魔法少女の言い訳
寄鍋一人
抜け出す言い訳
昼下がりの授業中。お腹いっぱいになって太陽の光にでも当たれば、誰だって眠くなる。
俺も例外じゃなかったが、俺を呼ぶ声が癖の強い語尾とともに直接脳内に響いて目を覚ました。
(タクミ! 敵が来たルン! 早く変身して戦うルン!)
重い瞼をこじ開けつつ、ルンと弾みそうな妖精に脳内で返事をする。
(こんなときに……)
(早くしないとこの学校が襲われちゃうルン!)
そんなに叫ばれちゃ、おちおちうたた寝もできやしない。半ば強制的に、俺は立ち上がって手を挙げる。
「先生、お腹が痛いのでトイレ行ってきていいですか」
「なんだ、食べ過ぎか。おかわりもほどほどにしとけよー」
「気を付けまーす」
クスクスと笑う奴らを横目にそろりと教室を出て、トイレには入らずに素通り。階段を駆け下り、誰にもバレないように外に出る。
なぜバレないようにかって?
「早く変身するんだルン!」
「あーもうっ! 分かったってば!」
どこからか湧いて出た妖精に急かされて、服に忍ばせていたステッキを渋々振り回す。
「ミラクル、マジカル、メイクアップ!」
何のひねりもない謳い文句を叫べば俺の体は光に包まれ、Tシャツとズボンは消えてフリルが付いたスカートとブラウスのようなものを身に纏う。
頬もチークでほんのり赤く染め、どういう仕組みか分からないツインテールを携えれば、華麗な魔法少女に変身する。おまけに、男として付いているはずのモノもなくなるという、はた迷惑なオプション付きだ。
「クソ、めちゃくちゃスース―する……」
「仕方ないルン。本当は女の子にしか適性がないはずのに、なぜかタクミは適正値が高かったんだルン」
「だからって、わざわざ女にする必要ないだろ」
今の俺を見れば、絶対に揶揄われるに決まってる。なんせ顔と背丈はそのままで女になってるんだから。
だから俺はこいつに呼ばれたら、誰にも怪しまれないように必死に言い訳を考えるしかないのだ。
魔法少女の言い訳 寄鍋一人 @nabeu
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