第2話 人間に恋をしてしまったかも知れない①

「――ぱい」

「――カナユメ先輩、カナユメ先輩」

 目の前で手を振って名前を呼ぶハルユメさんの声でわたしは過去を思い出すのをやめます。


「ごめんなさい。少し昔のことを思い出していました。ハルユメさんと話してたのに急に黙り込んでしまってすみません」

 そう言ってわたしは椅子から立ち上がりハルユメさんに謝ります。


「それは大丈夫なんですけど先輩は大丈夫ですか?」

「……? 何がですか?」

「先輩さっき黙ってる時に怖い顔? いや、怯えてる様な顔? をしていたので大丈夫かな? って」


「そんな顔してましたか?」

 そんな顔をした覚えはないと思いましたが思い出していた内容が内容なだけに否定できません。


 それにハルユメさんは本当に心配をしてくれている様でした。

「していましたよ。昔の怖い事でも思い出していたんですか?」

 心配そうに聞いてくるハルユメさんを前にわたしは困ってしまいます。


 なんて答えるべきでしょう?

 考えます。

正直にアキル様にわたしの先輩が殺されるところを思い出してしまっていました。なんて言えるはずがありません。

 それにこれをハルユメさんに話すわけにはいかないのです。

 話した事によりわたしだけがアキル様に殺されるだけなら別に構いません。

ですがこれを話すと聞いた人物もアキル様に殺されてしまいます。

なので絶対に言えません。

 ですが本当になんて答えるべきでしょう。

嘘をつく訳にもいきませんし本当のことを言う訳にもいきません。


 ならわたしの昔のことを話すのはどうでしょうか。

「さっきは……昔のわたしのことを思い出していました」

 話すのに少し間が空いてしまいましたがハルユメさんはさほど気にしている様子はありません。

「え、先輩の昔ってどんなだったんですか?」

 それよりわたしの昔に興味津々と言った感じで聞いてきます。


「わたしの過去なんかに興味があるんですか?」

「はいっ、あります」

「じゃあ、少しだけ話しましょうか」

 やったー、と言ってハルユメさんはわたしが話し始めるのを椅子に座って待っています。

 話した内容は昔のわたしがどんな感じだったかなどわたしの先輩の怖かったことなどを話しました。

 先輩のことは話しても大丈夫なところだけを話して名前などは出しませんでした。


「えー、先輩の先輩ってそんな怖い人だったんですか。よかったー、カナユメ先輩が怖い感じにならなくて」

 話し終えてハルユメさんが引き攣った笑顔で最初に言った言葉がこれで面白かったです。


 そしてその後も談笑をしてもう時期人間の眠る時間になります。

「そろそろ人間の皆さんが眠る時間ですね」

 わたしがそう言うとハルユメさんは思い出したかのようにいいます。

「もうそんな時間なんですね。今日の人間はまだ夢の世界が多いといいなぁ」

 ハルユメさんが先ほどとは違いテンションが下がった声で言います。


 やっぱりハルユメさんみたく思うのが普通なんでしょうか?

 わたしは夢の世界に入ったら感情を殺し、夢の世界を奪い、もう夢の世界が少なくなったら自分でその夢の世界の人間を探して魂を壊しています。

 とはいえわたしもできれば人間の魂を壊したくはありません。

 でもハルユメさんみたく思ってる優しい天使が人間の魂を壊すなんて嫌な思いをして欲しくありません。

 でも夢の世界を奪い終わった人間は魂を壊さないといけないんです。

でないと天界の一層――人間が住む場所――に夢の世界を失った人間が自我を無くし獣のようになって暴れてしまうからです。

 だからそういう嫌な思いをする役割はわたしみたいな天使が率先して人間の魂を壊した方がいいと思っています。

 優しい天使にはあの魂を壊す時の独特な感触は味わって欲しくない。

 脳裏に焼きついて消えないあの断末魔を聞いて欲しくない。


「ランダムで人間の夢に入るのは嫌ですよね」

「そうなんですよ。自分で入る人間の夢を選べたらいいのになぁ」

 という会話をして最後にさようならと言ってハルユメさんはわたしの家から自分の家へと帰りました。


 ハルユメさんが帰ったことで静かになってしまった家でわたしはハルユメさんより少し早めに寝ることにします。

 着ている服を脱ぎパジャマに着替えベッドに仰向けになり目を瞑って寝ます。

「おやすみなさい。ごめんなさい」

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