第7話 大天使様への報告そして②
お風呂から上がったわたしはキトンとヒマティオンを身に纏いリビングに出ました。
そしてリビングの中心にあるテーブルの椅子に座って時計を見ると現在お昼の十二時を回ったところでした。
「もうこんな時間なんですか」
水が体にかかったあの後その場に座り込んでから五分ほどそのままでいたわたしは少しずつ立ち上がって今度はちゃんと自分にかからないようにしてから水を出してまた五分ほど待ってからお湯になってるのを確認して体についてる泡を流して急いでお風呂から出ました。
そしてわたしは泡を流して体を拭いている時に決めました。もう一人でお風呂なんて入らないっ! ハルユメさんが一緒にお風呂に入ってくれないならわたしはお風呂なんか入らないからっ! と心の中で叫んで誓ったのです。
幸いなことにハルユメさんはわたしとお風呂に入る時いつも嬉しそうにしてくれているので頼みやすいです。
「そろそろ届けに行かないと」
そう呟いてから椅子から立ち上がりテーブルの上に置いてあるさっき書いた報告書を手に持って玄関の扉の前まで行きます。
ここからは完璧な天使のわたしを演じるために感情のオンボタンをオフに切り替えて絶対に外でオンに戻らないように重い岩のような物を置きます。
そしてわたしの中にある感情のスイッチがカチッと音を鳴らして完全にオフになったことを伝える。
靴を履き玄関の扉を開けると突然ムワッと生温い風が吹きわたしの体全体を触れて家の中にまで入ってくる。そして同時に明るい光がわたしの目に入ってくる。眩し過ぎずでも暗過ぎず丁度いい光。
「行ってきます」
わたしは扉を閉め挨拶をしてここから徒歩一時間先にある教会を目指します。
歩き始めてから十分が経ちました。
景色は変わらず三百六十度どこを見ても家、家、家唯一違うところがあるとすればそれは形だけ、
正方形の形の家、二人以上で入るなら一列に並んで順番に入らなければいけないような横が狭い家、どうやって建ってるのか気になる丸い家、形は様々あって同じ形の家は存在しない。
「あー、カナユメだーー」
突然わたしの名前が大声で呼ばれたので声の主を探します。
左右を見る、家が並んでるだけで誰もいない。後ろを見る、わたしが歩いて来た道があるだけで誰かがいるようには見えない。なら前? 目を凝らして見てみると誰かが走ってこちらに向かって来ているのがわかりました。
「あれは……セラミ先輩?」
ここからでは豆粒大の大きさでしか見えないですが背中から生えた羽が見えるので間違いようがありません。わたしたち天使は羽は持ってますが動かせるだけで飛べたりはしないので背中にしまってることがほとんどでセラミ先輩みたいに『カッコいいから出す!』というような理由がなければ邪魔なので出してる人はそんなにいません。
「珍しいねっ、カナユメが家から出てくるなんて!」
わたしの姿を見つけるなり猛スピードで走って来たセラミ先輩が開口一番そんなことを言ってきます。
「こんにちは、セラミ先輩。わたしも家から出たくなかったのですが大天使様に急ぎで報告しなければいけないことが出来てしまい外に出てきました」
報告書の入った封筒を少し持ち上げて冗談を交えつつ家から出た理由を伝えます。
まあ家から出たくないは冗談ではありますが少し本心も含まれています。
「だからそんなカッコしてるんだ!」
「はい、いまから教会に行って大天使様に会うのでこれを着ています」
「あたしはこれ着たくないなぁ、着るの面倒くさいもんっ!」
セラミ先輩は歩いてるわたしの周りをぐるぐると回って羽をバタバタ動かしながらそう楽しそうに言ってきます。
「セラミ先輩、不器用そうですもんね」
わたしは笑顔で言います。
「なんで不器用ってこと隠してたのにカナユメが知ってるの!」
「見た目……ですかね? なんかセラミ先輩はこういう服を着るときヒヌマさんに着せてもらってるイメージがあります」
「え! あたしってそんなイメージあるの!」
「はい、セラミ先輩を見かけるとき隣にヒヌマさんもいることが多いので勝手に私の中でセラミ先輩のお世話をヒヌマさんがしているという変なイメージが出来上がってしまいました」
セラミ先輩は背が低くてヒヌマさんはその逆で背が高いので二人で並んで手を繋いでいるところをみるとまるでお母さんと子供のように目に映るので勝手にイメージが出来ていました。
「もしかして皆にそんな風に思われてる」
「えっ、えっと、だ、大丈夫だと思いますよ? 少なくともハルユメさんはそんな風に思ってなさそうでしたよ」
「ほんとに?」
わたしの隣を歩きながらセラミ先輩が上目遣いでわたしを見てきます。
「はい、ハルユメさんは思ってないです」
セラミ先輩を安心させるように? 力強く言ってあげます。
「他の人は?」
「…………」
「だ、黙らないでよ、皆思ってるんだね」
セラミ先輩の目から段々と涙が出てくる。
「ごめんなさい、少なくともわたしは思ってました」
申し訳なさそうに言います。
「うわぁーー! ヒヌマに言いつけてやるーー」
目から溢れる涙を右腕で拭いながらわたしと正反対に走って逃げて行ってしまいました。
こういうところなんですよね。セラミ先輩が子供みたいに見えちゃう理由は。
「あっ、セラミ先輩そっちはヒヌマさんの家ないですよ」
行ってしまいました。原因はわたしですがセラミ先輩大丈夫でしょうか。
もし次会ったらしっかり謝らないと。
でも今はとりあえず教会に行かないといけないのでこの件は後回しにします。
歩いてまた十五分経過しました。ようやく教会まで半分といったところです。
急に景色が変わって今まで家だらけだったところが広場のような場所に出ました。
あれ? 皆さんこんなに集まって何かあったんでしょうか?
いろんな屋台があって楽しそうな物がいっぱいあります。
そう思っていると近くにいた恰幅のいい男性の先輩天使に出会いました。
「カナユメじゃねえか、珍しいな家から出てくるなんて」
「ダヤハ先輩、こんにちは、やっぱりわたしが外にいるのって珍しいですか?」
「そりゃそうだろ、なにか用事がないと家から絶対に出ないカナユメが外にいるんだぞそりゃもう珍しい!」
そう言ってダヤハ先輩はワハハと豪快に笑います。
「今日は出たくなかったですけど大天使様に報告しなければいけないことができてしまったので久しぶりに外に出ました」
「そうなのか、俺はてっきり祭りに参加するために出てきたと思ったんだけどな」
「お祭りですか?」
「おうよ、十年に一度の祭り『橋道共鳴祭り』」
「はしみちきょうめい祭り? 誰なんですかそんな絶妙にダサい名前をつけた人は?」
「お前知らないのか? この名前を考えたのはコイチ先輩だぞ。最初は皆に反対されていたけど馬鹿みたいにこの名前の良さを皆に解いていたらいつの日か皆が納得してこれになったっていう歴史があるんだぞ」
コイチ先輩と聞いたわたしは一瞬ビクッとなりました。
コイチ先輩は昔わたしに良くしてくれた天使だった。そして五十年前にわたしの目の前でアキル様に殺されてしまった天使。
「そ、そうなんですか」
「らしいぞ、ま、俺はそう聞いただけで本当かはわからないけどな」
ダヤハ先輩はまたワハハと豪快に笑っています。
「そういえばコイチ先輩ここ五十年くらい見ないな、どこにいるんだ?」
またわたしはビクッとしました。
まさかコイチ先輩がアキル様に殺されたなんて他の天使は考えすらしてないでしょう。
「五十年くらい寝てるんじゃないですか? コイチ先輩寝起き悪くて誰も起こしに行きませんから」
だからわたしはここは冗談を言って切り抜ける選択をしました。
「ありえる! 今も寝ていて人間の夢の世界を奪っていたりしてな」
「コイチ先輩ならやってそうで面白いですね」
上手に笑えてるでしょうか? でもこれ以上立ち話をしていたらボロが出る可能性がありそうで怖いのでそろそろ話を切り上げようとします。
ダヤハ先輩の笑い声が終わったのを確認して言います。
「ダヤハ先輩はこれからまた祭りの準備ですか?」
遠回しに言ってみました。伝わってください。心の中で願います。
「おぉ、そうだった。完全に準備中なの忘れてた。じゃあ俺は準備に戻るな」
やった! 伝わった。
「はい、わたしは教会に行って報告書を出してきますね」
と言ってわたしはまた教会に向かって歩き始めました。
家から歩き始めて五十五分が経ちました。
ようやく教会の前まで来れました。
ここは何度来ても緊張しますね。
わたしは教会の入り口の大きな扉の前に立ち緊張した心を落ち着かせ――扉を叩きました。
「入れ」
中から女の人の声で言われてわたしはゆっくりと教会の扉を開けました。
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