第6話 大天使様への報告そして①
わたしはベッドから上体だけを起こして今日やらなければいけないことを口に出して確認します。
「大天使様に少女の夢の世界を報告しなければいけないですね」
わたし達天使は大天使様に夢の世界で何かイレギュラー事が起きたら必ず報告をするように言われてるのでわたしは昨夜見た少女の夢の世界を大天使様に報告しなければいけません。
なのでまずは報告書を書かないといけないのでベッドから立ち上がって寝室を出ます。
「ふぁ〜〜、っ!」
寝室の扉を開けて廊下に出ると不意にあくび出たのですぐに口元を左手で隠してあくびを噛み殺します。
わたしは家の外では弱音などを漏らさず感情もなるべく出さないそんな完璧な天使を演じてます。
でも自分の気持ちをずっと心の奥底に押し込めているといつの日か感情が爆発してしまう可能性があるので家の中でだけなら自分の気持ちを感情を出すようにしています。
「家の中だからって油断してだらしない姿をしないように気をつけないといけないですね」
左手で口元を隠しながらつぶやく。
寝室の扉を開けるとすぐ目の前にお風呂場の扉があります。
そして寝室を出て右を向いて十歩ほど歩くとリビングに繋がる扉があります。
リビングの扉を開けて入ると左側には大きな窓があってその隣に四段の棚が設置してあります。
「報告書は確かここに……ありました」
わたしは棚の前まで行って三段目から報告書を一枚とそれを入れる封筒を取り出してリビングの中心にあるテーブルに置いてわたしも椅子に座ります。
報告書の項目は
・その夢はどんな感じだったか
・人間の性別
・夢の世界の広さ
の三つだけでした。
わたしは各項目を書いていきます。
「性別は女性で夢の世界が二つあり一つは大きい森もう一つは薔薇が地面を覆い隠すように一面に咲いていました」
そして世界の広さですけど、どう説明すればいいのかわからなかったのでわたしが森から出るまでにかかった時間を書くことにしました。
そして書き終わったのでペンをテーブルに置いて近くに置いておいた封筒に紙を入れます。
「書き終わりましたしお風呂に入ってから大天使様に渡しに行きますか」
誰もいない空間で呟いてから一旦寝室に向かってお風呂に入る準備をします。
寝室に入ってすぐのことろにあるクローゼットを開けてお風呂から上がったら着るキトンとヒマティオンを取り出してお風呂場に向かいます。
普段はキトンやヒマティオンは着ませんがこれから行く場所は大天使様のいる教会なので天使らしい正装でいかなければならないのです。
脱衣室に着いたわたしは手に持っていたキトンとヒマティオンを白色の乾燥機付き洗濯機の上に置いて着ているパジャマを脱いでお風呂に入ります。
「やっぱり跳ねちゃってますね」
お風呂場に入ったわたしはまず正面にある上半身を映してる鏡を覗いて髪の毛が跳ねてないか確認しました。
するとやはりわたしのダークブラウン色のショートヘアーの髪の毛が所々重力を逆らってるような感じで上に向かって立っています。
「なぜこんなに毎日毎日跳ねちゃうんですか」
わたしは憤り感じて誰もいないお風呂場で自分の髪の毛に向かって文句を言います。
なんでわたしの髪の毛はこんなに太いんでしょうか?
細い人が羨ましくなります。
「なんて、そんなこと考えてても意味ありませんね。早く髪の毛と身体を洗って大天使様に報告書を提出しないと――」
そう思ってシャワーのレバーを捻ると
「ちゅめたっ」
突然わたしの身体を冷たい水が襲ってきてわたしは変な声を出していました。
咄嗟にレバーをまた捻って水を出ないようにしました。
「あー、もうやだ〜」
シャワーを止めてからわたしはその場にへたり込んでしまった。
そう実はわたしは水が大の苦手で手に水が当たるだけでも無理で雨の日なんて外出なんて絶対にできません。でもハルユメさんが毎日のようにわたしの家に来てくれるので水を触るようなことは全部やってくれてお風呂の時もそうでした。
いつもハルユメさんが先にお風呂に入ってお湯になったらわたしを呼んでくれていました。
だからわたしは水に触れることがここ最近なくなっていて油断していました。
今はハルユメさんがわたしの家にいなかったんでした。
「ハルユメさん……帰ってきて……」
泣きそうな声で深刻そうに言いましたがハルユメさんは自分の家に帰っているだけで別に死んじゃったなんてことはないですが今のわたしに取ってハルユメさんがいないことはかなり死活問題です。
「も〜お風呂なんて嫌だ」
なんで昨日ハルユメさんがいる時にお風呂に入らなかったのわたし。
でもそんなことを考えてても仕方ないので立ち上がってシャワーベッドをお湯の張ってない湯船に向けてレバーを捻って三分ほど待ってからシャワーベッドから出ている水を下から上に一直線にチョップするような感じで触って温度を確かめます。
「つ……めたくない」
ぎゅっ、と閉じていた目を開けたわたしはお湯が出てるシャワーを左手に持って体にお湯をかけていく。
「あったかい〜」
誰にも見られてないのを良いことに普段は言わないことを言います。
「たまには一人で入るのも良いですね〜」
……最初の試練を突破したらですけど。
普段はハルユメさんと入るのであったかいと思っても絶対言わないように気をつけていますがそろそろハルユメさんと出会ってから八十年ほど経つのでハルユメさんとこの家で二人きりの時は丁寧語を辞めて一人でいる時と同じ感じで時々ならハルユメさんと砕けた感じで話すのもありでしょうか。
そんなことを考えながらお湯を髪の毛にかけて右手でゴシゴシして髪の毛を濡らしていきます。
「シャンプーは……ありました」
お湯を止めシャワーベッドをホルダーにかけて鏡の下にあるシャンプー、ボディソープ、リンスのボトルからシャンプーのボトルを見つけて左の手のひらに二プッシュして右手と左手を合わせて両手にシャンプーをつけてショートヘアーの髪の毛を洗い始める。
「ここには〜ない〜貴方の感情〜わたしはさがすよ〜どこま〜でも〜♪」
なぜかずっと昔から知ってる歌を歌ってお風呂場に響かせる。
そして一曲歌い終わると鏡に映るわたしの髪は泡でモコモコになった。
「それにしてもあの夢の少女は何者なのでしょうか?」
わたしはシャワーで泡を流しながらまた少女のことを考え始めます。
まず夢の世界が二つある事もそうですがあの楽器の演奏です。
わたしは何百回も夢の世界で人間がピアノ、トランペット、ギターなど色々な楽器を演奏しているのを聞いたことがありました。でも昨日のようにわたしの心をその場に縛り付けるような演奏は聞いたことがなかったです。なのにあの少女のヴァイオリン……あれを聞いた時わたしはまさにそこに心が縛り付けられて動けなくなっていました。ずっと聞いていたい、永遠に聴けたらいいなという気持ちがありました。だからなのでしょうね、最後見られた時あんな気持ちになったのは。
冷静に考えてみると答えは簡単に出た。
でも本当にそれだけなの? と聞かれると自信を持って「それだけです」と言えない。
まだなにかわたしの心の奥には違う気持ちがあるような気もしてます。
まあ、それがなんなのか聞かれても答えられないんですが。
とそんなことを考えていたら頭の泡を流し終わったので次はリンスをつけてからボディソープで体を洗います。
「それにあの世界は凄かったです。薔薇の花が広いあの世界を全て覆い尽くしていました」
でもなぜ薔薇があんなにいっぱいあったのでしょうか。疑問に思います。
あの薔薇にはなにか特別な意味があったのでしょうか?
たとえば薔薇の花言葉で
九百九十九本で『何度生まれ変わってもあなたを愛する』
千本で『一万年の愛を誓う』だったりがあります。
薔薇は花言葉が恋人や好きな人に贈る花なのであの少女には誰か好きな人がいてずっと待っているのでしょうか?
「でもわたしは天使……そういう相手の事情なんて考えてはダメです」
どうにか相手を思ってしまう気持ちを押し込む。
「たとえあの少女が誰かを待っていたとしても……」
続く言葉が出せない。
ここは、見られたからには魂を壊します。って言えればいいのにやっぱりわたしにあの少女の魂を壊せるの? という疑問が頭に浮かんでしまって否定できない。
ダメですね、わたしは。あの少女を前にした時ちゃんと魂を壊せるのでしょうか。
「って、ダメダメ。もう少女のことを考え始めると必ず最後はちゃんとわたしは少女の魂を壊せるのかって思っちゃって暗い気分になっちゃいます」
ひとまず今はもう少女のことは考えないようにします。
「あとは体を流したら上がりますか」
頭の中から少女のことを考えてしまう思考を追い出すために言葉に出して言う。
そしてシャワーベッドをホルダーから取ってお湯を体にかけま――
「っ〜〜! きゃーー」
長く考え込みすぎてしまっていたのかシャワーから出たのはお湯ではなく水でまたその場にへなへなとへたり込んでしまった。
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