせい。
「だけど、憂梨那ちゃんが居たらこんな風にならなかったと思うから。……だからあたしも乃瀬ちゃんの服が完成するまで一緒にメイド服着るよ!」
「ほ、本当ですか! それなら一つお願いがあるんですけど、私より目立ってください。隣で一緒に歩いていても私の存在が消えるくらいっ」
春さんの言葉を聞いて、なんて呼ぶ感情かわからないけれど、何がが昂った。
「おお! 乃瀬ちゃんが急に元気になった」
そんなことを言われたら昂った感情が一瞬にして落ち着き始めてしまう。恥ずかしくなる。
「…………、口に出してそんなこと言わないでください……」
「……? なんで?」
「なんででもで――」
「おーい春、見つかったから一旦着てみてくれー」
す、と言いかけたところで階段の方からめいさんの声が二階のここまで届く。
「すぐ行くね〜。じゃ乃瀬ちゃん、あたしもちょっとメイド服着てくるから一人で待っててね」
そう言うと春さんは私の返事を待つことなく下へ降りて行った。
「お待たせ〜。ごめんね、十分も待たせちゃって」
目の前にある机に上半身を預けながら、ぐったりしてこれからのことを考え、絶望していると、そう近くで声をかけられたから、顔をあげる。
「じゃーん! どおどお? 可愛いでしょ!」
私が顔を上げると、春さんがそう言ってからクルッとその場で回転する。
春さんの着ているメイド服は、私の桜色とは違い、紫色をしている。
どっちの方が目立つ色なんだろう? と思った。
「私のメイド服と交換しませんか?」
明らかに春さんのメイド服の方が目立たないと思って、口が勝手に動いてしまった。
「乃瀬はその色のメイド服しか着れないぞ」
「わぁっ‼︎」
いつの間にそこに居たのか、めいさんは春さんの後ろでそう声を上げた。
「わ、わかってます……。ちゃんとこれしか着ないのでできるだけ早く服を作ってくださいね」
感情が乗ってない声で、そう返すとめいさんが次はこんなことを言い始めた。
「それは、頑張るぞ。あー、それと乃瀬は服が五着全部完成するまで毎日ここにちゃんと来ないとダメだからな。メイド服をしっかり着てるか確かめないといけないからな」
「えっ……は、はい」
私って、見られていないところでは約束を守らないって思われてるのかな?
「……? あ〜、大丈夫だよ、乃瀬ちゃん。めいちゃんはツンデレなところがあるから、こういう言い方をしてるけど、本当は乃瀬ちゃんのこと心配してるんだよ」
私の心を読み取ったのか、慰められた?
「心配?」
笑いながらそう話しているけれど、正直全く信じられない。
「あ、春、お前何言って――」
危機を感じ取ったのか、春さんがめいさんから逃げ始める。
グルグルと机の周りを回って逃げている春さんをめいさんが追う。
「だってさっき、『乃瀬、ちゃんとここの生活に慣れると思うか?』ってあたしに訊いてきたじゃん」
春さんが走りながら、めいさんの真似をする。
「それで、『乃瀬がここの生活に慣れるまで毎日ここに来るように言って、色々と教えてあげるか』とも言ってたよね」
「おまっ、それ以上バラすなっ」
顔を赤くしながら必死に追いかけていためいさんが、春さんに追いついて、床に押し倒した。
そして背中に
「んーんーんー」
春さんのくぐもった声だけが聞こえてくる。
いま春さんが言っていたことが本当だったら――私はめいさんに心配されていただけということになる。
服を五着作るって言ってたのも、服が完成するまで毎日ここに来いって言ったのも、全ては私のことを心配してくれていたからなのかもしれない。
なんて、それは考えすぎかな?
「めいさん、ありがとうごさいます」
だけど、仮にめいさんがそこまで考えてなかったとしてもお礼を言おうと思った。
「わたしはお礼を言われることなんてしてないっ!」
そう言うと、めいさんは床に押し倒した春さんの背中から退いて、私の前の椅子に座った。
次に春さんが立ち上がって、私の後ろに立った。
「ツンデレ可愛いよ〜」
「お前、声出せないように口輪でも付けてやろうか?」
これは明らかに本気の声だ。
「こ、こわ〜い。めいちゃん怖いからもう帰ろ、乃瀬ちゃん」
めいさんにそんな怖いことを言われて、春さんはその場でしゃがみ込んで私の肩から顔を覗かせて、めいさんの顔を伺っていた。
「帰れ帰れ!」
しっし! 言われる。
「じゃ、乃瀬ちゃん帰ろう!」
そんなことを言い、私の腕を引っ張って一階へと連れて行かれた。
めいさんも私たちに着いてくる。
「乃瀬、毎日一回は必ず来いよ。これは乃瀬の服を作る条件の一つだからな」
念押しするように、そう言われたから、
「はい、明日は憂梨那さんと来てもいいですか?」
と聞いてみた。
「別にいいぞ。わたしは寝ているかもしれないけど、何時に来てもいいからな。それと、鍵開いてるから勝手に店には入っていいから」
「わかりました」
そう返事をすると、めいさんの後ろから春さんの声が聞こえてくる。
「それじゃ乃瀬ちゃん、憂梨那ちゃんと真帆ちゃんと合流しよう」
その手には何か袋を持っている。
「はい」
たぶんその袋には、メイド服を着るのに脱いだ春さんの服が入っているんだろうな、と考えた。
「じゃあね、めいちゃん!」
「また明日来ます」
「はいはい、じゃあな」
そうして私たちは、山の中にあるめいさんのお店を後にした。
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