第8話 大天使様への報告そして③
扉を手前に引き教会の中に一歩踏み入ると
「わっ!」
目の前に金髪で一五六センチのわたしよりかなり背の低い大天使様がいてわたしを驚かしてきました。
「‼︎……こんにちは、カサリカ様」
一瞬驚いたわたしですけどそれを表には出さないで何事もなかったかのように挨拶をしました。
「もーー、アキルもネレマもお姉さんもなんで驚いてくれないのよっー!」
わたしが驚かなかったのが不満なのかカサリカ様は頬をぷっくりと膨らませて地団駄を踏んでます。
そんなこと言われても……。でも危なかったです。これがもしわたしの家だったらって考えるとゾッとします。
でもどうしましょう。もう少し教会の中に入りたいのに目の前にカサリカ様が立っているので入れません。
どうしようと考えていると……
「ほらほらカサリカ様、そちらの方が困っていますよ」
教会の奥からそう言ってわたしより頭一つか二つほど身長の高い淡い水色の髪を背中まで垂らした大天使のネレマ様がこちらに歩いて向かって来ました。
「だってネレマとアキルが一回も驚いてくれないからこうやって教会に来た天使の子を驚かせてるんだよ。辞めて欲しかったらネレマが本気で驚いてよっ」
「なに無茶なこと言ってるんですか。いいですかカサリカ様、驚いて欲しかったらまずは毎回驚かせようとしないで突然やることですよ。そうすれば私たちも突然のことでびっくりしちゃうかもしれないんですから」
「だってー、いっぱい驚いた顔を見たいんだもん」
わたしに背を向けてカサリカ様はこちらに歩いて来てるネレマ様に向かってまだ頬をぷっくりと膨らませた顔で言いました。
「なら尚更ですよ。私たちのことを何回驚かせようとしたと思ってるんですか」
「百回?」
「百万回はゆうに超えています」
ネレマ様が呆れた声色で言います。
「うっそだー」
それにカサリカ様が子供みたいにネレマ様に向かって言います。
「本当ですよ。千五百年以上も前から毎日何回も何回も驚かそうとしてきました」
「そうだっけ?」
「そうですよ」
「じゃあネレマ達が驚かないのは毎日驚かそうとしてるからなの?」
「やっと気づきましたか。ところでカサリカ様、さっきからそちらの方を待たせてしまっているのでこの話を続けるのは後にしませんか?」
「あっそうだった。お姉さんが来てるんだった。じゃあ後でどうやったら驚くのか一緒に考えてね」
そう言ってカサリカ様が教会の中に入っていったのでわたしも中に入って扉を閉めます。
「はい。一緒に考えましょう!」
大天使のお二人の会話を聞いていたわたしは思いました。
あれ? カサリカ様はネレマ様を驚かせようとしているんですよね? それなら一緒に考えても意味ないような気がします……けどカサリカ様が良いって思ってるならそれで良いのかな。
「待たせてしまってごめんなさいね。カナユメさん」
あれ、わたしネレマ様に名前名乗ったことなかったような……。
「全然大丈夫です。あの報告書を渡しに来ました」
そう言ってわたしは手に持っていた封筒をネレマ様に手渡しました。
「報告書ですね。ありがとうございます」
「えっ! 報告書! 見せて見せて!」
わたしが手渡した報告書の入った封筒をカサリカ様がネレマ様の手から奪おうとしてぴょんぴょんと飛び跳ねています。
「ダメです。これは大事な物ですから――」
「隙あり!」
ネレマ様が説明しながら封筒を持ってる手をカサリカ様の顔くらいの高さまで一瞬下ろした瞬間にカサリカ様が素早く奪い取りました。
「あっ!」
「何が書いてあるのっかな〜」
「カサリカ様、返してください」
ネレマ様が取り返そうとするとカサリカ様は教会の中を走って逃げ始めます。それをネレマ様は早歩きで追いかけます。カサリカ様は長椅子と長椅子の間を走ったり捕まりそうになったら長椅子を飛び越えてなんとか捕まらないように逃げながらカサリカ様が奪った封筒を開け始めます。
「ネレマ遅いね」
カサリカ様は無邪気な笑顔でかなり距離が離れたネレマ様にキャハハと笑っています。
わたしも捕まえるのに加わった方がいいんでしょうか? いや余計な手出しはしないに限ります。
「なになに女性の夢の世界が二つあった? …………? なにこれ意味わかんなーい」
カサリカ様は報告書に書いてある重要な要点だけを声に出して読み上げました。
そしてそれを聞いたネレマ様の肩が一瞬ビクッとしたような気がしました。
わたしの気のせいでしょうか?
「あたし外で遊んでくるー」
カサリカ様は報告書には興味がなくなったのか近くにある長椅子に報告書を置いたらまた走り出してわたしがいる教会の扉の前まで来たのでわたしは急いで後ろの扉を開けます。
「ありがとお姉さん、じゃあね〜」
カサリカ様は外に出てわたしに向かって手を振ってくれてます。
「カサリカ様さようなら」
わたしはカサリカ様に挨拶をしてお辞儀をしました。
そして数秒経って頭を上げるともうそこにはカサリカ様の姿はありませんでした。
わたしは教会の周りに誰もいないのを確認して教会の扉を閉めネレマ様の方に向き直ります。
するとネレマ様はわたしのそばに来ていてわたしが持ってきた報告書を見ながら質問されました。
「カナユメさん、貴女本当にこの報告書に書いてある二つの世界があったっていう夢に入ったんですか?」
「はい」
わたしはその質問を肯定しました。するとネレマ様は近くの長椅子に座って思案し始めました。
そして教会の中は物音一つ無くまるでここに音という概念がなくなったかのようになりました。
五分、十分、十五分と何もない時間が過ぎます。
「今から変な話をしてもいいですか?」
突然無音だった教会に声が響きます。
「変な話……ですか?」
「カナユメさんはこれから何か用事とかあったりしますか?」
「いえ、用事などはないですけど聞く相手がわたしでいいんですか」
「ええ、この話は誰にでも出来る話ではないんです」
「そうなんですか? でもどうしてわたしには話せるんですか?」
「可能性があるから、としか。とりあえず聞いて欲しいんです。そして聞き終わったらどう感じたのかを教えてもらいたいんです」
ネレマ様の口振りは何か大切なことを隠しているように感じます。それがなんなのか、わたしにはわかりません。でもネレマ様の『変な話』の中にその答えがあるように感じます。
「わかりました。聞かせてもらいます」
わたしが教会の扉の前でそう言うとネレマ様は自分の座っている長椅子の横を優しく叩いてわたしに隣に座るように促してきます。
わたしはネレマ様の隣に一人分の空間を開けて座りました。
「それでは、始めますね。今から話すのは千五百年以上前のある日のことからです――」
わたしが座ったのを確認したネレマ様が話始めます。
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